遠征初日
文字数 3,870文字
2.
候補生たちはまず土の上に背嚢の中身を広げ、携行食糧がないことに驚いた。
「びっくりだよね。先生たちは食糧を持ってるけど、君たちは違うから」
ラジャンの婚約者にして菫色の髪の支援員リリファはおもしろがるように言った。
「私たちは自給自足をしろってことですね」
イスマリルが狼狽えることなく確認する。
「そう。先生を頼ればあなたたちの食糧もなくはないけど」
「それをしたら落第、というわけですか」
「そうね」
「大丈夫だ、食糧確保に必要な物資はある」
ランゼスが言った。
「全員ぶんのアサルトライフル、一丁につき予備の弾倉が一つ、かすみ網、……くくり罠もあればよかったんだけどな……飯盒も大鍋もある。みろよ、ナイフもある。これで獲物を捌けるぜ」
「私、調味料持ってきた」
フィフィカが言う。
「じゃあ今日は一日かけて、一週間分の保存食を確保しようよ」
ラトルも気を取り直したようだ。
「僕は何があっても落第しないよ、ねえ、ランゼス。旧大陸におめおめと帰るなんてかっこ悪いじゃんか」
「ああ。俺も兄貴とじいさんに恥はかかせられないしな」
「私、かすみ網を張るね」
飯を食うことを考えたら気分が良くなったのか、フィフィカの目が輝きを取り戻した。
「小鳥の肉団子って美味しいんだよね。楽しみだなあ」
「じゃあ、私たちはナイラノイラに戻るわね。みんな頑張って」
リリファが手を振った。鳥飼いのアイメルを残し、二台の協会の車両は来た道を戻っていった。
「かすみ網はフィーに任せるね。私は周囲の地形を確認しに行ってもいい? 早く場所を特定したいんだ」
候補生たちには位置情報を与えてくれる端末は与えられていない。あるのは地形図とコンパスだけだ。
「じゃ、位置特定はイスマリルに任せた。ラトル、俺たちは狩りに行こうぜ。フィフィカはかすみ網よろしくな!」
イスマリルと同じく、ランゼスもリーダーシップを発揮できるタイプだった。男子二人は山道に沿って歩き出し、姿が見えなくなったあと、ランゼスの声だけ聞こえてきた。
「見ろよ、この糞! 四年もののイノシシがいるぜ」
正午を迎えるまでに、銃声が響き、少年たちは絶命したイノシシを二人がかりで運んで戻ってきた。かすみ網を張り終えたフィフィカは野宿の寝床を整えて、その中心に石釜を組み、いつでも火をつけられるよう準備していた。
少年たちは水辺に降りていって、イノシシを解体しだした。
「見事な手際だ」
ナイフでイノシシの皮を剥ぐランゼスにミレイは声をかけた。手を血で真っ赤に染めたランゼスは、白い歯を見せて微笑んだ。
「いえ、俺なんてまだまだです。俺のじいさんは市販のカッターナイフ一本で熊を解体できましたから」
「君のじいさんは何者だ」
少年たちがきれいな水でイノシシの腸を洗っているあいだ、フィフィカは網にかかった小鳥の首をひねり、羽根をむしって肉団子をこさえていた。やがて食べられる内臓と肉とを大鍋に詰め込んで、少年たちもキャンプ地に戻ってきた。
「あー、ほんと、くくり罠があればよかったんだけどな。銃弾が当たったところはまず食材として使えないもんな」
ランゼスはまだ不満を言っていた。ラトルが応じる。
「でも、罠にかかった状態で絶命させると血が巡って傷んで臭くなるだろ? おとなしくなるまで待ってたら夜になっちゃうし」
「じいさんは罠にかかった熊と組み合って
「だから君のじいさんは何者だよ……」
やがて彼らのキャンプ地からいい匂いが漂い始めた。鍋を囲んで談笑している。
「なかなか逞しい連中じゃないか」
ミレイは満足して言ったが、ラジャンは浮かぬ顔でチョコレートバーを齧っていた。
「ライフルの弾が少なすぎる」
旧人種の武装勢力と鉢合わせることを心配しているようだ。
