第3話 ベア・トラップ
文字数 2,650文字
ひえぇぇぇ!
2人目の声かけてきたにこやかな 叔父 さんからアイリ・ライハラは思わず跳び離れ、ヘッレヴィ・キュトラの後ろに回り込んだ。
「お嬢さん達、長旅で大した食事もとれなかったでしょう。今なら入信するとご馳走しますよ」
「いえ、結構! 我々はダイエット中にて飽食は敵ですから!」
元異端審問官がきっぱりと言い切ったので、叔父 さんがあきらめると少女は思った。
「ダイエット中! それは良かったです。ドバドバと脂肪を下せるダイエット薬が家にあるんです。どうぞいらして下さい。道すがらお名前を教えて頂けましたら──綴り音痴なので紙にお名前を────」
アイリがキュトラの横からそっと覗 くと最初に声かけてきた叔母 さんと同じ紙をその叔父 さんが突きだしているのを見て少女は眼を丸くした。
「そんな邪悪な薬は問題だ!我 はデアチ国異端審問官ヘッレヴィ・キュトラなる! 薬の入手もとなど詳しく聞こうじゃないか!」
腰に両手当て元異端審問官が鋭く指摘すると、叔父 さんの顔色が曇り後退 さり始めた。
「薬、くすりね、あぁ、あれは使い切ってもうなかったかな?」
そう独り言のように呟 きその男は急ぎ足で離れて行った。
「ヘッレヴィ──もしかしてこの街の人ってみんな入信迫るのか?」
問いながらアイリは通りを見回すと、遠目に何人かがじっとこちらを見ていることに気づき怖くなり顔を逸 らした。
「あぁ、ちょっと信心深い連中が多いんでな。貴君は離れてうろうろしてると、雁字搦 めにされるから用心なさい」
そう説明しながら元異端審問官が宿屋のドアを開き入って行くのでアイリは慌てて後を追った。
中に入ると正面カウンター脇の階段を乗せてきてくれた幌馬車の商人のおっさんが鼻歌を口ずさみ登っていくところだった。
「なぁなぁ、あのおっさん、なんで言い寄られないの?」
「ああ、あの男はウサロミ教徒だからな。頭に巻くターバンはウサロミ教徒独特の被り物だからだ」
そう告げ元の女異端審問官がカウンターに行くと、受付にいる小太りの叔父 さんが声かけてきた。
「いらっしゃいませぇ。お泊まりですか、それともご休憩ですか?」
「女2人でご休憩とは失敬な。それは異端者の発想。泊まりです」
少女は、お子様なのでやり取りの意味が半分しかわかっていなかった。
「では宿泊台帳にお名前をお願いします」
そう言って宿屋の叔父 さんがカウンターに載ってる台帳を引き寄せインク壷に立てた羽ペンと一緒に差しだした。
台帳を開くなりいきなりヘッレヴィ・キュトラがその1枚をつかみ丸めカウンターの中に投げ捨てた。そうして2枚目も鷲掴 みにしたのでアイリが覗 き込むと手のひらから見えている紙に少女は顔を引き攣 らせた。
表で声かけてきた連中が差しだした紙だぁ!
ヘッレヴィがまた丸め投げ捨て3枚目を握りつぶした。
「主 ! 台帳をだせ! 何枚でも散らかしてやるぞ!」
元異端審問官が押し殺した声で脅すと小太りのおやじがばつの悪そうな顔で手をカウンターの陰に下ろし別の綴じた紙束 を天板に差しだした。
それを開きキュトラが名を書き始めたのでアイリは自分は自分で書くとページを覗 き込むと元異端審問官が『大馬鹿もの』と乱暴に大きく書いているので眼が点になった。
「ヘッレヴィ、何書いてるんだよ!?」
少女の問いに答えずキュトラはめくった次のページにも『大馬鹿もの』と書き3枚目を開きそれをアイリは見て顎 を落とした。
違う様式の入信書だぁ!!
