第9話 革命の夜
文字数 1,796文字
駆けつけノックもせずに扉を開いた。
居間にアルフレッド・ヨーク国王とパウリーナ王妃 、アグネス王女の3人の姿を見てクラウス・ライハラはひとまず胸をなで下ろし頭 を垂れた。
「ご無礼をお許し下さい」
「クラウス、反乱分子はどこまで」
「はい、城内大居館 が焼き討ちにあっております。ここへも後少しで詰めかけるでしょう」
国王は妻に抱かれる娘を見やった。
「クラウス、頼みがある。アグネスはまだもの心つかぬ歳ゆえ反乱分子の鉾先に曝 すわけにはゆかぬ」
「ヨーク国王、我 にはお三方を逃す魔術をこなせます」
「駄目じゃ。3人で逃れれば、反乱者どもはどこまでも追いすがるであろう。我と王妃 が贄 となれば追っ手は娘にまでは伸びぬ」
その覚悟にクラウスは言葉を返せなかった。
「クラウス、どうかアグネスだけでも安全な場所へ」
パウリーナ王妃 に言われアイリ・ライハラの父が顔を上げると抱かれた王女がじっと見つめ返していた。
王妃 は娘を抱いたままソファから立ち上がるとクラウスの元まで歩んだ。
「さあ、アグネス。クラウスおじ様に楽しい場所へ連れて行ってもらいなさい」
「どこに?」
クラウスが腕を差しだすとアグネスは王妃 から渡された。そうしてパウリーナ王妃 は娘の首に首飾りをかけた。
「これは王妃 様に献上しましたもの」
「よいのです。暴徒に奪われるよりも母の形見として」
「クラウスおじちゃま、まほうをまた見せて」
首飾りに気もとめずにアグネスはクラウスにねだった。
「ああ、アグネス──魔法の時間だ」
そう告げアグネスを片腕で抱いたクラウスは左腕を伸ばし数回円を描いた。
その指先に黄金の火花が踊り人の背丈の光の回廊の入口が開いた。
傍 らで閉じた扉の先から暴徒の騒ぎ声が聞こえていた。
「頼んだぞクラウス・ライハラ!」
後ろ髪引かれる思いで魔導師 ライハラは魔導回廊へ駆け込んだ。その背後で扉破られる音が聞こえていた。
城下へ逃げ延びたクラウスはアグネスを抱いたまま人目を避け先を急いでいた。
第1魔導師 で剣士であるクラウス・ライハラのことを疎 んじていた騎士らはきっと城内を暴徒の手先として魔法使いを探していることだろう。
追っ手は王族だけでなく、自分にも伸ばされている。
イモルキを逃げ回ってもいずれは追い詰められアグネスも反乱分子の手に落ちる。
それを逃れる方法はあったが、そのためにはアグネスを反乱分子の手に届かぬところへ隠す必要があった。
王族の血筋を連れて行ったと思わせるのだ。
クラウスは城下街の懇意にしている若夫婦のもとを尋 ねた。
「こんな夜半にどうされたのですか」
夫婦の旦那 は訪ねてきたクラウスをただ事じゃないと悟 りすぐに招き入れた。
「街はただならぬ騒ぎになっています。もしやお城で何事か?」
クラウスは若夫婦にことの真相を話すか迷った。
「いいか2千万デリ(日本円で5百万ほど)でこの娘を預かってほしい」
「何かお城であったんですね」
「頼む!」
夫婦は戸の外の騒ぎに顔を見合わせた。
「他ならぬクラウスさんの頼みです。お引き受けしましょう。お金は不要です。その子を私らの娘としてお預かりします」
クラウスは頭 振って金貨で膨らんだ袋を夫婦の方へさしだした。
「私は長くイモルキには戻れない。この子の顔を見に来ただけでこの子の命に関わってしまう」
袋をさしだす手を主人は握りしめた。
「わかりました。この娘のためにお預かりします。ところでこの子の名は? 名前も命に関わるのですか?」
「アグネス、ファミリーネームはあなた方の名で」
「わかりました。ですがクラウスさんが去ってこの──アグネスは悲しがりませんか?」
「大丈夫だ。芯は強い子だ。私のことは伏せてかまわない」
