第8話 流血

文字数 7,374文字

ロレンツォとニコーラが次に迎えたのは、エリヤとクロエという若い男女。結婚を間近に控える村の希望である。
ダーク・ブロンドの短く刈った髪。頬だけチェリー・ピンクの白い肌とピーコック・ブルーの瞳をもつ背の高い青年がエリヤ。爽やかである。服装は、ダビデと全く同じ。
振向いた彼が招き入れたクロエは、マルーン・ヘアを肩まで伸ばし、エクル・ベージュの元気な肌に、大きなココア・ブラウンの瞳を輝かせている。彼女の服装は、サマンサと同じである。
ニコーラがレコーダーのスイッチを入れ、自己紹介を終えると、ロレンツォが口を開いた。
「エリヤ。君の仕事は何かな。」
「村人の一人さ。」
アシェリと同じ返事である。自分を飾らない愛すべき回答。ロレンツォとニコーラは、小さく微笑んだ。
「君は?」
「私も同じ。」
クロエは、大きな瞳でロレンツォを見つめてから、エリヤの方に顔を戻した。二人は微笑み合っているが、ロレンツォは構わない。
「二人の出会いはこの村?」
エリヤは、照れ笑いを浮かべた。
「出会ったと言うか、生まれた時から一緒なんだ。最初がどうだったかなんて、覚えてないよ。」
この村で育った若者には、どこか抜けている様な印象が漂う。
ダビデの話が正しければ、彼らは第三世代。
偏った教育を受けた者が教育をする側に回った結果がこれ。親の理想が、極端にデフォルメされているのである。
ロレンツォは、説明を補足した。
「いや、そんな事まで聞く気はない。ダビデが、村の血を絶やさないために、よそから人を連れてきたと言ってたから、気になったんだ。じゃあ、君達は、選ばれし二人と言うことかな。」
思わぬ誉め言葉に、エリヤとクロエは、また、うれしそうに見つめ合った。
恋する二人は微笑ましい。ロレンツォは、笑顔で質問を続けた。
「この村の生活はどう。」
「どうって?」
エリヤが不思議そうな顔を見せると、ロレンツォは言葉を変えた。
「退屈じゃないか。外に出れば、いろんな遊びがある。テニスにゴルフ。食べ物だって、酒だって。劇を見たり、コンサートに行ったり。君達ぐらいの若者は、一生に一度の大切な時間を楽しんでる。」
エリヤは、改めてクロエと見つめ合うと楽し気に笑い、素直な瞳をロレンツォに向けた。
「確かにスポーツはいいよ。でも、テニスとかゴルフとかって言っても、細かいルールを増やしただけで、結局はボールの打ち合いと、穴にボールを入れるだけだよ。見た目に拘らなかったら、この村の中のどこだって、同じ楽しさが味わえるさ。」
彼らが常々議論している内容だった様である。エリヤの説明は終わらない。
「食べ物だって、本当にそんなに食べる必要があるかな。人間以外に、アイスクリームを食べる動物がいる?食べ物に長い名前がついたって、急においしくなるわけじゃない。酒だって、自分でつくれるよ。種類が気になるのは、飲み過ぎてるからだ。劇もコンサートも楽しいだろうけど、休み時間の冗談や鼻歌でも十分楽しいし。僕からすれば、外の世界の人は退屈過ぎるんだよ。」
エリヤと目が合ったニコーラは、小さい拍手で敬意を示した。
微笑むクロエの横で、エリヤは、決め台詞を口にした。
「自分が当たり前と思ってる生活だけが正解だなんて、決めつけないでほしいな。」
ロレンツォは、何度か頷いた。
「君は、この村が本当に好きなんだな。ダビデが信頼するわけだ。」
エリヤとクロエは、うれしそうな表情を浮かべた。ダビデの存在は絶対の様である。
ロレンツォは、微笑むだけのクロエを見つめた。
「クロエ。君はどうなんだ。君もここの生活がいいのか。」
クロエは、エリヤの顔を覗き込んだ。微笑むエリヤが見つめ返し、小さく頷くと、クロエは初めて口を開いた。
「分からないわ。ここで育ったけど、将来は別。何があるか、分からないから。でも、きっと、エリヤのいる所にいるわ。」
少し含みがあるのは、彼女が外の世界に興味を持っているからで間違いない。おそらく、彼女の感性は普通である。喋るのはロレンツォ。
「この村に、最近、変わったことはないかな。当然、誘拐の前。君が感じたままでいいんだ。」
クロエは迷わない。
「ないわ。何も。生まれた時から、ずっと同じよ。」
クロエは、話しながらエリヤの方を向き、微笑んだ。
ロレンツォは、恋する二人の無駄な時間に耐え、話を聞き続けたが、総じて、アシェリの話と変わりはなかった。
一通り聞くべきことを聞いたロレンツォは、例の呪文を唱えた。
「じゃあ、本題だ。誘拐された時の状況は?」
エリヤは、クロエと顔を見合わせて頷いた後、口を開いた。
「僕達二人とも、何も覚えてないんだ。疑うのは分かるけど、本当さ。」
ロレンツォとニコーラは、当たり前の様に、ただ頷いた。