「主 、さっさと本物の台帳を出さぬと冗談では済まさぬぞ──我 はデアチ国異端審問官のヘッレヴィ・キュトラなる。強引な信者獲得も教義に反していると拷問部屋でしつこく言われたいか?」
冷たい言い方で元異端審問官が脅すと、おやじが苦笑いして3冊目の紙束 を取り出し差しだした。それの開かれたページにキュトラはサインすると横で見てるアイリに差しだした。
少女はページの隅々まで見回し入信書でないと確かめ、ページを捲 り裏も確かめ、ヘッレヴィの下に自分の名を書き連ねた。
その台帳をおやじに返そうとして、男がニヤニヤしてるので少女は慌 てひったくるように引き戻しひっくり返した。裏表紙を確かめ怪訝 な顔でそれを宿屋のおやじに突き返し思った。
油断も隙 もねぇ。
「主 、部屋へ行く前にここで食事をしたい。提供しているか?」
キュトラが申し出るとおやじが素っ気なく返事した。
「そっちを入ってもらうと食堂になってまっせ」
元異端審問官が頷 き階段とは逆側の壁にあるドアのない出入り口へ行くので少女もついて行くと、隣の部屋は4人掛けのテーブルが5卓置かれている食堂だった。
その1つの椅子にキュトラが腰を下ろしたのでアイリも向かいの席に腰かけた。
「お腹すいたぁ」
「そうだな。我 も怒ったのでお腹がへった。沢山たのもう」
少女は立ててあるメニューに手を伸ばして、横にインク壷に刺さった小さな羽ペンがあることに気づき、恐るおそるメニューを開いた。
20品あまりの普通のメニューだった。
「いらっしゃいませ。お決まりですか?」
女将 にしては若いエプロン姿の女が奥の厨房 から出てきてエプロンのポケットから小さな手板を取り出しオーダーを書きとめようと用意した。
2人でシチューや肉料理など7品を頼むとエプロン姿の女が注文書きに書きとめその手板をくるっと向き変えてアイリ・ライハラに突きだしたので少女は食卓にインク壷がある理由を気づいた。
「ち、ちゅうもん書きじゃねぇのかよぉ!?」
「間違いがないかご確認をお願いします」
入信します、とか書かれてるんじゃないのかと少女はビビりながら受け取り確かめた。
きちんと7品目の料理の名前と数が書かれているただのお品書きだった。
「うん! これでお願い。先に飲み物ちょうだい」
そう言って少女が手板を返すと受け取る給仕に来た女の目が一瞬光ったように見えてアイリは顔を強ばらせた。
気のせいだ。考え過ぎだ。
キュトラがあんまり脅すから心配し過ぎてるんだ。
そうアイリは心落ち着かせようとしてるといきなりヘッレヴィ・キュトラが立ち上がったので少女は震え上がった。
「アイリ、この食堂をでるぞ! 注文は断る!」
元異端審問官が少女と給仕に来たエプロン姿の女に告げ出入り口へとさっさと歩き始めた。
「なんでぇ!? 食べていこうよ」
慌 てて席を立ったアイリ・ライハラはヘッレヴィ・キュトラの背姿を追いながら尋 ね理由に気づいた。
出入り口の上に表示された文言に顔が引き攣 った。
これより入るものは入信希望者なり。
2人目の声かけてきた
「お嬢さん達、長旅で大した食事もとれなかったでしょう。今なら入信するとご馳走しますよ」
「いえ、結構! 我々はダイエット中にて飽食は敵ですから!」
元異端審問官がきっぱりと言い切ったので、
「ダイエット中! それは良かったです。ドバドバと脂肪を下せるダイエット薬が家にあるんです。どうぞいらして下さい。道すがらお名前を教えて頂けましたら──綴り音痴なので紙にお名前を────」
アイリがキュトラの横からそっと
「そんな邪悪な薬は問題だ!
