第24話 伝承(でんしょう)
文字数 1,746文字
★ 第24話
ヘルカ・ホスティラが数人の役人を連れ戻ってくるとアイリと狼娘のリーナが組んず解れつの立ち回りをしていた。
「アイリ!」
女騎士に怒鳴られアイリとリーナはつかみあったまま止まって顔を振り向けた瞬間狼娘は人の顔に戻った。
「次長と課長さんを連れてきた。大部屋の魔物を見てもらう」
ヘルカがそう説明するとアイリが上に乗ったリーナを押しのけ立って頼んだ。
「早く見てもらってくれよ」
そうアイリがそう頼むとヘルカは役人に告げた。
「こちらへ」
そう言って女騎士は扉を開きイルベ連合の役人を部屋へ案内した。
出入り口に立った役人は青ざめて眼を見張った。
「こりゃ酷い!」
「ご説明した通りあなた方はこの魔物ら──狼族 に操られていたのです」
「次長、あの大きな獣の死骸は統括官 ヴィヒトリ・ラウタヴァと同じ服を────」
「なんてことだ。大騒ぎになるぞ」
そう次長が嘆 くとヘルカが落ち着いた声で説明した。
「そう大層なことじゃないでしょう。大事なことは事態が食い止められたことを市民に丁寧に説明することです」
アイリはハラハラと成り行きを見守っていた。役人らがパニックを起こせばせっかく狼の魔物を倒したのが水の泡だ。
「大層じゃない!? これは前触れだ!」
前触れ? 何の、とヘルカ・ホスティラは疑念を抱き尋 ねた。
「他にも狼族 が?」
「違うんです。昔、連合の南の砂漠の先から魔族の軍団が攻め込んで来たのですが、現政権ともいえる統括官 が就任してからなりを潜めていたんです」
魔族!?狼族 は緩衝 ? 魔族の軍団────昔、旅人の吟遊詩人 がそんな話ししてたっけ。嫌な話しの流れだとアイリは皆 に背を向けしゃがみこんだ。
「そんなもの軍を出して返り討ちにすればいいじゃないですか」
そう女騎士が指摘した。
「だめなんです。連合には名将がおらず魔物の軍団を率いる六災厄が一人────火刑人のヴェラが連合の兵を十数年に渡り屠 り続け六災厄の一角すら追い返せない有り様だったのです。このものらがいなくなってまた軍団が攻め込んできたら」
六災厄!? 火刑人のヴェラ!? なんかまた凄そうな奴が────アイリはこれ以上面倒ごとは知らんと沈黙を続けたが女騎士は騎士道に火がついてしまった。
「狼族 を打ち取ったのは我々。手を貸しましょうぞ」
そう言い切りヘルカ・ホスティラが傍 らにいた騎士団長へ振り向くと少女は背を向けしゃがみこんで両耳を手でふさいでいるのを眼にして、その小さな背を蹴り込んだ。
「ふぎゃ!」
大の字で床に倒れ込んだアイリはうめき声をこぼしその背姿を狼娘リーナが面白そうに覗 き込み少女の後頭部に片足を乗せ勝ち誇った。
「アイリ、連合が魔物の軍団に倒れれば次はノーブル国が窮地に立たされる。それはわかるな」
リーナの足を振り払いひっくり返すと少女は座り込んで恨めしそうな顔で女騎士を見上げ小声で言い返した。
「しらん」
とぼけるアイリを説得にかかるヘルカ・ホスティラは続けた。
「ノーブルが落ちると次々に他の国へも魔物らは手を伸ばす」
その説明にアイリは言い返した。
「サタン捕まえたんだぞ──魔物が手出しするわけないじゃん!」
ヘルカはため息をついて理由を話した。
「いいかアイリ、サタンは悪魔の王だ。だが魔物らを支配するのは魔王だ」
「なんだよ!? そのサタンは二人いるみたいな話!」
アイリは女騎士へ腕を振り上げ指さし指摘すと立ち上がった狼娘リーナも腕振り上げ指さした。
「イズイ大陸の魔物らは魔王によって生み出された。だが魔王らの軍団は古 の勇者一行に追い立てられ大陸の南に封じられたと聞く」
「封じられた!? 魔物なんて迷宮にうじゃうじゃいるじゃん!」
ヘルカ・ホスティラは視線を一度天井に振るとアイリへと下ろした。
