第12話 でっけぇ
文字数 2,227文字
北の軍事国であるデアチから、さらに北に行くと気温は人が営 める域から下がり続け大地は凍 てつき動植物もめったに見かけない。風も剣の刃 のように容赦なく切りつけてくる。
城塞都市から馬を走らせること4日──剣竜騎士団第6位の女騎士エステル・ナルヒに連れられてアイリ・ライハラは鞍 に揺られ続けていた。
「ずずずず────っ」
鼻水が唇の上でカピカピに凍るので、すするか拭き取るしかない。だが空気に触れる肌が痛いのでもふもふから顔を出すのが辛くアイリは吸い込んでばかりいた。
重ね着した外套 の頭覆 いの僅 かな隙間 から見える娼婦のような女騎士を見失うまいとアイリはうとうとするのを我慢する。
こんな人も住んでない土地で迷子になったらミイラになっても誰も見つけやしない。この先何百年も荒れ地に転がったままになるなて嫌だった。
それにしてもエステルはどこに連れて行こうというのだ?蘇 らせたいその何たらに関係した場所に行くと女騎士が言いだしついて来るように言い含められた。アイリはテレーゼ・マカイを生き返らせた方法を迂闊 にもエステル・ナルヒに口走ってしまい、その邪悪な感じのするものの復活を阻止するためになんとしてもついて行く必要があったが、馬の上で寒さに震え続けなんだか面倒くさくなってきた。
何たらが復活してから倒せばいいじゃん。と内なる声が甘く囁 き続ける。
「なあ! まだ遠いの?」
アイリ・ライハラが大声で前を行く第6騎士の背に問うと相手が風にかき消されそうな声で応えた。
「あと少しどすえ。もう山の麓 どす」
山? アイリは女騎士の先の方へ視線を向けた。
荒れ地がずっと続くばかりで僅 かにも見えやしない。
「山なんてないじゃん。また同じ日数かかるとか言うんじゃないの? ちょっと休んで火にあたろうよ!」
だだをこね始めると馬が急に落ち着かなくなってアイリは慌 てて手綱 を引いてなだめた。
「ほら、暴れるなよ────!?」
ふと馬の不安がる理由がわかりアイリ・ライハラは眼を瞬 いた。
何もなかった茫漠 の荒れ地に山並みが断崖の壁の如 く連なりそびえその麓 にいた。
先を行くエステル・ナルヒが馬の向きを西に変え進みだしアイリもそれに倣 い左の手綱 を引いて進む向きを変えた。
絶対に見落としてなんかなかった。
荒れ地のずっと先まで見えていた。
それなのにこの山脈はどこからわいてきたんだとアイリは顔覆 いの下で眉根しかめ考えた。
もしかしたら何かの呪いで見えていなかったとか。よく森の精霊が人を迷わす類 の幻想魔法とか。きっと人に見つかるとまずいものを隠すのに山ごと──山脈ごと消していたんだ。
あれこれとアイリが思い巡らしていると山肌に不似合いな人工物が見えてきた。
何本もの円筒をした石材の柱に支えられた岩の屋根。その大きさが半端でなく大きい。城の最高の塔よりも高かった。その柱の間隔も広く居館 が楽々と数棟並んでしまうほどだ。
まるで巨人のための神殿のようだとアイリは眼を見張った。
その石柱並ぶ中央まで行きエステル・ナルヒは馬を下りたのでアイリも傍 で鞍 から下り女騎士に尋 ねた。
「ここ──何だよ?」
「古 のまだ神々祭 られだす以前のもんどす」
そう教えエステル・ナルヒが1段が奥行きのありすぎる石段を上り出したのでアイリは馬へ腕振り上げ指さし尋 ねた。
「馬、どうすんだよ!? いなくなったら帰られなくなるじゃん!」
「捨て置いて行きんしょう。復活させたら馬など必要でのうなりんすから」
アイリは急いで自分の馬とエステルの乗ってきた馬の鞍 と荷物を外し落とし馬たちを自由にさせて女騎士を追いかけて石段を駆け上った。
ちょっとした家ほどもの幅のある柱の際 を抜けると大理石のようなマーブルの模様入った巨石の石畳 が敷き詰められている闘技場 よりも広い場所に出た。
すでに山の中だとは思っても暗くはなかった。
壁に施されている様々な動植物のレリーフがパステルカラーに発光しておりその明かりが柔らかく広場を照らしだしていた。アイリは見渡しながらとても邪悪なものがいた場所などだとは思えなかった。
その広場をまるで知ってるようにエステル・ナルヒは奥へと歩いてゆく。追いついて横に並び歩きアイリは問うた。
「なぁ、エステル。あんたここに来たことあるのかよ」
「ええ、8年ほど前に辺境調査隊としてこの神殿を見つけんした」
こんな大層なものが見つかったら大陸中に噂 が広がっているはずだが、アイリは生まれてこのかたお伽話 でも耳にした覚えがなかった。
「それじゃあ、あんたんとこの国王が独り占めしようと隠させたの?」
「いいえ、遠征隊でここから生き残って帰られたのは私一人でありんしたから」
アイリ・ライハラは眼を游 がせた。
ここってヤバいとこじゃん!
