第43話 ギル・マックス対ブルーガンスリンガー
文字数 3,194文字
黄昏暦(Dämmerung)四百年 西暦二四五〇年 九月十四日午前九時
「ンアアア――ッッ!!」
ハーモニーたちは、全ての軍勢の総力を結集して戦った。それでもギル・ヴォルガの侵攻を防ぎきれなくなっていた。ガルガンチュアらグレートCエレガンスの砲撃は、上昇するギルのPMFが作り出した、ヴォルガ機界全体を包み込むバリアに跳ね返された。
ギルのPMFは前回よりも強く、史上最強のレベルへと進化していたのだ。城船とガルガンチュアが迎撃するも、次第に被弾することが増えていった。
「ダメだ!!」
ヴォルガ上空からの轟イストリヤのフレア・バルカンは、ギルのPMFに跳ね返され、エフェメラ機はことごとく撃墜された。轟イストリヤは数千のマシン・ヴァーサーカーにたかられて轟沈した。イシュトバーン以下の将兵は、鳥人団によって救出された。
「ククク……ハーモニー・エレガンス・ドラゴン!! 捉えたぞッ!」
ギルの邪悪なPMFが襲いかかった。
黒海に展開する城船艦隊から、シカケーダーは主砲を撃ったが、ギルのPMFバリアに跳ね返された。
「軍都まで撤退してください! お願いします」
シカケーダー元帥はハーモニーに強く撤退を要請した。
*
戦線は再び東ドナウ領へと押し戻された。
今度はギル・マックスが自ら姿を現し、PMFを展開して宙に浮かぶと飛び上がった。左右の手にそれぞれ三本、計六本のナイフをギラつかせながら……。
戦線はブダペシュトまで押し戻された。
「来たぞ……ヤツだ!」
空に地に、群雲のようなマシン・ヴァーサーカー軍団を連れたあの男、ギル・マックスが、マジャル機界の中心へとやって来た。世界一の殺し屋は、右手のサバイバルナイフから直接邪悪なプラズマが実体化させて、恐るべき邪念の暴風の中心と化している。
「アイツは……もはや人間でも何でもねェな」
ラゼガルは、戦車の操縦席の背もたれに身を預けて呟いた。
「元から人間ではなかったですよ」
ダン・ジークフリードはゆっくりと銃を降ろした。
誰もが、戦う意欲を失っていた。もはや抗うこと、それ自体が死を早めるだけだった。ここから先の未来は誰にも見えない。あるのは完全なる暗黒だけだ。
疲弊したハーモニーは、地べたにペタンと女の子座りして、ボウッと男を見つめる。
「ここを占拠したら次は西ドナウをもらうぞ! メタルコアを打ち砕き、かつて帝都NYにあったマンハッタン・ホーンのように、今度は俺が帝王としてマッターホルンに降り立つことにしよう! そこでアルプスの山々を眺めながら、ミネラル・ウォーターを飲み、次のアマゾン緑界攻略の一手を考えるのだ!」
ブダペシュトの乾いた大地を、人々の絶望感が包み込んだ。
戦線の中心地帯に、一機のエアロウルフが降りてきた。
コクピットからアイビス・グレイが降り立った。近くにダン・ジークフリードを見つけると、親指で後部座席を示した。ダンは中にエリスンが横たわっているのを発見した。ダンは兵士と共にエリスンをストレッチャーで運んだ。エリスンはぐったりして全く動かない。ダンは目をつぶった。
アイビス・グレイはそのまま、ギルに向かって歩いていった。
「オマエは…………」
そのバイザーを見て、ギルの残りの片目が光った。
「やっと会えたなギル・マックス!!」
アイビスは先に声をかけた。
その手に青く透き通った銃を持っていることを、同盟軍は目撃した。
「アイビス・グレイか? ほぅ、お前もなかなかしぶとい。……まだ生きていたとは!」
「お前さんほどじゃないぜ。ま、こんな状況だ! お互いドーいう巡りあわせでこうなっちまったのか訳が分からんが、とにかく会えてうれしいぜ! お前を探していたんだよ、ギル!!」