「魔王の残した痕跡──魔石に触れた生き物が怪物化したんじゃないかな」
「お前、迷宮でそんなこと言ってなかったじゃん!」
「貴君、何を言う。不確かなことを騎士はそう口にせぬものだ」
アイリは眼が点になった。勇者一行云々 も不確かな話じゃねぇのか!? と思ったが女騎士に口で勝てそうにない。
「魔王軍団の件はいかがいたしましょう?」
イルベ連合の役人に言われアイリとヘルカは強ばらせた顔を振り向けた。
「もちろん任せたまえ!」
「知るかぁ!」
ヘルカ・ホスティラが数人の役人を連れ戻ってくるとアイリと狼娘のリーナが組んず解れつの立ち回りをしていた。
「アイリ!」
女騎士に怒鳴られアイリとリーナはつかみあったまま止まって顔を振り向けた瞬間狼娘は人の顔に戻った。
「次長と課長さんを連れてきた。大部屋の魔物を見てもらう」
ヘルカがそう説明するとアイリが上に乗ったリーナを押しのけ立って頼んだ。
「早く見てもらってくれよ」
そうアイリがそう頼むとヘルカは役人に告げた。
「こちらへ」
そう言って女騎士は扉を開きイルベ連合の役人を部屋へ案内した。
出入り口に立った役人は青ざめて眼を見張った。
「こりゃ酷い!」
「ご説明した通りあなた方はこの魔物ら──
「次長、あの大きな獣の死骸は
「なんてことだ。大騒ぎになるぞ」
そう次長が
「そう大層なことじゃないでしょう。大事なことは事態が食い止められたことを市民に丁寧に説明することです」
アイリはハラハラと成り行きを見守っていた。役人らがパニックを起こせばせっかく狼の魔物を倒したのが水の泡だ。
「大層じゃない!? これは前触れだ!」
前触れ? 何の、とヘルカ・ホスティラは疑念を抱き
「他にも
「違うんです。昔、連合の南の砂漠の先から魔族の軍団が攻め込んで来たのですが、現政権ともいえる
魔族!?
「そんなもの軍を出して返り討ちにすればいいじゃないですか」
そう女騎士が指摘した。
「だめなんです。連合には名将がおらず魔物の軍団を率いる六災厄が一人────火刑人のヴェラが連合の兵を十数年に渡り
六災厄!? 火刑人のヴェラ!? なんかまた凄そうな奴が────アイリはこれ以上面倒ごとは知らんと沈黙を続けたが女騎士は騎士道に火がついてしまった。
「
そう言い切りヘルカ・ホスティラが
「ふぎゃ!」
大の字で床に倒れ込んだアイリはうめき声をこぼしその背姿を狼娘リーナが面白そうに
「アイリ、連合が魔物の軍団に倒れれば次はノーブル国が窮地に立たされる。それはわかるな」
リーナの足を振り払いひっくり返すと少女は座り込んで恨めしそうな顔で女騎士を見上げ小声で言い返した。
「しらん」
とぼけるアイリを説得にかかるヘルカ・ホスティラは続けた。
「ノーブルが落ちると次々に他の国へも魔物らは手を伸ばす」
その説明にアイリは言い返した。
「サタン捕まえたんだぞ──魔物が手出しするわけないじゃん!」
ヘルカはため息をついて理由を話した。
「いいかアイリ、サタンは悪魔の王だ。だが魔物らを支配するのは魔王だ」
「なんだよ!? そのサタンは二人いるみたいな話!」
アイリは女騎士へ腕を振り上げ指さし指摘すと立ち上がった狼娘リーナも腕振り上げ指さした。
「イズイ大陸の魔物らは魔王によって生み出された。だが魔王らの軍団は
「封じられた!? 魔物なんて迷宮にうじゃうじゃいるじゃん!」
ヘルカ・ホスティラは視線を一度天井に振るとアイリへと下ろした。
「魔王の残した痕跡──魔石に触れた生き物が怪物化したんじゃないかな」
「お前、迷宮でそんなこと言ってなかったじゃん!」
「貴君、何を言う。不確かなことを騎士はそう口にせぬものだ」
アイリは眼が点になった。勇者一行
「魔王軍団の件はいかがいたしましょう?」
イルベ連合の役人に言われアイリとヘルカは強ばらせた顔を振り向けた。
「もちろん任せたまえ!」
「知るかぁ!」