(一・五)国際平和委員会

文字数 1,497文字

 美砂江が死に、誠が死に、岡本が死に、では香出菜のノートはどうなったかと言えば、広島日報のデスク、立野辰男の手にあったのである。そして誠と岡本の殺害を企んだのも、実はこの男であった。なぜなら香出菜のノートの中に出てくる国際平和委員会という組織の、立野は日本に於けるエージェントの一人だったからである。
 その後香出菜のノートは、立野から日本のエージェントのトップへと密かに渡った。

 ではここで、国際平和委員会の計画に沿って今後起こるであろう事象について、香出菜のノートから引用してみよう。
『広島、長崎の原子爆弾爆発によって全面降伏した日本に於いて、敗戦後アメリカ合衆国の占領支配の名の下に、我々の政策が次々と実行されるであろう。先ず我々は勤勉なる日本人の精神を攻撃破壊する為に、様々な手段を行使する。例えば欧米の華々しい物質文明を輸入し、日本人を物質文明の虜と為すのである。日本人よ、物質的豊かさを得る為にはせっせと働き金を稼ぐのだ。お金がすべて、お金があれば何でも手に入る、お金がなければ幸せにはなれない、お金は正に神様なのだと、洗脳する。こうして日本人を、弥が上にも経済奴隷へと駆り立てるのである。
 その際の大衆洗脳装置として役割を果たすのが、新聞、ラジオ、TVといったマスメディアである。TVは白黒からカラーへと、マスメディアも物質文明と共に進化を果たすであろう。勿論経済奴隷たちには、労働と金銭の他に、人生の楽しみ、所謂娯楽、趣味を与えねばならない。スクリーン、スポーツ、セックス……。これらによって、彼らに日頃の労働の辛さや不満を忘れさせ、あたかも自分たちが生き甲斐、存在価値を見出したかのような自己満足と錯覚に浸らせるのである。こうしておけば彼ら経済奴隷たちは、何の疑問も不満も抱くことなく、またあくせくと重労働に励むのである。
 加えて政治的にも、経済奴隷たちがあたかも主役であるかの如き体制を構築する。所謂民主主義である。日本は米国の植民地として、東アジアに於ける民主主義かつ資本主義の一翼を担い、共産主義陣営であるソ連、中国と対峙してもらわねばならない。その為に選挙を実施し、国民否、経済奴隷の代表として政治家を選出する。しかしこの政治家こそが、我等真の支配者のしもべ、傀儡、操り人形なのである。
 こうして日本は、敗戦から一転経済大国へとのし上がってゆくであろう。世界はこれをミラクルと呼び、称賛するのである。しかしどれほど物質的豊かさを手に入れようとも、日本という国家は何処までも第二次世界大戦の敗戦国であり、敵国であり、世界唯一の被爆国であるという十字架を背負い続けねばならない。その為にも来たる第三次世界大戦の開始まで、あくまでも日本は米国の植民地という立ち位置にいてもらわねばならないのである。
 そして我々の第三次世界大戦に向けた計画は国際社会に於いて、また日本に於いても、着々と進められてゆくのである。例えば日本では敗戦国であるが故に一旦は戦争と軍備、軍隊を放棄させるが、その陰で徐々に軍事力を復活させる。警察の予備的組織から始まり、自衛隊へと発展させるのである。また日本には、原子力による新世界の創造にも貢献してもらう。即ち率先して原子力発電の開発に従事してもらうのだ。その開発拠点は、東海と呼ばれる地に設置されるであろう。
 こうして日本全土が資本主義経済と原子力開発に邁進する間、沖縄は米軍の支配下に置かれるであろう。沖縄には大規模な米軍基地が造られる。しかし表面上は日本の領土として、沖縄返還を行わなければならない。時期的にそれは、一九七〇年代前半になるであろう』
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