第20話 そして誰もいなくなった
文字数 2,735文字
プンスカ──怒る。
地面に
「車輪に
「だから、悪かったわ、アイリ」
その2人を見て女騎士ヘルカ・ホスティラが女
「信じられん! なんであいつあんなに頑丈なんだ? 前は馬の
「いやぁ────御師匠は
「スカーフ!? スカーフがどうしたんだ!?」
あっ、この人喰いついた、とイラは顔を背けにんまりとした。
「そこ、うるせぇ!」
怒鳴りつけ少女がつかみ上げた石を投げつけると、イラが
動かないヘルカを
「ヘリヤさん、タオルと水を。ヘルカさん白眼むいてます」
伸びた女騎士の様子を見に数人の騎士達がわらわらと
「ダメだ。本当に伸びてる」
「情けないのぅ。第3騎士ともあろうものが、たかだか小娘の石に──」
ぼやく騎士団長リクハルド・ラハナトスへアイリ・ライハラが石を投げつけた。
「うるせぇ、そこも! 頭に響く!」
ごいん、と大きな音がして顔半分の大きな石が地面に落ちると、鼻血を派手に吹き出しながら騎士団長が後ろに倒れた。
それを眼にして他の騎士3人が後ずさり始めた。
その逃げ方が気にくわずアイリ・ライハラはビュンビュン石を投げつけた。
それぞれ石の大きさで、ごちぃん! ぐわん! どがぁ! と違う音がして2番目の荷馬車の横に騎士3人が折り重なり倒れた。
騎士達の有り様を見たイラ・ヤルヴァはヘルカからタオルと水筒を受け取りながら少女へ顔を向け眼が合ってしまい苦笑いを浮かべたが、片唇が引き
顔に漬け物石クラスの凶器を喰らい、イラ・ヤルヴァも両脚を振り上げひっくり返った。
ごいん、どかん、と続く大きな音にイルミ・ランタサルが顔を向けると6人の騎士と女
「何てことを────アイリ・ライハラ!」
イルミ・ランタサルが立ち上がり倒れているもの達へ行こうとしてスカートがぴんと引っ張り顔から倒れ込むと
おもむろに立ち上がり少女が吐き捨てた。
「さあ、荷馬車に積み込んでノーブルに帰るぞ」
荷台の後ろからヘリヤが眼を丸くして見下ろしていた。その
「帰るのよ」
ヘリヤがうんうんと激しく
アイリはまず荷馬車から
少女は女騎士ヘルカ・ホスティラを抱え上げようとしてふらついてしまい一度そいつを地面に下ろした。
「なっ、なんでこんなに重いんだ!?」
彼女の農婦服の胸元を広げてアイリは引いてしまった。
「こっ、この女──服の下に
アイリはヘルカのスカートを
「うぅっ──下も
だが足先を見て笑いだした。
「うぷぷぷ、こいつ
アイリは前の荷馬車に座っている
「何ですか、アイリさん?」
「手伝ってくれ。ヘルカ太りすぎで1人で上げられない」
「えぇ? 高貴なヘスティラ様に
「ヘリヤ、お前勘違いしてるぞ。こいつ高貴でもなんででもない! 見てみろ」
そう言ってアイリはヘルカのスカートをがばっと
「ただの変態だ。
少女がそう言い捨てると気を失っている女騎士が寝言で
「さあ、手伝って」
そうヘリヤに言ってアイリは女騎士の頭に回り込んで両脇に手を突っ込みヘルカの上半身をお越し上げた。足をヘリヤが抱き上げるがなかなか立ち上がれない。それに気づいたアイリが
「頑張れよ。陽が暮れるまでに1つ前の街に戻りてぇんだ」
やっと立ち上がったヘリヤはふらつきながら少女に尋ねた。
「アイリさん、勝手に引き返したら──王女様から怒られます」
荷台に女騎士の胸から上を押し上げたアイリが言いきった。
「大丈夫だ。心配いらない。イルミを納得させる」
ヘリヤは王女と知り合って日の浅い少女が最初の頃から王女様を親しげに名で呼ぶのを耳にしていた。まるで友達みたいだ。そんな呼びかけを長年、王室警護にあたる騎士団長も口にしない。
いいや、城で王女様に対等な口をきけるものなど今までいなかった。
ヘリヤは荷台の上にヘルカ・ホスティラの足を押し上げながら思った。王女様はアイリさんが現れてから
城から馬の足で半日の距離までも出歩いた事のない王女様がウチルイ国に足を踏み入れ、魔物巣くう
その変わり様は何なのと考え、やっぱりアイリさんなのだと思った。
イルミ王女様はアイリさんに全幅の信頼を向けている。
そのアイリ・ライハラさんが帰らなければならないと言いだして、大丈夫だと言い聞かせる。
ヘリヤは馬の
「アイリさん、あれ!」
ヘリヤが指さし教えた時には、アイリ・ライハラはすでに荷台に登り迫り来るものらをじっと見つめ舌打ちした。