第10話 策謀(さくぼう)

文字数 1,556文字

 アイリ・ライハラの顔を見つめていたデアチ国剣竜騎士団第6騎士のエステル・ナルヒがいきなり口元を手で隠し笑いだした。

 アイリ・ライハラは世界のほとんどをくれるとか、嘘っぱちでからかわれてたのだと思った。

「何なのでありんすか? 主さんの額に天誅(てんちゅう)って書いてありんすが?」

 てっ、天誅(てんちゅう)!? あ、あのやろう! 天使になった女暗殺者(アサシン)イラ・ヤルヴァがナルヒとの策謀(さくぼう)聞きつけてやがったな!

 そう気づいてアイリは急いで周囲を見まわした。

 ふわふわと浮いてるイラはいねぇ! あいつどこで聞いてやがって勘違いしやがった!?

 王妃(おうひ)イルミ・ランタサルの暗殺を食い止め世界を手にする口実でこの娼館(しょうかん)女が(たくら)む邪悪な存在の転生を阻止しようと考えていただけなのに! とアイリは片手で(ソード)をぶら下げ右手のひらで必死に額を(こす)った。

「それじゃあ、エステル──イルミ・ランタサルに手を出さなくて、世界のほとんど(・・・・)を俺にくれるんだな。そしたら冥府(めいふ)への道案内と苦悩の河(アケローン)渡しを引き受けてやる」

「頼みんすよアイリ・ライハラ。それでは何を用意したらいいのでありんすか? 武具や甲冑は持って行けんすか?」

 アイリは考え込んでしまった。双子のマカイ姉妹や黒騎士は甲冑(アーマー)(ソード)を手にしていたが、俺は頭を強く打ちつけ気が飛んだ寸前まで盗賊の(ソード)を持ってたのに煉獄には手ぶらだった。だけども服は俺んちのだったし。

「う────ん、一様は用意して」

「それではさっそく準備にかかりんしょう──騎士団長──どの」


 アイリ・ライハラがエステル・ナルヒに手を引かれその場を歩き去ると、近くの居館(パレス)から(のぞ)き込んでいた強ばらせた顔を引っ込め女騎士ヘルカ・ホスティラが王妃(おうひ)イルミ・ランタサルの元へ脚を速めた。

 庭園で話しするアイリ・ライハラ(もど)きの青髪の女と併合国(へいごうこく)となったデアチ国剣竜騎士団の娼婦の(ごと)き騎士が眼に止まった。

 寸秒、『お前──人じゃないもの(よみがえ)らせようとしてるだろ』という声が聞こえヘルカは建物の角に身を潜め様子を(うかが)い始めた。

 途切れとぎれに聞こえるは王妃(おうひ)イルミ・ランタサルに手出しするのどうのこうの。

 そしてアイリ・ライハラ(もど)きが、人に決まってるだろうがぁ!と声を荒げ。

 世界のほとんど(・・・・)を俺にくれるんだな。そしたら冥府(めいふ)への道案内と苦悩の河(アケローン)渡しを引き受けてやると本性を吐いた。



 やはりあの2人──人ならざるもの!!!



 妖艶なエステル・ナルヒという第6騎士はその地位にいながら騎士らしくもなく、青髪の女はまるでアイリ・ライハラの顔を奪い損ねたような(おも)もち。

 なんとしても王制転覆の(はかりごと)を阻止せねば。



 あの2人捕らえて魔女裁判の場に引き()りだしてやる!!!

 甲冑(アーマー)のマントを(なび)かせ鉄靴(サバトン)やかましく小走りの女騎士は2人が通って行った廊下を避け、迂回(うかい)して王妃(おうひ)がいる王室の扉が見えてきた。

 肩で風切って向かってくる女騎士に扉左右に立つ警固の近衛兵が気づき振り向き困惑げな面もちになった。

「通せ! 火急の用件だ!」



 乱暴に扉を(たた)き返事待たずして扉開くと王妃(おうひ)がソファに上に立ち王笏(おうしゃく)を向けて何事か怒鳴っていた。


「なんですの、ヘルカ・ホスティラ?」


「お、王妃(おうひ)様こそ、な、何をなさっているのですか!?」

 イルミ・ランタサルの問われ逆にヘルカ・ホスティラは問い返してしまった。

「アイリが急に成長したのを(みな)に説得できるものを考えましたので熱弁を組み立てていました」

 それを聞いて女騎士ヘルカは激しく(かぶり)振り大声で告げた。

王妃(おうひ)様ぁ! そのアイリ・ライハラと第6騎士エステル・ナルヒは食わせものです! 2人は魔物で地獄よりとんでもない魔物を召還する(くわだ)てを!」


 イルミ・ランタサルは冷ややかな眼でヘルカ・ホスティラを(にら)みつけ問うた。



「なぜゆえにアイリ・ライハラが────魔物と決めつけるのです!?」



「あれらの(たくら)みを耳にしました!」





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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