ロレンツォの許可を得ると、エリヤとクロエは丁寧に挨拶をし、テントから出るために立ち上がった。ニコーラは、可愛い二人の背を見つめ、ロレンツォは、住人のリストに二人の聴取時刻をメモした。
エリヤとクロエは、後はスライダーを開けて、外に出るだけで解放される筈だったが、ここにきて小さな事件が起きた。
テントの外に、十歳ぐらいの男の子が、一人で立っていたのである。
服装はダビデ達と同じで、袖や裾をロール・アップしている。
ストレートのブロンドが美しい。
ニコーラは、優しい表情をつくった。
「次は君の番かな。お父さんとお母さんは?」
男の子は、口を開かない。
ロレンツォは、男の子の名前を確認するために、リストに目を戻した。
口を開いたのはエリヤ。
「この子はケイデンだよ。カーソンの所の。」
ロレンツォのリストの情報とは別である。
「ダビデからは、この子はイーサンの子と聞いてる。あと、イーサンもカーソンも帰って来てない。」
クロエは、表情を変えないケイデンにそっと寄り添うと、肩を抱いた。答えたのはエリヤ。
「イーサンは死んだよ。その弟がカーソンさ。あなたの言った通り、カーソンはまだ戻ってない。」
ロレンツォは、ケイデンを支えるクロエの手に力が入るのを見た。
「じゃあ、その子は一人?」
エリヤもケイデンに近寄ると頬に手を添え、微笑んだ。喋るのは、振り返ったケイデン。
「村の皆といるんだよ。一人じゃないさ。」
ニコーラは、優しいエリヤの答えに微笑むと、両手を広げて、ケイデンに声をかけた。
「ケイデン。おいでよ。少し話そう。」
ケイデンはニコーラの方を見たが、その場を動くことはなかった。代わりに答えたのはエリヤ。
「ケイデンは話さないよ。最近だけど。多分、話せないんだ。」
ロレンツォとニコーラは、言葉を発したエリヤの顔から、ケイデンの方へゆっくりと視線を移した。二人の瞳は、ゆっくりと哀しい色に染まっていった。

住人のヒアリングは、陽が落ちる頃には滞りなく終わり、応援に来た連邦捜査局の面々は、その日のうちに帰路に就いた。車窓から出た管理官の左腕は、続く車両で見えなくなるまで振られていた。
ロレンツォが立ち尽くしたのは、森に置き去りにされた様な寂しさを感じたから。
間もなく、バディがいないことに気付いたロレンツォは、歩きながら村を眺めた。
スーツ姿のニコーラを見逃すのは不可能。
ロレンツォは、リアと楽し気に話すニコーラを一秒で見つけた。絵になる二人である。
ニコーラの口元は忙しく動き、リアはのけ反り、手を叩いて笑っている。確かに気は合っている。
ロレンツォは常々思うが、ニコーラは女性と一緒だとよく喋る。