「私たちには星獣があるじゃないか」
アイメルに目をやった。彼女は協会のものとなったあのオウムを両腕に抱えていた。それを目にしてもラジャンの懸念は晴れないようだった。
「それで足りればいいんだがな」
※
若者たちはせっせと携行食を仕込むことで最初の一日を終えた。特に問題は起きていなかった。彼らが寝ようというときに、「ちょっと待て」、ラジャンが声をかけた。
「一名見張りに立たせろ。寝るのは順番だ」
焚き火を囲む若者たちは、ああ、そうかと言いたげな気まずい顔をした。
「離れたところで俺とミレイとアイメルも順番で見張りをする。だがそれはあくまで不測の事態に備えての保険だ。俺たちの存在はないものと考えろ。自分たちの身は自分たちで守れ」
「わかりました、先生」
そう答えたイスマリルが最初の見張り番を名乗り出た。
他の三人はすぐに寝息を立て始めた。よく眠りよく食べるのは素晴らしい資質だ。
と思っていると、イスマリルがそっと焚き火を離れ、ミレイたちのほうに歩いてきた。
どういうつもりかと、坂の上の開けた地点に陣取る大人三人は、イスマリルの姿を見守った。
若者たちが、そしてミレイとラジャンも経験した黙想修行の実態は、その言葉のイメージからは程遠い。
厳しい演習。くたびれた体で受ける座学。社会性を身につけるべき年頃の若者たちは一切の私語を禁止され、町に下りることも許されず、衣服ですら自分で選べない。
だがそれも表向きの話。
優秀と判断されるのは、教官の目をかいくぐって他の生徒と駆け引きし、少しでも楽をし、機能性の高い衣服を手に入れられる者だ。聞き分けよく沈黙を保ったり、あまつさえ告げ口をするようなお利口さんではない。
もしまだ駆け引きが通用すると思っているのなら、ぴしゃりと言ってやらねばならんだろう。そう考えているうちに、イスマリルは大人たちの焚き火にたどり着き、ミレイの前に両膝をついた。
「なんだ? 手助けはしないぞ」
「そうじゃありません」イスマリルは切実な様子でミレイに身を乗り出した。「灼舌党のマーリーンを粛清した夜、どうしてフィフィカを連れていったのですか? 私を選んでくれればお役に立てました」
ぴしゃりと言う役はラジャンが引き受けた。
「そんなことがお前に何の関係がある。ミレイに取り入ろうという考えがあるなら今すぐ捨てろ。俺もミレイも実力でしかお前を評価しない」
「違います」
イスマリルは首を振った。
「そうじゃなくて、私がダーシェルナキ家の人間だから信用されてないんじゃないかって思って、それが不安なんです」
ミレイもラジャンも無表情でイスマリルに視線を注いだ。いたたまれない様子でイスマリルは言葉を継いだ。
「私は厳しい選抜と身内検査を経てここまでたどり着きました。根拠もなく信じてほしいと言っているのではありません。ただ、フィフィカと私に扱いの差をつけようというのなら、私にとってそれはあまりにもつらいことです」
「扱いに差をつけられたと思わせてしまったのならそれは私の落ち度だ」
ミレイは優しく言った。
「あのときフィフィカを連れていったのは、たまたまさ。君じゃなくフィフィカが私と鉢合わせた。それだけだ。それに、身内が理由で信用されないということがあるのなら、私も君と同じだよ」
「どういうことでしょうか」
「私の母は新生アースフィア党イセンナ支部の幹部だった」
ミレイはスキットルの蓋を開け、酒をあおった。
「父は新人種による新大陸統一を夢見ていたが、母は旧人種と新人種の和解を夢見ていた。顔にあの赤いペイントをしてね。連中がいうところの『善い言葉つかい』さ。同等の力関係ではない者たちが平和に共存できると信じていた」
馬鹿だな、とミレイは吐き捨てた。イスマリルは驚いたようだった。
