第22話 剣技
文字数 2,131文字
アイリ・ライハラの受け止めた石の棍棒 を打ち下ろしたサイクロプス。
先に倒した奴より頭1つは大きなそいつの背後からさらに3体の同じ大きさのサイクロプスが横に広がった。
押し負けられそうな少女が顔を振り向け女暗殺者 イラ・ヤルヴァと女騎士ヘルカ・ホスティラ、若い男騎士ヨーナス・オヤラへ怒鳴った。
「最初から本気出せ! 全滅するぞ!」
剣 を引き抜きそれぞれが1体ずつの怪物と対峙 してすぐにイラとヨーナスがサイクロプスの握る石の棍棒 を避け逃げ惑い始めた。
魔物の打撃を受け流しては横へ素早く回り込み刃 を斬り込むヘルカは埒 が明かないと思った。頑強なサイクロプスの皮膚は彼女が力を込め斬り込んでも掠 り傷ほどしかダメージを与えられない。
駆け回りヨーナスとイラは逃げ続けていたがいつ痛打に身動きを奪われるかわかったものでなかった。
ヘルカは棍棒 を躱 しサイクロプスの脇腹へ剣 を斬り込んだ。まるで鋼の盾 に弾かれた様に刃 が火花を散らし滑った。その腹の先でアイリ・ライハラの向かい合うサイクロプスの胸元から派手な火花が飛び散っていた。それを見てヘルカは怪物の背後に回り込みながら眉根を寄せた。
少女が笑みを浮かべ長剣 を振り回していた。
あいつ────!?
「アイリ!」
「何だよヘルカ!?」
背後へ振り回された石の棍棒 を仰 け反 り避けヘルカは怒鳴った。石の棒が唸 りを上げ顔の前を飛びすぎる。
「お前こいつらを倒せるんじゃないのか!?」
返事がない。聞こえたはずだった。
「アイリ、どうして倒さない!?」
また返事がない。図星なのだと女騎士は思った。少女は倒せる相手とじゃれあっている。そんな余裕が我々にはないのに!
「ヘルカ、お前の手柄 を横取りできない──だろ? イラだってヨーナスだってこんな怪物と渡り合い勝ちを奪い取ったと自慢したい──だろ?」
だろ? あいつ遠慮してるのか!?
「それは時と場合による! 決定打を欠いた我々だと消耗しきり石棒の打撃をいずれ受けてしまう!」
「本当に────倒していいのか!?」
倒せるのか!? この巨漢の化け物を4体も!?
躱 した石の棍棒 がヘルカの二の腕を掠 り岩壁に激突し鋭い破片が幾つも飛び散った。その飛礫 から左手の甲で顔を守り女騎士は早口で怒鳴った。
「我ノーブル国騎士団第3騎士ヘルカ・ホスティラの名において命じる!」
「倒せアイリ・ライハラ!」
直後、サイクロプスの陰に隠れていた少女が大声で言い切った。
「皆 、その場を動くな! セヴン・ステップ!」
一閃 、3人の男女は眼を疑った。
アイリ・ライハラの戦っていたサイクロプスの際から空気の爆轟が響き青白い雷光が飛び出し4体の怪物の背後で輝きの渦になった須臾 、同時に怪物の頭部がゆっくりと肩の上から前へ滑り落ちた。
その頭を慌てて3人が跳び退 き躱 すと巨漢の胴体に斜めの筋が走りそれが広がりそこから赤い魔石の光りが溢 れ始めた。
その赤い光の先に低い姿勢で長剣 を構えるアイリ・ライハラが切っ先を振り下ろし立ち上がったのと同時に4体の怪物が体を斜めに両断され一瞬で黒い霧 と化すと消え失せた。
消えゆく霧 の先で剣 を鞘 に戻す少女を女騎士ヘルカ・ホスティラは唖然と見つめているとその少女が彼女に笑顔を向け呟 いた。
「お前の名において倒したぞ、ヘルカ」
本当に倒した。それも4匹の荷馬車ほどもある怪物を────!? 今のは何だったんだ!? もはやあれが剣技だとは思えなかった。アイリ・ライハラが尋常でない動きをするのは知っていたが、今、眼にしたあれは人のものではない。
「よくやったアイリ」
ヘルカ・ホスティラは取り繕 って平静を装うと剣 を鞘 に戻した。
「御師匠、凄い! すごい! さっきの技 は何ていうんですか?」
イラ・ヤルヴァが剣 を仕舞いながら少女に歩き寄り尋ねる。それに受け答えする少女を気にしながら若い男騎士ヨーナスがヘルカの元に来て呟 いた。
「見ましたか、ホスティラ様!? あれは魔剣の類 でしょうか? 人の技 ではありませんよ」
「気にするなヨーナス。胸にしまっておけ。我々がこうして息してるのもあいつのお陰なのだ」
「ヘルカ、ヨーナス! あんたらも気づいたんだ」
ギクリとした2人の騎士はアイリの方へ顔を向け、ヘルカが尋ねた。
「お前のソードスキルの事か?」
「違うよ。おかしいと思うんだ。ここがダンジョンで魔物が巣くう迷宮だとはわかるけれど──」
「何が言いたい、アイリ?」
「こうも都合よく怪物が出てくるなんて変だろ? だってまだ第2階層だぜ」
ヘルカは眉根を寄せ眉間に皺 を刻んだ。
確かにおかしい。まるで呼び寄せる様に魔物が続けて現れる。その理由に少女は気づいているのか?
