第13話 吐露(とろ)
文字数 3,026文字
フッカツノジュモンヲイレテクダサイ
{カワイイ──}
{──アイリ}
ENTER
「ブブ──ッ!」
{キヒントビボウノ──}
{──イルミ}
ENTER
「ピコッ!」
どがっ! げし! げし! げしっ!!
くだらないことを考えていて滑り転びそうになる。
慌ててパイク(:西洋
アイリ・ライハラは
兵士が普通に履きこなしていたのを見たことはあったものの、見るのと実際は大違いだと少女は思った。足を斬られたり刺されるのを警戒するより、機敏に動けばいいじゃないかとひねくれる。
しかもチェーンメイルの上に大きな紋章入りの近衛兵服を着せられ、半
「あぁ、いやだ、いやだ──」
数呼吸して返事がないので、もう一度
十数回
大きな音がしても返事がないことにアイリは、昼の
ソファに王女が仁王立ちで腰に片手を当てアイリは指さされ、その突飛な姿を眼にして少女は唖然となった。
「我が名はイルミ・ランタサル! ここで会ったが運命! 今宵は我が寝室の警固を命じる!」
あんぐりと口を開いた少女はパイクを王女に振り向けぼそりと
「あんた、普通に『夜の警固を頼む』と言えんの?」
「いいぞ、いいぞ、アイリ。お前はわたくしにそこまで
あんたそこまで可哀想な王女なの? とアイリは覚めた眼で見つめた。その先でドレスのスカート両側をつまみ上げいそいそとソファから下りながら王女は
「警固するやつ、お城にいっぱいいるだろ?」
「馬鹿を言え! まがりなりにも
「じゃあ、昨晩までどうしてたの?」
「ドアの外に立たせて番をしてもらった」
「それでいいじゃん」
「だぁめだぁ! 護衛がいるかいないかわからん状況が気になって熟睡できん。そこでアイリ、お前が今晩からベッドサイドで警固に立ってくれ」
「まっ、毎晩!? 毎日夜勤やれと言うんかい!?」
アイリは眉間に
「
顔を逸らしスマして言う王女にアイリはパイクを振り上げ王女を
「
「いやだぁ、アイリ、
王女を本当にパイクで
「さあ、遊んでないで
そう言いながらイルミはリビング横のドアを開き先に入って行った。その後ろ姿に立ち上がろうとするアイリは問いかけた。
「もう? まだ陽が沈んでもいないんですけれど──」
「長く寝ないと美貌が損なわれるわ」
王家が衰退した理由がわかったと少女は覚めた眼を向け寝室へ入ろうとしてパイクの半分を出入り口上の壁に引っ掛け後頭部から大理石の床に倒れ大きな音を立ててしまった。
「大丈夫? あなたよく転ぶわね。不器用なの?」
「剣より長いもの扱わねぇ──」
「あらぁ? 物干し棒をあんなに上手に使いこなしていたじゃない」
そう言いながら王女は
「いらっしゃいなアイリ」
ベッドサイドへ歩いていた少女は両手を振り上げパイクを放り出し青ざめた顔を左右に激しく振った。
「そんな趣味
「あはははっ──ベッドに腰を下ろしなさいといったの」
怪訝な面もちでアイリは王女のベッドに浅く腰を下ろした。
「あなたみたいな子は始めてよ」
そりゃそうだと少女は思った。あの変人と村人から
「わたくしに飾らぬ言葉と態度で接してくれる。その意味がわかって?」
アイリは
「王女としてでなく、1人の人として相手をしてくれる」
「いいや、
「まぁ? それじゃあどうして──?」
「あんたは王女であり、イルミ・ランタサルで──1人の女の子だ。それだけだよ。王女さん、あんたの歳幾つなんだ?」
「今年、16になったの」
アイリは
嘘でぇ! こんなひねくれた16がいるもんかぁ! 俺と1つしか違わねぇじゃん!
「わたくしは大戦の翌年に産まれたの。アイリは大戦をご存知?」
「誰だって知ってるさ。隣国ウチルイとその先の大国デアチが結託しこの国を属国にしようと大軍で攻めてきた10日間戦争だろ」
「そうよ。若いのによくご存知ね」
知るもなにも、親父から童話のように幼少の時から聞かされてきたとアイリは思った。
「その戦いで父君は耐え抜いたけれど、多くの騎士と兵と民を失ったわ」
少女が
「わたくしはその
「
「それでも父君──ウルマス・ランタサルが下した決断で多くの人が死んだのだから当然よ」
「わたくしはこの国を──」
王女が長く言葉を句切るのでアイリが顔を向けると静かな寝息をたてていた。
アイリは目尻を下げると、王女の両足を引っ張り頭が枕に載るまで引き
そうして
「寝ずの番なんてやってらんねぇ」
それから夜もふけきった静かな
その顔を黒いターバンで隠した男は腰の後ろからソードブレイカー(:短剣の一種)を引き抜いた。