夫婦が頷 いたのでクラウスは立ち上がり腕の中で眠るアグネスを若夫婦に渡した。
「この場にいるのを憲兵 に見つかるのはまずい。私は行くがアグネスをよろしく頼む」
若夫婦の妻が抱く幼子を今一度眼にしてクラウス・ライハラは部屋を後にした。
外にでると街がざわめいていた。
スプリウム城を見上げると火の手が増えており王の居室の窓で炎が踊っていた。
すぐに騎士らは娘がいないことに気づく。
幸いにもクラウスには王女より1つ小さな娘がいた。
娘を抱いて目立つように妻と国外に逃げれば城下への追っ手はなくなるとクラウスは考えた。
アイリ・ライハラはこの国に2度と入れぬと思い宮廷魔導師 は踵 を返した。
居間にアルフレッド・ヨーク国王とパウリーナ
「ご無礼をお許し下さい」
「クラウス、反乱分子はどこまで」
「はい、城内大
国王は妻に抱かれる娘を見やった。
「クラウス、頼みがある。アグネスはまだもの心つかぬ歳ゆえ反乱分子の鉾先に
「ヨーク国王、
「駄目じゃ。3人で逃れれば、反乱者どもはどこまでも追いすがるであろう。我と
その覚悟にクラウスは言葉を返せなかった。
「クラウス、どうかアグネスだけでも安全な場所へ」
パウリーナ
「さあ、アグネス。クラウスおじ様に楽しい場所へ連れて行ってもらいなさい」
「どこに?」
クラウスが腕を差しだすとアグネスは
「これは
「よいのです。暴徒に奪われるよりも母の形見として」
「クラウスおじちゃま、まほうをまた見せて」
首飾りに気もとめずにアグネスはクラウスにねだった。
「ああ、アグネス──魔法の時間だ」
そう告げアグネスを片腕で抱いたクラウスは左腕を伸ばし数回円を描いた。
その指先に黄金の火花が踊り人の背丈の光の回廊の入口が開いた。
「頼んだぞクラウス・ライハラ!」
後ろ髪引かれる思いで
城下へ逃げ延びたクラウスはアグネスを抱いたまま人目を避け先を急いでいた。
第1
追っ手は王族だけでなく、自分にも伸ばされている。
イモルキを逃げ回ってもいずれは追い詰められアグネスも反乱分子の手に落ちる。
それを逃れる方法はあったが、そのためにはアグネスを反乱分子の手に届かぬところへ隠す必要があった。
王族の血筋を連れて行ったと思わせるのだ。
クラウスは城下街の懇意にしている若夫婦のもとを
「こんな夜半にどうされたのですか」
夫婦の
「街はただならぬ騒ぎになっています。もしやお城で何事か?」
クラウスは若夫婦にことの真相を話すか迷った。
「いいか2千万デリ(日本円で5百万ほど)でこの娘を預かってほしい」
「何かお城であったんですね」
「頼む!」
夫婦は戸の外の騒ぎに顔を見合わせた。
「他ならぬクラウスさんの頼みです。お引き受けしましょう。お金は不要です。その子を私らの娘としてお預かりします」
クラウスは
「私は長くイモルキには戻れない。この子の顔を見に来ただけでこの子の命に関わってしまう」
袋をさしだす手を主人は握りしめた。
「わかりました。この娘のためにお預かりします。ところでこの子の名は? 名前も命に関わるのですか?」
「アグネス、ファミリーネームはあなた方の名で」
「わかりました。ですがクラウスさんが去ってこの──アグネスは悲しがりませんか?」
「大丈夫だ。芯は強い子だ。私のことは伏せてかまわない」
夫婦が
「この場にいるのを
若夫婦の妻が抱く幼子を今一度眼にしてクラウス・ライハラは部屋を後にした。
外にでると街がざわめいていた。
スプリウム城を見上げると火の手が増えており王の居室の窓で炎が踊っていた。
すぐに騎士らは娘がいないことに気づく。
幸いにもクラウスには王女より1つ小さな娘がいた。
娘を抱いて目立つように妻と国外に逃げれば城下への追っ手はなくなるとクラウスは考えた。
アイリ・ライハラはこの国に2度と入れぬと思い宮廷