第9話 餌場(えさば)
文字数 1,751文字
誰も知らない197階層の魔が迫っていた。
14階層まで下りたアイリ・ライハラ達20人は大とかげタラスコンを5匹仕留め持ちきれない魔石を手に入れてどこまでも続く迷宮の奥まで来たことを再認識した。
「どうする、アイリ?」
参謀長ヘルカ・ホスティラに問われ3軍の騎士団長は腕組みした。
「イルミ
いつになく気弱だとヘルカは思った。押し一辺倒のアイリが満足げに話すことが珍しい。
「引き返すか?」
ヘルカ・ホスティラが問うとアイリ・ライハラが鼻で笑った。
「フン! まだ14階層だぞ。183階層の
満面の笑みを浮かべる騎士団長に参謀長は念押しした。
「アイリ──
「兵たちへの補給」
こいつわかっていて知らばっくれてやがるとヘルカは腹立った。
「183階層だぁ!? その半分も飲み食いがもたんぞ」
「大丈夫、20階層ごとに酒飲み放題、肉食い放題のイベントがあるから」
迷宮に飲み放題食い放題のイベントだぁ!? どこの繁華街と勘違いしてる!?
「アイリ──苦しいからとテキトーなことを言ってると
「
こいつ──知らぬ振りを!
「
「え、なんでぇ──20階層まで行ってみよ~ょ。食い放題の飲み放題だから」
真顔で言い張るアイリに、まあろくでもない結果になるだろうが、とヘルカはため息をついた。20階層なら地上へ引き返すのも造作もない。騎士らの携行食や水ももつだろうと参謀長は思った。
15階層の石像の怪物が動きだすガーゴイルを何体も叩き割り倒し、17階層の鱗で覆われたワニの怪物グランガチを倒した。19階層には狼のようなエイガンナの群れに囲まれ騎士ら数人が噛まれ怪我をした。
20階層に下りると湧き水のようにワインが吹き出る小さな泉があり、岩棚に牛のもののような肉が沢山置かれていた。
「ほらヘルカ、食い放題に飲み放題だろ」
得意そうに言うアイリにヘルカはワインの泉はともかく、岩棚に置かれた肉は誰が置いたかその方が気になった。
「これ誰が置いたんだ」
「知らん。いつ来ても置いてあるんで親父と食ってた」
そう告げてアイリが火を起こし肉を焼き始めるとその臭いに他の騎士らも我慢できずに火を起こし肉を焼き始めた。ヘルカ・ホスティラは焼いた肉を口に入れたが牛のものとなんら変わらず湧き水のワインに喉を潤した。
しかしこの肉は誰が置いたんだ。人が置きに来るわけもなく、じゃあ魔物かと思い、後で
「アイリ、貴君が
「そうだよ」
「その頃から、肉は置いてあるのか」
「そうだよ」
「腐らないのか。腹痛になるとか」
食べながらヘルカが心配したのは人が食べても大丈夫なのかだった。だがアイリに問うた時にはほとんどの騎士がもう食べていた。
「う──ん、いつ来ても新鮮。お腹こわしたこともないよ」
「こんなところに新鮮な肉が置いてあるのは変だろう」
「うん変だよ。でもここは迷宮じゃん。何があっても変じゃないし」
もっともらしく言うじゃないかとヘルカは思った。まあ携行する牛の乾燥肉よりも各段に味は良い。ヘルカはもうこだわらない事にした。
後で腹痛になっても知らんぞ。
腹がくちくなると眠くなる。
騎士らは
その20階層の
そのグライアイの老婆らは1つの目、1つの口を共有して見て喋ろうと取り合いした。
老婆はそれぞれが騎士の手足をつかみ引き
「寝ていると思っただろう」
声にグライアらが振り向くと
手足をつかまれていた騎士らもつかんでいる手を振りほどき立ち上がると
「グライアイ──1つの目、1つの口をなくしたくなかったら21階層への下り道を教えろ」
アイリ・ライハラは