西暦二〇四五年、ＡＩがシンギュラリティに達した日、最後の審判（全面核戦争）が勃発し、世界は滅んだ。それから四百年後（黄昏暦四百年）、持続可能でなくなった世界線の地球で、人類は滅びの危機に瀕しながら、ドナウ川の東西両端に国家を形成していた。
　ドナウ川が流れるマジャル砂漠――旧オーストリア・ハンガリー平原が丸々砂漠となったこの地は、人々から「禁断地帯」と呼ばれている。
　その中心に位置するペッシオンは、人口二百人の環境問題の研究村である。
　村で育った十六歳のエリスン・オンディーヌは、ドナウ川の管理をしながら、砂漠に棲む、金属が命を宿したメタル生命体をフィールドワークしていた。少女はあるとき、砂漠で金色に輝くメタル卵を拾った。
　東西ドナウ国家は長らく冷戦状態だったが、西ドナウ共和国の大企業インダストリアル・ローマ社が引き起こしたドナウ川の環境破壊が引き金となり、冷戦は終結する。それを機に、両国とも最終兵器を求めて、戦の準備を開始した。
　両大国は、ペッシオンの地下に最終兵器が眠っていると考えた。それは、エリスン本人の血筋と関係するという。かくして村は軍による侵攻を受け、西から来た殺し屋ギル・マックスによって徹底的に破壊された。
　東ドナウ連邦軍のアイビス中尉によってギルの手から逃れたエリスンは、メタル生命体の脅威にさらされながらも禁断地帯を踏破し、東ドナウの軍都を目指す。
　このまま戦争が始まれば、巨大メタル生命体、グレートＣエレガンスが目覚め、人類は危機に瀕するだろう。それを彼女は川守として軍都ザナドゥに訴え、何としても阻止しなければならなかった。
　だが、軍都――ヴォルガ機界――ガデスと、ギルや軍に追われ、転戦を続けたエリスンは、自身が戦争の原因に、そして道具となってしまった運命の歯車に翻弄され、苦しみ、泣きぬれる。どうあがいても、もがいても、それは止まらないのだった。
　ついにドナウの両大国がマジャル砂漠で全面衝突するとき、エリスンは決断した。もう逃げない、泣かない、諦めない――。苦しみや悲しみを乗り越えて、平和のために戦うのだと――。
　核戦争後の滅びゆく人類社会を描く、ポスト・アポカリプスのＳＦファンタジー。環境問題、ＳＤＧｓをテーマに、ドナウ川を舞台とした文字通りの大河ＳＦ。「東京伝説の少女」の四五〇年後の世界を書いたメタルパンク姉妹編。
　同時に、黄昏暦（西暦二四五〇年）シリーズの第一弾。（第二弾「トランスＮＹ刑事アルダ」、第三弾「秘境アルシアナ」）

第一部　ドナウの守り人
第二部　ガデスの呪いに抱かれて
第三部　ドナウ大戦
第四部　メタルウォーズ

※この物語は、川名や国名、町の名前、その他の固有名詞が存在しますが、現実の川名及び国、町、法律、団体、個人名と一切関係ありません。

キャラクター

東ドナウ連邦（旧ルーマニア）サイド　独裁軍事政権。

エリスン・オンディーヌ　十六歳。ドナウの川守。
　けなげで神々しい少女。自分が戦争の発端となったことに悩みながら、めげずに平和のために戦う。最後はドナウ・クライストとなり世界を救う。
ユーリャ・ハーキマー所長　ペッシオン所長。
アイビス・グレイ　東ドナウ連邦軍の中尉。三十二歳。不死身の男だが、超人ではないので何度も死にかけ、その都度レーダーバイザーで生き延びる。
コード・ブレーダー総統　東ドナウ連邦の国家元首。
クロフト・サラマンジア元帥　軍都のナンバー１。火力至上主義。
ロージャー・シカケーダー　東ドナウ連邦軍総参謀長。
リード大佐　ペッシオンを制圧する連邦軍を率いる部隊長。
イシュトバーン　ハンガリー系東ドナウ将軍。轟イストリヤ航空師団長。

西ドナウ共和国（ゲルマン国家）サイド　民主制だが、大企業の傀儡国家。

ハーモニー・シルヴェストル　十歳。
　ヘイズにある下水処理城に幽閉されている少女。
ハイドラ・ガイキューヌ　西ドナウ共和国大統領。
ローゼス・ゴードン　インダストリアル・ローマ社主。
パメラ・ゴードン　ローゼスの娘。ローマ社南米アルシアナ支社長。
ヴェネター・グノーム卿　ローマ社でメタル生命兵器を開発したマギスター。
ゲオルギウス上級大将　伝説の龍退治の黒騎士の名を持つ西ドナウ軍最高位。
ラリマ・キルマー　レジスタンス「ドナウエッシンゲン同盟」の女リーダー。
ダン・ジークフリード　赤毛のレジスタンスのメンバー。
ラゼガル　レジスタンスのメンバー。
パルミラ　レジスタンスのメンバー。
ヱリアーデ・ヴァーミリオン　毒殺された、旧神聖ドナウ帝国皇帝家の妃。
ギル・マックス　伝説の世界一の殺し屋。生命兵器。不老不死。

土地名

マジャル砂漠　禁断地帯と呼ばれる。メタル生物圏。旧オーストリア・ハンガリー平原。
ペッシオン　マジャル砂漠の中央にポツンと存在する村。人口二百人。
ヘイズ工業地帯　インダストリアル・ローマ社のコンビナート都市。旧ミュンヘン。
ヴォルガ機界　元戦争兵器で、マシン・ヴァーサーカーとして「意識」に目覚め、全人類を滅ぼすことを目的とする。
アマゾン緑界　ヴォルガ機界と並んで、人が入れない禁断地帯。ジャングル。
軍都ザナドゥ　東ドナウの鉄門にある城塞都市。
西の首都ベルリン　西ドナウ政府。
トランスドナウ山脈　カルパティア山脈。
アルジェダ　黒い森（シュヴァルツヴァルト）の中に存在する神殿。
ガデス　呪われた全長一キロメートルの塔。放射能に汚染されている。
ゴラス要塞　ドナウデルタの対ヴォルガ機界前線基地。

その他

メタル生命体　マジャル砂漠（禁断地帯）に棲む新生態系の金属生物。
グレートＣエレガンス　マジャル砂漠に棲む、全長三百メートル以上になる巨大メタル生命体。東ドナウ連邦軍は、「メタルウォーム」と呼んでいる。
ＰＭ　サイキック・メタル（精神感応金属）。
ＰＭＦ　サイコ・マグネティック・フォース。
マシン・ヴァーサーカー　ヴォルガ機界の殺人マシン軍団。
ドナウエッシンゲン同盟　西ドナウのレジスタンス。
リリアックス　東ドナウの保安庁。諜報、秘密警察、憲兵を兼ねる。
パックス・アマゾニカ　ドナウ帝国など、川名が国名となった源流のかつての多国籍企業。
クラリアス　ドナウ川の巨大ナマズ。他にベルーガ（チョウザメ）が棲む。
城船　軍都の鉄門ダムに鎮座する東ドナウの最終兵器。
竜のウロコ　エリスンが所有する短剣。
メタル生命兵器　メタル生命体に武器を搭載した西ドナウの生物兵器。
ラインゴールド　西ドナウ支配層の山の手貴族。主にライン川流域を故郷とする大統領府や官僚。