「どう考える、アイリ?」
「たとえば一国1の我がまま王女が呼び寄せしてる──とか」
イルミ・ランタサルが!? ヘルカは血の気が引く様な気がした。いいや、王女には騎士団長ら4人の騎士が警護につき彼女を外の────。
「一国1とはどこの誰だ、アイリ?」
「あいつさ────頭くるんくるんの詭弁 女」
少女がやけに大声で話していることにヘルカが気づいた瞬間、洞窟の暗がりでくしゃみが聞こえヘルカとヨーナスは強張った顔を背後の暗がりへ振り向けるとそこに赤い光が浮かび上がった。
先に倒した奴より頭1つは大きなそいつの背後からさらに3体の同じ大きさのサイクロプスが横に広がった。
押し負けられそうな少女が顔を振り向け女
「最初から本気出せ! 全滅するぞ!」
魔物の打撃を受け流しては横へ素早く回り込み
駆け回りヨーナスとイラは逃げ続けていたがいつ痛打に身動きを奪われるかわかったものでなかった。
ヘルカは
少女が笑みを浮かべ
あいつ────!?
「アイリ!」
「何だよヘルカ!?」
背後へ振り回された石の
「お前こいつらを倒せるんじゃないのか!?」
返事がない。聞こえたはずだった。
「アイリ、どうして倒さない!?」
また返事がない。図星なのだと女騎士は思った。少女は倒せる相手とじゃれあっている。そんな余裕が我々にはないのに!
「ヘルカ、お前の
だろ? あいつ遠慮してるのか!?
「それは時と場合による! 決定打を欠いた我々だと消耗しきり石棒の打撃をいずれ受けてしまう!」
「本当に────倒していいのか!?」
倒せるのか!? この巨漢の化け物を4体も!?
「我ノーブル国騎士団第3騎士ヘルカ・ホスティラの名において命じる!」
「倒せアイリ・ライハラ!」
直後、サイクロプスの陰に隠れていた少女が大声で言い切った。
「
アイリ・ライハラの戦っていたサイクロプスの際から空気の爆轟が響き青白い雷光が飛び出し4体の怪物の背後で輝きの渦になった
その頭を慌てて3人が跳び
その赤い光の先に低い姿勢で
消えゆく
「お前の名において倒したぞ、ヘルカ」
本当に倒した。それも4匹の荷馬車ほどもある怪物を────!? 今のは何だったんだ!? もはやあれが剣技だとは思えなかった。アイリ・ライハラが尋常でない動きをするのは知っていたが、今、眼にしたあれは人のものではない。
「よくやったアイリ」
ヘルカ・ホスティラは取り
「御師匠、凄い! すごい! さっきの
イラ・ヤルヴァが
「見ましたか、ホスティラ様!? あれは魔剣の
「気にするなヨーナス。胸にしまっておけ。我々がこうして息してるのもあいつのお陰なのだ」
「ヘルカ、ヨーナス! あんたらも気づいたんだ」
ギクリとした2人の騎士はアイリの方へ顔を向け、ヘルカが尋ねた。
「お前のソードスキルの事か?」
「違うよ。おかしいと思うんだ。ここがダンジョンで魔物が巣くう迷宮だとはわかるけれど──」
「何が言いたい、アイリ?」
「こうも都合よく怪物が出てくるなんて変だろ? だってまだ第2階層だぜ」
ヘルカは眉根を寄せ眉間に
確かにおかしい。まるで呼び寄せる様に魔物が続けて現れる。その理由に少女は気づいているのか?
「どう考える、アイリ?」
「たとえば一国1の我がまま王女が呼び寄せしてる──とか」
イルミ・ランタサルが!? ヘルカは血の気が引く様な気がした。いいや、王女には騎士団長ら4人の騎士が警護につき彼女を外の────。
「一国1とはどこの誰だ、アイリ?」
「あいつさ────頭くるんくるんの
少女がやけに大声で話していることにヘルカが気づいた瞬間、洞窟の暗がりでくしゃみが聞こえヘルカとヨーナスは強張った顔を背後の暗がりへ振り向けるとそこに赤い光が浮かび上がった。