ロレンツォは、村の中を少し散歩することにした。ニコーラに気を使ったのである。
村の数人と会話したせいで、少し歩くと挨拶もされる。
結果、ロレンツォは愛想笑いを浮かべたまま、歩き続けた。かなり機嫌のいい男である。
但し、それは彼だけではない。村の住人の表情は一様に明るい。渋い顔をしているのはダビデぐらい。
本当に、誘拐事件など、なかったかの様である。
間もなくテントの列が終わり、深い森の前で足を止めた時、ロレンツォは、一人でいるケイデンを見つけた。表情のない、どこか暗いオーラをまとう少年。
ロレンツォは、手を挙げて、静かに声をかけた。
「ヘイ。」
ケイデンは、目だけをロレンツォに向けた。動きはない。
その瞬間、ロレンツォの頭に、寂しそうな子供の姿がフラッシュ・バックした。

激しい雨の中、しゃがみ込む子供。Tシャツは薄汚れている。
足は裸足。髪の色はロレンツォと同じ。顔は細い腕で隠れている。
子供に向かって、大勢の大人が走り寄る。
髪の色が同じ大人が、子供を抱き寄せ、顔を隠していた子供の手が除けられる。
子供は怯えているのか、顔を大人の方に向けることはなく、目も閉じている。
大人が構わず、頬ずりし続けると、子供はゆっくりと瞼を開く。
冷めた瞳の色は、ロレンツォと同じ。顔つきも、ロレンツォに似ている。
雨は彼らの肌を容赦なくたたき続け、子供が震え始める。

顎を小さく上げたロレンツォは、ケイデンに向かって、ゆっくりと歩み寄った。
ケイデンが歩き始めたのは、会話が出来るぐらいの距離まで二人が近づいた時。
しかし、ケイデンは、そのままロレンツォの横を通り過ぎると、テントの方へと向かった。ケイデンは、ロレンツォから逃げたのである。
しばらく、ケイデンの背中を見つめたロレンツォは、振り返ると、暗い森を眺めた。
五十年の長きに渡って、外の世界を拒絶してきた森は、ダーク・グリーンの木の葉で、夜の暗い空気を包み込んでいる。一度足を踏み入れると外に出られない錯覚を与える深さ。
ロレンツォは、無限の葉の揺れる森を眺め、鳥や虫の声に耳を澄ました。
やがて、暗がりに目が慣れ始めた頃、ロレンツォは、木の葉が極端に少ない範囲がある事に気付いた。
奥行きが感じられ、道の様である。
昼間に森に入った保安官が、捜査のために枝を落とした訳ではない。足元の木の葉の量が、それを教えている。
好奇心に駆られたロレンツォは、吸い込まれる様に森に足を踏み入れた。
スティック・ライトで照らしながら、歩みを進める。枝を避ける必要もない。
やがて、ロレンツォは一つの結論に至った。
これは道である。
この道はどこまで続くのか。距離が長ければ、ニコーラに連絡しなければならない。
ロレンツォの頭に浮かんだのは、楽し気にリアと話していたニコーラ。
気を利かしたつもりなら、中途半端ではいけない。
ロレンツォは、取敢えず足を進めてみることにした。