軍はいつの間にか視界から続々立ち去り、二人だけが戦場に取り残された。ブルーガンとギルナイフのPMFの直接戦闘の予感に、シカケーダー元帥が撤退させたのだった。アイビス・グレイが勝つのかどうかはまだ不明だった。しかし彼の言った通り、可能性が少しでもあるなら、今はそれに賭けるしかない。誰もがその一縷の希望に賭けていた。
「フッ、この期に及んでキサマに何ができるというんだ? 逃げ足が速いだけじゃないか、ハッハッハッ、さぁ、とっとと逃げたらどうだ? 不死身の男、レーダーマン!」
ギルの眼は禍々しく輝き、暗いPMFと一体化した身体の輪郭はぼやけている。
「あぁ……紹介が遅れてすまん、オレはもう、ただ逃げ足が速いってだけの男じゃない。不死身なだけでもない。オレは……ブルーガンスリンガーだ!! 覚えとけギルッ!」
ズチャ! アイビスは素早くブルーガンを向けると、途端に青い銃身に青白いプラズマの輪が生じた。
「良かろう! 特別に! 我がPM9のギルナイフがキサマの相手をしてやろう!」
ハーモニーの顔が驚愕に満ちていった。神聖ドナウ帝国軍たちは驚嘆する。誰もが、次に起こることを予想して身を固くして見守った。
「アイツ……身が持つのかしら」
ラリマ・キルマー隊長は、アイビスが銃を持ち帰ってきたことに感心していたが、まだ彼がブルーガンスリンガーだという確信には至ってはいない。
「まだ、分からない」
ハーモニーはPMFを働かせて、Dr.ヴェネターとガラティアとともに計測を開始した。その数値は徐々に高まっている。
「そのオモチャみたいな銃が、このPM9のギルナイフに勝てるかな? ……ククククク……フフフフフッ!」
ギルは嘲笑した。彼の輪郭は二重・三重とブレて観えるのだった。
「教えてやるぜ!! ブルーガンはガルガンチュアや城船のプラズマ砲に匹敵する! いや!! ガンスリンガーの精神力によってはそれ以上の破壊力があるってコトをな!!」
アイビスがレーダーバイザーに意識を集中すると、ブルーガンの銃身にプラズマの輪がいくつも生じ、回転していった。
プラズマを発射し、旧世界を破壊した兵器の一つは、アイビスの精神波に感応して、パワーを発揮する。精神力が強くなればなるほど破壊も強くなる。それは、都市をも壊滅させる以上の――。
「面白いッ! では撃ってみろッ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドガァアアアアアアアア――……ン!
巨大な力と力のぶつかり合いは、衝撃波となり、寸前、ハーモニーは二人の周囲にPMFバリアを張った。空間がハレーションを起こしたように、青い稲妻がほとばしる。弩級重戦車やエアロウルフ、岩々が吹っ飛ばされていく。
アイビス自身も銃の巨大な反動を受けつつ、ヴォルガ機界のゲームマスターとなったギルのナイフのPMFと衝突する。
それで終わりではない。ブルーガンの出力はそこからどんどん高まっていく。高い輝度のプラズマ光が閃き、地上の太陽と化した。
「――こっ超えるッ! 彼はホントにッッッ」
ハーモニーはPMFバリアを必死で維持しながら、その瞬間悟った。
まばゆい光に誰もが目を覆い、衝撃波に耐えた。
ギルは吹っ飛ばされて、上空一万メートルに達し、放物線を描いて、吸い込まれるようにノロイヨシ火山に落下し、マグマの中へ沈んだ。
「まさか、本当に彼が……、ドナウ・クライストと並ぶもう一人の救世者、ブルーガンスリンガー! だったの!?」
ハーモニーの声が上ずった。
予言されたドナウエッシンゲン伝説の勇者の名は、アイビス・グレイ。
「……ん?」
「あの光は?」
地平線から、花火が上がったように見えた。
誰もがブダペシュト上空を見上げた。何か、異様だ。PMFの衝撃波のもたらした惨事の一つかと思えば、そうではなかった。
*
ヴォルガ機界最奥の「恐怖山脈」。
標高三千メートルの高層ビルの山頂が赤く輝き、光のマグマを吐き出した。上空の暗雲にぽっかりと穴を開けている。全世界へ向けて、恐怖山脈から何十万というプラズマ弾が放たれたのである。