腰に両手当て元異端審問官が鋭く指摘すると、
「薬、くすりね、あぁ、あれは使い切ってもうなかったかな?」
そう独り言のように
「ヘッレヴィ──もしかしてこの街の人ってみんな入信迫るのか?」
問いながらアイリは通りを見回すと、遠目に何人かがじっとこちらを見ていることに気づき怖くなり顔を
「あぁ、ちょっと信心深い連中が多いんでな。貴君は離れてうろうろしてると、
そう説明しながら元異端審問官が宿屋のドアを開き入って行くのでアイリは慌てて後を追った。
中に入ると正面カウンター脇の階段を乗せてきてくれた幌馬車の商人のおっさんが鼻歌を口ずさみ登っていくところだった。
「なぁなぁ、あのおっさん、なんで言い寄られないの?」
「ああ、あの男はウサロミ教徒だからな。頭に巻くターバンはウサロミ教徒独特の被り物だからだ」
そう告げ元の女異端審問官がカウンターに行くと、受付にいる小太りの
「いらっしゃいませぇ。お泊まりですか、それともご休憩ですか?」
「女2人でご休憩とは失敬な。それは異端者の発想。泊まりです」
少女は、お子様なのでやり取りの意味が半分しかわかっていなかった。
「では宿泊台帳にお名前をお願いします」
そう言って宿屋の
台帳を開くなりいきなりヘッレヴィ・キュトラがその1枚をつかみ丸めカウンターの中に投げ捨てた。そうして2枚目も
表で声かけてきた連中が差しだした紙だぁ!
ヘッレヴィがまた丸め投げ捨て3枚目を握りつぶした。
「
元異端審問官が押し殺した声で脅すと小太りのおやじがばつの悪そうな顔で手をカウンターの陰に下ろし別の綴じた紙
それを開きキュトラが名を書き始めたのでアイリは自分は自分で書くとページを
「ヘッレヴィ、何書いてるんだよ!?」
少女の問いに答えずキュトラはめくった次のページにも『大馬鹿もの』と書き3枚目を開きそれをアイリは見て
違う様式の入信書だぁ!!
「
冷たい言い方で元異端審問官が脅すと、おやじが苦笑いして3冊目の紙
少女はページの隅々まで見回し入信書でないと確かめ、ページを
その台帳をおやじに返そうとして、男がニヤニヤしてるので少女は
油断も
「
キュトラが申し出るとおやじが素っ気なく返事した。
「そっちを入ってもらうと食堂になってまっせ」
元異端審問官が
その1つの椅子にキュトラが腰を下ろしたのでアイリも向かいの席に腰かけた。
「お腹すいたぁ」
「そうだな。
少女は立ててあるメニューに手を伸ばして、横にインク壷に刺さった小さな羽ペンがあることに気づき、恐るおそるメニューを開いた。
20品あまりの普通のメニューだった。
「いらっしゃいませ。お決まりですか?」
2人でシチューや肉料理など7品を頼むとエプロン姿の女が注文書きに書きとめその手板をくるっと向き変えてアイリ・ライハラに突きだしたので少女は食卓にインク壷がある理由を気づいた。
「ち、ちゅうもん書きじゃねぇのかよぉ!?」
「間違いがないかご確認をお願いします」
入信します、とか書かれてるんじゃないのかと少女はビビりながら受け取り確かめた。
きちんと7品目の料理の名前と数が書かれているただのお品書きだった。
「うん! これでお願い。先に飲み物ちょうだい」
そう言って少女が手板を返すと受け取る給仕に来た女の目が一瞬光ったように見えてアイリは顔を強ばらせた。
気のせいだ。考え過ぎだ。
キュトラがあんまり脅すから心配し過ぎてるんだ。
そうアイリは心落ち着かせようとしてるといきなりヘッレヴィ・キュトラが立ち上がったので少女は震え上がった。
「アイリ、この食堂をでるぞ! 注文は断る!」
元異端審問官が少女と給仕に来たエプロン姿の女に告げ出入り口へとさっさと歩き始めた。
「なんでぇ!? 食べていこうよ」
出入り口の上に表示された文言に顔が引き
これより入るものは入信希望者なり。