ロレンツォが異変に気付いたのは、それから二分後。
彼の目についたのは大きな石である。絶対に一人で持ち運べないそれは、丘そのもの。
周りには木も草もなく、地面はむき出し。
ロレンツォの目が留まった理由は、石が光っていたから。ほのかなエメラルド・グリーン。
ロレンツォは、小さな幸福を感じた。
きっとヒカリゴケ。シストステガか何か。
ロレンツォは、石に歩み寄ると、静かに光の源を撫でた。
期待したのは、コケの有機的な触感だったが、ロレンツォの指が触れたのは確かな岩肌だった。
ロレンツォの違和感を、もう一段深めたのは、光る範囲。
ライトの当たらない場所が光っている。
ヒカリゴケは光を反射して光るもの。自分では発光しない。
ロレンツォは、光る物質に関する記憶の引き出しを順番に開けた。
岩肌を撫で、触感からも記憶を刺激する。
大した時間ではなかった筈である。
間もなく、物思いにふけっていたロレンツォの鼻から、何かが垂れた。普通は鼻水である。
暗闇の中、無駄に周囲に目を配ったロレンツォは、ハンカチを出すと鼻を拭った。
ロレンツォは、しまおうとしたハンカチにも微妙な違和感を持った。
ハンカチに付着した液体の色が濃いのである。
ロレンツォは、スティック・ライトでハンカチを照らした。
シグナル・レッド。
鼻血である。
村に戻れば、住人と顔を合わせなければならない。鼻栓は無様である。無事に抜ける方法はあるのか。
悩めるロレンツォの右手の甲を襲ったのは、何かがすり抜ける様な感覚。虫かもしれない。
しかし、ロレンツォを襲ったのは、そんな退屈な日常ではなかった。
手の甲をライトで照らしたロレンツォは、肌から滲みだす血を見つけた。肉の薄い場所かもしれない。
腹の底で生まれたざわつきが、一瞬で胸まで広がる。
血を拭き取っても、肌に傷はない。
ロレンツォは左手を照らした。やはり血が滲んでいる。
ロレンツォは、神経を研ぎ澄ました。他に違和感があるのは脛。
ロレンツォのジャッジ。
彼は、全身から出血している。
ロレンツォは悩んだ。無事に抜ける方法はあるのか。

その頃、ニコーラは、リアと話すのに夢中になっていた。
彼がこんな気持ちになるのは久しぶりである。
この村の住人は、基本的に言葉に棘がなく、話していると癒されるが、人が良すぎて、つまらない。しかし、この村の出身ではないリアは、村の生活で心が洗われたのか、村の住人に共通する穏やかさと、都会で身につけた賢さを併せ持っている。ニコーラの理想である。
自分の全てを晒して笑い、リンチで失った左足の小指のことを思い出した時、ニコーラは、自分の仕事を思い出した。
トリガーは、彼の心ではない。遠くから聞こえた人の言い争う声。
程なくして、響き渡ったのは女の悲鳴。
「済まない。」
リアに断りを入れたニコーラは、声の方へと足を踏み出した。
テントを区切る通りは、村の端まで真っ直ぐ通っている。通りに駆け出したニコーラは、開けた視界に、騒ぎの源を見つけた。
口論をする男達。
中心にいるのは、シグナル・レッドに染まるロレンツォ。焚火のせいではない。確かな赤。
両脇でロレンツォに話しかけているのはダビデとアイザック。
少し離れて、何人かが続いている。
通り沿いに集まる住人に、間もなくリアの姿も混ざった。
ダビデとアイザックが、ほぼ同時にロレンツォに話しかけるのは、おそらくロレンツォが無視し続けているから。
ニコーラは、怒声の中のロレンツォの言葉を聞き分けた。
「いいから、僕に近寄るな!離れろ!悪いことは言わない!」
ロレンツォは、食い下がるダビデを無視して、周囲に声をかけた。
「皆もそのまま止まるんだ!来るな!」
住人達は、言葉のままに動くことを止めた。
二秒で気付いたロレンツォは、言葉を急いだ。
「動くのは構わない!僕には近付くな!危険だ!」
怒鳴り続けたロレンツォは、やがて、ニコーラの姿を見つけると、五メートル程手前で立ち止まった。自分の言葉の通り、ロレンツォは、ニコーラとの間に距離をとったのである。
言葉のないニコーラの前で、ロレンツォは両手を大きく広げた。
「皆がここに近寄らなかったのは、多分これのせいだ。」
血だらけである。
言葉を失ったニコーラが頷くと、ロレンツォは静かに言葉を続けた。
「水が欲しい。全身を洗いたい。あと、悪いけど、僕の服をホテルから持って来てくれないか。このままじゃ、車に乗れない。」
ロレンツォは、ニコーラの返事を待たずに、その場にしゃがみ込み、地面に腰を下ろした。
全身からの出血とダビデ達との怒鳴り合いのせいで、ロレンツォは疲れ果てたのである。