「ば、馬鹿? お母さんのことを、そんな……」
「思想の違いで私の一家は壊れてしまったよ。だから私は新大陸イセンナ校舎を卒業してナイラノイラに配属されたあと、ここに根を下ろすことにしたのさ。イセンナには一度も帰ってない」
「根を下ろす……」
イスマリルはミレイの左手に光る指輪に目をやった。
「ミレイ先生はご結婚されてらっしゃるのですか?」
「そのうち話してやるよ」
何か言いたげだが、イスマリルは何も言わない。
「一族の紛争はつらいだろう。とてもつらい。帰るべき場所などない、あってもとても安心できない、そう思う。引き裂かれた家族のことを思い出すと心が痛くて痛くて仕方がない。君もそうなんじゃないか?」
「はい」
「君は痛みから逃れた先で人間がすることを知っているか?」
イスマリルはまっすぐな視線で続きを言うよう促している。
「自らを痛めつけるのさ」
ミレイの手がスキットルに伸びる。その手をラジャンの褐色の手が制した。
「もう酒はやめろ」
沈黙。
それを、アイメルの思慮深い声が破った。
「マリちゃん、私たちが家柄を理由にあなたを排除するんじゃないかって心配してるなら、それはないって安心してほしいの。複雑な背景を持っているのはあなたやミレイだけじゃない。いろんな思想があって、いろんな派閥があるの」
「わかります。でも私……自分を痛めつけたりなんかしない……平和のために善いことをしたい」
「いいことを教えてあげよう。我々のような人間は、善いことをしようとか、悪いことをしようとか考えない。必要なことをするのさ」
イスマリルのようにナイーブだった時期がミレイにもあった。情熱に燃えていた時期が。
「さあ、仲間のところに戻りなさい。眠っている仲間を守るのは君の役目だよ」
「はい、先生」
イスマリルは大人しくキャンプ地に戻っていった。
候補生たちはまず土の上に背嚢の中身を広げ、携行食糧がないことに驚いた。
「びっくりだよね。先生たちは食糧を持ってるけど、君たちは違うから」
ラジャンの婚約者にして菫色の髪の支援員リリファはおもしろがるように言った。
「私たちは自給自足をしろってことですね」
イスマリルが狼狽えることなく確認する。
「そう。先生を頼ればあなたたちの食糧もなくはないけど」
「それをしたら落第、というわけですか」
「そうね」
「大丈夫だ、食糧確保に必要な物資はある」
ランゼスが言った。
「全員ぶんのアサルトライフル、一丁につき予備の弾倉が一つ、かすみ網、……くくり罠もあればよかったんだけどな……飯盒も大鍋もある。みろよ、ナイフもある。これで獲物を捌けるぜ」
「私、調味料持ってきた」
フィフィカが言う。
「じゃあ今日は一日かけて、一週間分の保存食を確保しようよ」
ラトルも気を取り直したようだ。
「僕は何があっても落第しないよ、ねえ、ランゼス。旧大陸におめおめと帰るなんてかっこ悪いじゃんか」
「ああ。俺も兄貴とじいさんに恥はかかせられないしな」
「私、かすみ網を張るね」
飯を食うことを考えたら気分が良くなったのか、フィフィカの目が輝きを取り戻した。
「小鳥の肉団子って美味しいんだよね。楽しみだなあ」
「じゃあ、私たちはナイラノイラに戻るわね。みんな頑張って」
リリファが手を振った。鳥飼いのアイメルを残し、二台の協会の車両は来た道を戻っていった。
「かすみ網はフィーに任せるね。私は周囲の地形を確認しに行ってもいい? 早く場所を特定したいんだ」
候補生たちには位置情報を与えてくれる端末は与えられていない。あるのは地形図とコンパスだけだ。
「じゃ、位置特定はイスマリルに任せた。ラトル、俺たちは狩りに行こうぜ。フィフィカはかすみ網よろしくな!」
