第22話 見るがよい

文字数 1,718文字

 顔つきは昔美人だっただろう。その美しさが去り険しさが取り残された顔貌(かおかたち)。見下ろす教皇の目つきが(にら)んでるのはなく(さげす)んでいるとアイリ・ライハラは感じた。

「私がアイリ・ライハラだ!」

 名乗ったのに表情1つ変えないのは、馬鹿にしてるからだと少女は腹立たしくなった。

「そなたはノーブル国騎士の1人で間違いないか?」

「ああ、そうだよ。なりたくてやってるわけじゃねぇけど」

 アイリの横に立つヘッレヴィ・キュトラは事の成り行きが読めなかったが、教皇(きょうこう)様が少女の逃げ道を塞ぎにかかってるように感じて危険な気がしながらやり取りを聞いていた。

「アイリ・ライハラよ。そなたがデアチ国選りすぐりの部隊を単独で倒したのは誠か?」

 アイリが答えに()まっているので役人落ちが振り向くと少女は口をぽかんと開いていた。

「どっからそんな話を吹き込まれたんだよ? 何人か倒したけどあいつら選りすぐりなのか?」

 教皇が目を細めた。

 ヘッレヴィまったく法王の考えが読めないと、咳払いをして少女に警告したが気づかずにいるのでさらに咳払いを繰り返した。

「お前風邪ひきかかってるのか?」

「ち、違う! 気がつけよ!」

「何をだよ!?」

「ぺらぺら(しゃべ)ってると足元(すく)われるぞ」

 ヘッレヴィが警告した直後、いきなりアイリは右腕振り上げ教皇を指さし元異端審問官は顔を引き()らせた。

「やい、お前! 何のかんの言いながら、俺に魔女嫌疑かけただろ!」

 まるですぐに応えるのがおこがましいと言わんばかりに教皇が長すぎる()をおいて口を開いた。

「魔女だけでなく異端は神を信じ神の元で結びつく(しもべ)窮地(きゅうち)に立たせる邪悪な存在。聞くところによるとそなたは魔剣を使い聖堂騎士会のものの命奪うとのこと────」

 言い返そうと少女が1歩踏みだした寸秒、取り囲む兵士らが(スピア)を一斉に突き出し3歩進み出た。

「────そなた、マカイのシーデ姉妹を()り刻みデアチ国兵士らの前に撒き散らしたのだそうだな」

 アイリはあの叫び声を武器にする姉妹の四肢(しし)を、頭部を、闘技場(アリーナ)で脅しの道具にしたことを思いだした。

「死者を冒涜(ぼうとく)し、正しきものを惑わす────これ、まさに魔女──魔物の所行(しょぎょう)! 神に仕える()に抗弁するとはまさに魔のもの!」

 言い切った法王の言葉を少女は鼻で笑って威勢良く言い返した。



(たみ)を洗脳し奴隷として家財巻き上げ、人の生き方をねじ曲げさせている貴様こそ、魔王軍幹部じゃねぇのかぁ!」



 (あわ)てて少女に跳びつきヘッレヴィ・キュトラは両手で口を押さえこんだ。なっ、なんという事を聖下(せいか)に言うんだ!? 恐るおそる振り向き見上げた役人落ちは法王が氷の剣のような眼差しで見下ろしていることに縮み上がった。

 いきなり指を咬まれ、顔をしかめ手を逃がすとアイリが(わめ)いた。

「こ、このおたんこなす! 息ができなくて死ぬと思ったぞ!」

 いやいや、今はそんなことより、この(さば)きの場をどう逃れるかが大事。この子はそんなこともわからないのかと1度は放した手をアイリの顔に戻そうとして少女がまた噛みつこうとして痙攣(けいれん)するようにヘッレヴィは手を引っ込めた。



「茶番はもうよい! 魔女として(さば)こうと、魔物として成敗するも同じ」



猊下(げいか)お待ちを! このものは決して魔の(たぐい)でなく、異端審問官であった(わたくし)がそれを証言します!」

 ヘッレヴィ・キュトラが顔を振り上げ法王に(ゆる)しを申し出た。

「そなたがデアチ国異端審問官のヘッレヴィ・キュトラなるか?」

「はい! (わたくし)がデアチ国元異端審問官のヘッレヴィ・キュトラです! 元公職の身であり教会に絶対的な忠誠と──」

 いきなり教皇(きょうこう)が左胸の前から横へ右腕を振って言い切った。

「教会への忠誠? 神への忠誠でなく、教会への忠誠がどれほどのものか! その不誠実さゆえ異端審問官の地位を失ったのではないか!?」

 ヘッレヴィは違うと言いかけた。

 その見上げる視線がとらえた法王の表情が様変わりしていた。



 唖然とするのは教皇(きょうこう)だけでなく周りにいる司教らもざわめきうろたえていた。

 な、何なの!?

 教皇(きょうこう)らをざわめかせている視線がこの自分の方に────違うわ! 恐るおそる振り向いた元異端審問官は見えてきたものに震えが走った。


 腕ひっつかんだ少女が白銀の両翼を大きく広げていた。





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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