「ンアアア――ッッ!!」
ハーモニーたちは、全ての軍勢の総力を結集して戦った。それでもギル・ヴォルガの侵攻を防ぎきれなくなっていた。ガルガンチュアらグレートCエレガンスの砲撃は、上昇するギルのPMFが作り出した、ヴォルガ機界全体を包み込むバリアに跳ね返された。
ギルのPMFは前回よりも強く、史上最強のレベルへと進化していたのだ。城船とガルガンチュアが迎撃するも、次第に被弾することが増えていった。
「ダメだ!!」
ヴォルガ上空からの轟イストリヤのフレア・バルカンは、ギルのPMFに跳ね返され、エフェメラ機はことごとく撃墜された。轟イストリヤは数千のマシン・ヴァーサーカーにたかられて轟沈した。イシュトバーン以下の将兵は、鳥人団によって救出された。
「ククク……ハーモニー・エレガンス・ドラゴン!! 捉えたぞッ!」
ギルの邪悪なPMFが襲いかかった。
黒海に展開する城船艦隊から、シカケーダーは主砲を撃ったが、ギルのPMFバリアに跳ね返された。
「軍都まで撤退してください! お願いします」
シカケーダー元帥はハーモニーに強く撤退を要請した。
*
戦線は再び東ドナウ領へと押し戻された。
今度はギル・マックスが自ら姿を現し、PMFを展開して宙に浮かぶと飛び上がった。左右の手にそれぞれ三本、計六本のナイフをギラつかせながら……。
戦線はブダペシュトまで押し戻された。
「来たぞ……ヤツだ!」
空に地に、群雲のようなマシン・ヴァーサーカー軍団を連れたあの男、ギル・マックスが、マジャル機界の中心へとやって来た。世界一の殺し屋は、右手のサバイバルナイフから直接邪悪なプラズマが実体化させて、恐るべき邪念の暴風の中心と化している。
「アイツは……もはや人間でも何でもねェな」
ラゼガルは、戦車の操縦席の背もたれに身を預けて呟いた。
「元から人間ではなかったですよ」
ダン・ジークフリードはゆっくりと銃を降ろした。
誰もが、戦う意欲を失っていた。もはや抗うこと、それ自体が死を早めるだけだった。ここから先の未来は誰にも見えない。あるのは完全なる暗黒だけだ。
疲弊したハーモニーは、地べたにペタンと女の子座りして、ボウッと男を見つめる。
「ここを占拠したら次は西ドナウをもらうぞ! メタルコアを打ち砕き、かつて帝都NYにあったマンハッタン・ホーンのように、今度は俺が帝王としてマッターホルンに降り立つことにしよう! そこでアルプスの山々を眺めながら、ミネラル・ウォーターを飲み、次のアマゾン緑界攻略の一手を考えるのだ!」
ブダペシュトの乾いた大地を、人々の絶望感が包み込んだ。
戦線の中心地帯に、一機のエアロウルフが降りてきた。
コクピットからアイビス・グレイが降り立った。近くにダン・ジークフリードを見つけると、親指で後部座席を示した。ダンは中にエリスンが横たわっているのを発見した。ダンは兵士と共にエリスンをストレッチャーで運んだ。エリスンはぐったりして全く動かない。ダンは目をつぶった。
アイビス・グレイはそのまま、ギルに向かって歩いていった。
「オマエは…………」
そのバイザーを見て、ギルの残りの片目が光った。
「やっと会えたなギル・マックス!!」
アイビスは先に声をかけた。
その手に青く透き通った銃を持っていることを、同盟軍は目撃した。
「アイビス・グレイか? ほぅ、お前もなかなかしぶとい。……まだ生きていたとは!」
「お前さんほどじゃないぜ。ま、こんな状況だ! お互いドーいう巡りあわせでこうなっちまったのか訳が分からんが、とにかく会えてうれしいぜ! お前を探していたんだよ、ギル!!」
軍はいつの間にか視界から続々立ち去り、二人だけが戦場に取り残された。ブルーガンとギルナイフのPMFの直接戦闘の予感に、シカケーダー元帥が撤退させたのだった。アイビス・グレイが勝つのかどうかはまだ不明だった。しかし彼の言った通り、可能性が少しでもあるなら、今はそれに賭けるしかない。誰もがその一縷の希望に賭けていた。
