第3話 呪詛返(じゅそがえ)り
文字数 1,760文字
いい加減に解放してほしい。
馬達の間に吊 されっぱなしの裏の魔女キルシは隙 あらば逃げだそうとチャンスをうかがっていたが、機会どころか青髪の小娘や殺しそこねたノーブル国王女から忘れ去られ放置されていた。
怨恨 放置プレイ。
後ろ手に縄 でぐるぐる巻きにされて身体のあちこちが痺 れていた。いいや痺 れるのを通り越し────痛い!
いっそこいつらを丸焼きにしてやろうかとキルシは1度ならず思ったが、よくよく考えると操馬台 のものらを魔法で焼き殺せば自分も焼け死ぬ事が確実だと諦めた。
せっかく青髪の娘の守護霊を無効化する術を見いだしながら敵の手に落ちて愚 かしい。
手に落ちて────人の手の爪の事を汚いだのと、黒い爪の何がいけないのか!?
独りでいる時間が自分に一番合うのと、意志を貫 く強さにもっとも似合う表現だと爪を黒く染めるようになった。
手に────!
裏の魔女キルシは思いついた事にほくそ笑 んだ。
縛られた後ろ手の指を小刻みに動かしだすとほどなくして縄 の下側の一本が切れた。
爪の一枚を刃物のように研ぎ澄ませてあった。
満面の笑みを浮かべ魔女は吊 られ揺れるままに任 せ躰 をもぞもぞ動かしていたら、縛るものがいきなり緩み馬の間から地面に落ちて迫ってくる蹄鉄 を必死で避けると荷馬車の車輪が左右を通り過ぎた。
ホッとしてキルシは立ち上がると通り過ぎたはずの馬の足音が近づき振り向いて青ざめた。
目の前に続く荷馬車の二頭立ての馬が迫った。
「ヒィイイイっ! 後ろにも荷馬車がぁ!」
息を吸い込みながら悲鳴を漏らしたキルシは、逃げ出した馬車を追いかけ走り始めた。
荷台の後ろに座る下人 の女が振り向いて走ってくる魔女に気づき大声を上げた。
「王女様! 魔女が! 魔女が怒りながら迫って来ます!」
ちぃ──違う! うっ──馬に踏まれそうなだけだ、と思いながらキルシは必死で走っていた。
いきなり目前の荷馬車が止まり足を緩める余裕もなく魔女は思いっきり顔から荷台に激突し意識が吹っ飛んだ。
揺られて目を覚ますと馬の間に吊 されていた。
後ろ手にぐるぐる巻きにされて縄 が食い込んで──ああ、束 の間逃げ出せたのは幻 だったのかと魔女キルシは思った。
後ろの操馬台 から青髪をからかうイカレた君主の詭弁 が踊っている。
何で殴るんだのどうのうこうのと青髪が刃向かうが、いいようにあしらわれていた。
こんな連中に捕まったのかと思うと苛立ちが沸き起こってくる。
人の嫌がる時に嫌がる場所に現れると云われる肩書きが泣くぞとキルシは唇をへの字に曲げた。
そうだ! この場でこいつらに詛 いをかけて殺 れば、青髪への恨 みと、イルミ・ランタサル抹殺の契約が果 たされる。
大陸一の魔女と恐れられる我に呪詛 など朝飯前! 他の低級魔女の様に生け贄 を用意し何かに縋 りついたり、得体の知れぬ具材をコルドロンに放り込み汗を流しながらぐつぐつ煮 て林檎に塗って相手に食べさせるなど遠回りな事は必要なかった。
「陰の権力ゼルコダ──闇の知恵ハニーサックル──巫蠱 の棘 刺すように血の実を結ぶタクサス・コスピデータ────あっ!」
詠唱 の最中に右の馬が草叢 の石に蹄鉄 を滑らせガクンと横に揺れキルシは絶対に中断できないものを口ごもって驚き声を差し挟 んだ。
じゅ──じゅそがぁ────呪詛が返る!!!
裏の魔女キルシが顔を引き攣 らせた須臾 、操馬台 のアイリ・ライハラが指さした。
少女をいいようにからかっていたイルミ・ランタサルが振り向いて思わず鞭 を持った手を口に当て驚いた。
馬の間で簀巻 き少女擬 きが噴水のように血をぴゅーぴゅー噴き上げだした。
馬達の間に
後ろ手に
いっそこいつらを丸焼きにしてやろうかとキルシは1度ならず思ったが、よくよく考えると
せっかく青髪の娘の守護霊を無効化する術を見いだしながら敵の手に落ちて
手に落ちて────人の手の爪の事を汚いだのと、黒い爪の何がいけないのか!?
独りでいる時間が自分に一番合うのと、意志を
手に────!
裏の魔女キルシは思いついた事にほくそ
縛られた後ろ手の指を小刻みに動かしだすとほどなくして
爪の一枚を刃物のように研ぎ澄ませてあった。
満面の笑みを浮かべ魔女は
ホッとしてキルシは立ち上がると通り過ぎたはずの馬の足音が近づき振り向いて青ざめた。
目の前に続く荷馬車の二頭立ての馬が迫った。
「ヒィイイイっ! 後ろにも荷馬車がぁ!」
息を吸い込みながら悲鳴を漏らしたキルシは、逃げ出した馬車を追いかけ走り始めた。
荷台の後ろに座る
「王女様! 魔女が! 魔女が怒りながら迫って来ます!」
ちぃ──違う! うっ──馬に踏まれそうなだけだ、と思いながらキルシは必死で走っていた。
いきなり目前の荷馬車が止まり足を緩める余裕もなく魔女は思いっきり顔から荷台に激突し意識が吹っ飛んだ。
揺られて目を覚ますと馬の間に
後ろ手にぐるぐる巻きにされて
後ろの
何で殴るんだのどうのうこうのと青髪が刃向かうが、いいようにあしらわれていた。
こんな連中に捕まったのかと思うと苛立ちが沸き起こってくる。
人の嫌がる時に嫌がる場所に現れると云われる肩書きが泣くぞとキルシは唇をへの字に曲げた。
そうだ! この場でこいつらに
大陸一の魔女と恐れられる我に
「陰の権力ゼルコダ──闇の知恵ハニーサックル──
じゅ──じゅそがぁ────呪詛が返る!!!
裏の魔女キルシが顔を引き
少女をいいようにからかっていたイルミ・ランタサルが振り向いて思わず
馬の間で