イスマリルと同じく、ランゼスもリーダーシップを発揮できるタイプだった。男子二人は山道に沿って歩き出し、姿が見えなくなったあと、ランゼスの声だけ聞こえてきた。
「見ろよ、この糞! 四年もののイノシシがいるぜ」
正午を迎えるまでに、銃声が響き、少年たちは絶命したイノシシを二人がかりで運んで戻ってきた。かすみ網を張り終えたフィフィカは野宿の寝床を整えて、その中心に石釜を組み、いつでも火をつけられるよう準備していた。
少年たちは水辺に降りていって、イノシシを解体しだした。
「見事な手際だ」
ナイフでイノシシの皮を剥ぐランゼスにミレイは声をかけた。手を血で真っ赤に染めたランゼスは、白い歯を見せて微笑んだ。
「いえ、俺なんてまだまだです。俺のじいさんは市販のカッターナイフ一本で熊を解体できましたから」
「君のじいさんは何者だ」
少年たちがきれいな水でイノシシの腸を洗っているあいだ、フィフィカは網にかかった小鳥の首をひねり、羽根をむしって肉団子をこさえていた。やがて食べられる内臓と肉とを大鍋に詰め込んで、少年たちもキャンプ地に戻ってきた。
「あー、ほんと、くくり罠があればよかったんだけどな。銃弾が当たったところはまず食材として使えないもんな」
ランゼスはまだ不満を言っていた。ラトルが応じる。
「でも、罠にかかった状態で絶命させると血が巡って傷んで臭くなるだろ? おとなしくなるまで待ってたら夜になっちゃうし」
「じいさんは罠にかかった熊と組み合って
わからせた
って言ってたぜ。そうしたら銃を使わなくて済むし、獲物の内蔵や筋肉も傷まない」「だから君のじいさんは何者だよ……」
やがて彼らのキャンプ地からいい匂いが漂い始めた。鍋を囲んで談笑している。
「なかなか逞しい連中じゃないか」
ミレイは満足して言ったが、ラジャンは浮かぬ顔でチョコレートバーを齧っていた。
「ライフルの弾が少なすぎる」
旧人種の武装勢力と鉢合わせることを心配しているようだ。
「私たちには星獣があるじゃないか」
アイメルに目をやった。彼女は協会のものとなったあのオウムを両腕に抱えていた。それを目にしてもラジャンの懸念は晴れないようだった。
「それで足りればいいんだがな」
※
若者たちはせっせと携行食を仕込むことで最初の一日を終えた。特に問題は起きていなかった。彼らが寝ようというときに、「ちょっと待て」、ラジャンが声をかけた。
「一名見張りに立たせろ。寝るのは順番だ」
焚き火を囲む若者たちは、ああ、そうかと言いたげな気まずい顔をした。
「離れたところで俺とミレイとアイメルも順番で見張りをする。だがそれはあくまで不測の事態に備えての保険だ。俺たちの存在はないものと考えろ。自分たちの身は自分たちで守れ」
「わかりました、先生」
そう答えたイスマリルが最初の見張り番を名乗り出た。
他の三人はすぐに寝息を立て始めた。よく眠りよく食べるのは素晴らしい資質だ。
と思っていると、イスマリルがそっと焚き火を離れ、ミレイたちのほうに歩いてきた。
どういうつもりかと、坂の上の開けた地点に陣取る大人三人は、イスマリルの姿を見守った。
若者たちが、そしてミレイとラジャンも経験した黙想修行の実態は、その言葉のイメージからは程遠い。
厳しい演習。くたびれた体で受ける座学。社会性を身につけるべき年頃の若者たちは一切の私語を禁止され、町に下りることも許されず、衣服ですら自分で選べない。
だがそれも表向きの話。
優秀と判断されるのは、教官の目をかいくぐって他の生徒と駆け引きし、少しでも楽をし、機能性の高い衣服を手に入れられる者だ。聞き分けよく沈黙を保ったり、あまつさえ告げ口をするようなお利口さんではない。
もしまだ駆け引きが通用すると思っているのなら、ぴしゃりと言ってやらねばならんだろう。そう考えているうちに、イスマリルは大人たちの焚き火にたどり着き、ミレイの前に両膝をついた。