最初に動いたのはダビデ。彼が目を向けた先にいたのはリア。頼れる彼女。
「水だ!」
ダビデの指示で、リアは何人かに声を掛けると、井戸水を汲みに走った。
ダビデは、アイザックを見た。
「穴を掘るぞ!」
アイザックは、住人の中からエリヤを探し出した。クロエと一緒の彼は、見つけやすい。声を上げたのはアイザック。
「掘る物を持ってこい!」
指示を終えたダビデは、空いた敷地に向かって歩き出した。洗い場をつくるのである。
ニコーラは、すべてが回り始めるのを見届けると、ロレンツォに声をかけた。
「すぐにホテルに行くよ。」
ロレンツォは、何も言わずに手を挙げた。

間もなく、洗い場を準備し終えたダビデは、汗も拭かずに、ロレンツォの元に向かった。
血だらけのロレンツォはしゃがみ込んだまま。口を開いたのはダビデである。
「俺の言う事でも聞くか?」
ロレンツォは、顔を上げると、力なく頷いた。

ロレンツォは、ダビデの指示に従い、洗い場に向かった。
松明でぼんやりと照らされる穴は、この短い時間で掘ったにしては大きく、深さもロレンツォの膝下ぐらいまではある。
水が漏れない様に、テント生地が敷き詰められているのは、工夫の後かもしれない。
リア達が運んだ水が並ぶと、ロレンツォは周囲を見渡し、血だらけの自分を見つめる住人達に語り掛けた。
「体を洗う。皆、遠くに行ってくれ。」
声を上げたのはダビデ。
「皆、もういい!離れよう!」
ダビデがその場から動くと、ロレンツォの望みはすぐに叶った。
ロレンツォは、ダビデが置いていった火を消し、穴に入ると、服を脱いだ。
肌を撫でると、ぬめりを感じる。感じていた通り、血が滲んでいるのである。
「最悪だ。」
ロレンツォは、誰もいない暗闇で、小さく呟いた。
ロレンツォは、頭頂部から水を被った。
何かが付着しているかもしれない。
それが何かは分からないが、とにかく洗うしかない。
おそらく、命に関わる筈である。
ロレンツォは、丁寧に全身を洗った。数年前から潔癖症を患う彼の洗い方は執拗。
ロレンツォは、運命の巡り合わせに、小さく感謝した。

一人、夜道を急いだニコーラは、シレーネのエントランスにSUVを停めると、フロントに駆け込んだ。
「お帰り。」
興奮気味のニコーラは、挨拶を忘れた。
「ロレンツォの部屋に入りたい。鍵が欲しいんだ。理由は後だ。」
慌てて鍵を手にしたジャスミンは、ニコーラと一緒にロレンツォの部屋に向かった。
ロレンツォの常日頃の心遣いは、この瞬間に陽の目を見たのである。
ニコーラは急いでいる。
まずは、洗面所。タオルが要る。
それに、クローゼット。ロレンツォはクローゼットを必ず使う。ニコーラは、綺麗に並んでいたシャツとパンツと靴を選んだ。
後はトランク。ロレンツォは、下着を人目に付くところに置かない。
全てを手にしたニコーラを待っていたのは、驚くだけのジャスミンの目である。
「ロレンツォの所に持っていく。」
こうも急いで服を持っていく理由の思いつかないジャスミンは、しかし、真剣な表情で何度も頷いた。彼女は、連邦捜査官の仲間なのである。

ニコーラは、街灯のない夜道を、制限速度を守って急いだ。さすがにサイレンは鳴らせない。
誰もいない夜の道路で、信号がレッドに変わる。
一人ぼっちのニコーラは、時間を持て余すと、満天の星空を見上げた。
この夜の月は、綺麗な半月だった。
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