「フッ、この期に及んでキサマに何ができるというんだ? 逃げ足が速いだけじゃないか、ハッハッハッ、さぁ、とっとと逃げたらどうだ? 不死身の男、レーダーマン!」
ギルの眼は禍々しく輝き、暗いPMFと一体化した身体の輪郭はぼやけている。
「あぁ……紹介が遅れてすまん、オレはもう、ただ逃げ足が速いってだけの男じゃない。不死身なだけでもない。オレは……ブルーガンスリンガーだ!! 覚えとけギルッ!」
ズチャ! アイビスは素早くブルーガンを向けると、途端に青い銃身に青白いプラズマの輪が生じた。
「良かろう! 特別に! 我がPM9のギルナイフがキサマの相手をしてやろう!」
ハーモニーの顔が驚愕に満ちていった。神聖ドナウ帝国軍たちは驚嘆する。誰もが、次に起こることを予想して身を固くして見守った。
「アイツ……身が持つのかしら」
ラリマ・キルマー隊長は、アイビスが銃を持ち帰ってきたことに感心していたが、まだ彼がブルーガンスリンガーだという確信には至ってはいない。
「まだ、分からない」
ハーモニーはPMFを働かせて、Dr.ヴェネターとガラティアとともに計測を開始した。その数値は徐々に高まっている。
「そのオモチャみたいな銃が、このPM9のギルナイフに勝てるかな? ……ククククク……フフフフフッ!」
ギルは嘲笑した。彼の輪郭は二重・三重とブレて観えるのだった。
「教えてやるぜ!! ブルーガンはガルガンチュアや城船のプラズマ砲に匹敵する! いや!! ガンスリンガーの精神力によってはそれ以上の破壊力があるってコトをな!!」
アイビスがレーダーバイザーに意識を集中すると、ブルーガンの銃身にプラズマの輪がいくつも生じ、回転していった。
プラズマを発射し、旧世界を破壊した兵器の一つは、アイビスの精神波に感応して、パワーを発揮する。精神力が強くなればなるほど破壊も強くなる。それは、都市をも壊滅させる以上の――。
「面白いッ! では撃ってみろッ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドガァアアアアアアアア――……ン!
巨大な力と力のぶつかり合いは、衝撃波となり、寸前、ハーモニーは二人の周囲にPMFバリアを張った。空間がハレーションを起こしたように、青い稲妻がほとばしる。弩級重戦車やエアロウルフ、岩々が吹っ飛ばされていく。
アイビス自身も銃の巨大な反動を受けつつ、ヴォルガ機界のゲームマスターとなったギルのナイフのPMFと衝突する。
それで終わりではない。ブルーガンの出力はそこからどんどん高まっていく。高い輝度のプラズマ光が閃き、地上の太陽と化した。
「――こっ超えるッ! 彼はホントにッッッ」
ハーモニーはPMFバリアを必死で維持しながら、その瞬間悟った。
まばゆい光に誰もが目を覆い、衝撃波に耐えた。
ギルは吹っ飛ばされて、上空一万メートルに達し、放物線を描いて、吸い込まれるようにノロイヨシ火山に落下し、マグマの中へ沈んだ。
「まさか、本当に彼が……、ドナウ・クライストと並ぶもう一人の救世者、ブルーガンスリンガー! だったの!?」
ハーモニーの声が上ずった。
予言されたドナウエッシンゲン伝説の勇者の名は、アイビス・グレイ。
「……ん?」
「あの光は?」
地平線から、花火が上がったように見えた。
誰もがブダペシュト上空を見上げた。何か、異様だ。PMFの衝撃波のもたらした惨事の一つかと思えば、そうではなかった。
*
ヴォルガ機界最奥の「恐怖山脈」。
標高三千メートルの高層ビルの山頂が赤く輝き、光のマグマを吐き出した。上空の暗雲にぽっかりと穴を開けている。全世界へ向けて、恐怖山脈から何十万というプラズマ弾が放たれたのである。