「なんだ? 手助けはしないぞ」
「そうじゃありません」イスマリルは切実な様子でミレイに身を乗り出した。「灼舌党のマーリーンを粛清した夜、どうしてフィフィカを連れていったのですか? 私を選んでくれればお役に立てました」
ぴしゃりと言う役はラジャンが引き受けた。
「そんなことがお前に何の関係がある。ミレイに取り入ろうという考えがあるなら今すぐ捨てろ。俺もミレイも実力でしかお前を評価しない」
「違います」
イスマリルは首を振った。
「そうじゃなくて、私がダーシェルナキ家の人間だから信用されてないんじゃないかって思って、それが不安なんです」
ミレイもラジャンも無表情でイスマリルに視線を注いだ。いたたまれない様子でイスマリルは言葉を継いだ。
「私は厳しい選抜と身内検査を経てここまでたどり着きました。根拠もなく信じてほしいと言っているのではありません。ただ、フィフィカと私に扱いの差をつけようというのなら、私にとってそれはあまりにもつらいことです」
「扱いに差をつけられたと思わせてしまったのならそれは私の落ち度だ」
ミレイは優しく言った。
「あのときフィフィカを連れていったのは、たまたまさ。君じゃなくフィフィカが私と鉢合わせた。それだけだ。それに、身内が理由で信用されないということがあるのなら、私も君と同じだよ」
「どういうことでしょうか」
「私の母は新生アースフィア党イセンナ支部の幹部だった」
ミレイはスキットルの蓋を開け、酒をあおった。
「父は新人種による新大陸統一を夢見ていたが、母は旧人種と新人種の和解を夢見ていた。顔にあの赤いペイントをしてね。連中がいうところの『善い言葉つかい』さ。同等の力関係ではない者たちが平和に共存できると信じていた」
馬鹿だな、とミレイは吐き捨てた。イスマリルは驚いたようだった。
「ば、馬鹿? お母さんのことを、そんな……」
「思想の違いで私の一家は壊れてしまったよ。だから私は新大陸イセンナ校舎を卒業してナイラノイラに配属されたあと、ここに根を下ろすことにしたのさ。イセンナには一度も帰ってない」
「根を下ろす……」
イスマリルはミレイの左手に光る指輪に目をやった。
「ミレイ先生はご結婚されてらっしゃるのですか?」
「そのうち話してやるよ」
何か言いたげだが、イスマリルは何も言わない。
「一族の紛争はつらいだろう。とてもつらい。帰るべき場所などない、あってもとても安心できない、そう思う。引き裂かれた家族のことを思い出すと心が痛くて痛くて仕方がない。君もそうなんじゃないか?」
「はい」
「君は痛みから逃れた先で人間がすることを知っているか?」
イスマリルはまっすぐな視線で続きを言うよう促している。
「自らを痛めつけるのさ」
ミレイの手がスキットルに伸びる。その手をラジャンの褐色の手が制した。
「もう酒はやめろ」
沈黙。
それを、アイメルの思慮深い声が破った。
「マリちゃん、私たちが家柄を理由にあなたを排除するんじゃないかって心配してるなら、それはないって安心してほしいの。複雑な背景を持っているのはあなたやミレイだけじゃない。いろんな思想があって、いろんな派閥があるの」
「わかります。でも私……自分を痛めつけたりなんかしない……平和のために善いことをしたい」
「いいことを教えてあげよう。我々のような人間は、善いことをしようとか、悪いことをしようとか考えない。必要なことをするのさ」
イスマリルのようにナイーブだった時期がミレイにもあった。情熱に燃えていた時期が。
「さあ、仲間のところに戻りなさい。眠っている仲間を守るのは君の役目だよ」
「はい、先生」
イスマリルは大人しくキャンプ地に戻っていった。