首が痛い。
王妃 様からアイリ・ライハラとエステル・ナルヒの2人を追いかけて企 みの真相を探ってこいと命じられた女騎士ヘルカ・ホスティラは馬を走らせずっと北へと向かっていた。
体力と気力では抜きん出た女騎士は持ち前の脳筋ぶりを遺憾なく発揮し道案内の通りに3日3晩馬を走らせて2人に追いつきかけていた。
「くそう──宮廷魔術師の奴────これでは嫌がらせではないか! 2人の場所を案内する遣 いをと約束したのはいいが、なんであんなに高く!? 羅針盤や紐に下げた宝石ではいかんのかぁ!?」
3日上を見続ける女騎士ヘルカ・ホスティラの上空に真っ白な鷹 がアイリ・ライハラの元へと飛び続けていた。
城塞都市から馬を走らせること4日──剣竜騎士団第6位の女騎士エステル・ナルヒに連れられてアイリ・ライハラは
「ずずずず────っ」
鼻水が唇の上でカピカピに凍るので、すするか拭き取るしかない。だが空気に触れる肌が痛いのでもふもふから顔を出すのが辛くアイリは吸い込んでばかりいた。
重ね着した
こんな人も住んでない土地で迷子になったらミイラになっても誰も見つけやしない。この先何百年も荒れ地に転がったままになるなて嫌だった。
それにしてもエステルはどこに連れて行こうというのだ?
何たらが復活してから倒せばいいじゃん。と内なる声が甘く
「なあ! まだ遠いの?」
アイリ・ライハラが大声で前を行く第6騎士の背に問うと相手が風にかき消されそうな声で応えた。
「あと少しどすえ。もう山の
山? アイリは女騎士の先の方へ視線を向けた。
荒れ地がずっと続くばかりで
「山なんてないじゃん。また同じ日数かかるとか言うんじゃないの? ちょっと休んで火にあたろうよ!」
だだをこね始めると馬が急に落ち着かなくなってアイリは
「ほら、暴れるなよ────!?」
ふと馬の不安がる理由がわかりアイリ・ライハラは眼を
何もなかった
先を行くエステル・ナルヒが馬の向きを西に変え進みだしアイリもそれに
絶対に見落としてなんかなかった。
荒れ地のずっと先まで見えていた。
それなのにこの山脈はどこからわいてきたんだとアイリは顔
もしかしたら何かの呪いで見えていなかったとか。よく森の精霊が人を迷わす
あれこれとアイリが思い巡らしていると山肌に不似合いな人工物が見えてきた。
何本もの円筒をした石材の柱に支えられた岩の屋根。その大きさが半端でなく大きい。城の最高の塔よりも高かった。その柱の間隔も広く
まるで巨人のための神殿のようだとアイリは眼を見張った。
その石柱並ぶ中央まで行きエステル・ナルヒは馬を下りたのでアイリも
「ここ──何だよ?」
「
そう教えエステル・ナルヒが1段が奥行きのありすぎる石段を上り出したのでアイリは馬へ腕振り上げ指さし
「馬、どうすんだよ!? いなくなったら帰られなくなるじゃん!」
「捨て置いて行きんしょう。復活させたら馬など必要でのうなりんすから」
アイリは急いで自分の馬とエステルの乗ってきた馬の
ちょっとした家ほどもの幅のある柱の
すでに山の中だとは思っても暗くはなかった。
壁に施されている様々な動植物のレリーフがパステルカラーに発光しておりその明かりが柔らかく広場を照らしだしていた。アイリは見渡しながらとても邪悪なものがいた場所などだとは思えなかった。
その広場をまるで知ってるようにエステル・ナルヒは奥へと歩いてゆく。追いついて横に並び歩きアイリは問うた。
「なぁ、エステル。あんたここに来たことあるのかよ」
「ええ、8年ほど前に辺境調査隊としてこの神殿を見つけんした」
こんな大層なものが見つかったら大陸中に
「それじゃあ、あんたんとこの国王が独り占めしようと隠させたの?」
「いいえ、遠征隊でここから生き残って帰られたのは私一人でありんしたから」
アイリ・ライハラは眼を
ここってヤバいとこじゃん!
首が痛い。
体力と気力では抜きん出た女騎士は持ち前の脳筋ぶりを遺憾なく発揮し道案内の通りに3日3晩馬を走らせて2人に追いつきかけていた。
「くそう──宮廷魔術師の奴────これでは嫌がらせではないか! 2人の場所を案内する
3日上を見続ける女騎士ヘルカ・ホスティラの上空に真っ白な