第4話 妖魔の力

文字数 1,811文字

 (つの)持ちの小娘が御輿(みこし)から下りて前へ出てくると横へ片腕を振り上げた。

 刹那(せつな)見渡す限りに骸骨兵(スケルトン)が一斉に地に(ひざ)をつき武器を立て(こうべ)垂れた。

 その光景を見てアイリ・ライハラは唇を(ひず)ませた。

 もしかしてこの兵士らは魔王軍と何百年も戦って戦場で倒れた兵士らの肉を()ぎ配下にしているのかもしれなかった。

「青髪の娘よ──どうやらお前は人どもが担ぎ上げる勇者なのか?」

 そう六災厄が一人──火刑人のヴェラが声を響かせ笑みを浮かべた。

「勇者なんかじゃないよ。ただの騎士だ」

「先兵に押された感想はどうだ? 眼にしたものへの不安か? 一人立たされた怒りか?」

 ヴェラがゆっくりと問うとアイリ・ライハラの(かたわ)らにいる狼娘リーナが騎士団長の(そで)を引っ張り耳に顔寄せて(ささや)いた。

「アイリお姉ちゃん、あいつ魔族の中でも1、2を争うほど根性悪いんですよ」

 それを耳にしてアイリはヴェラの笑みの理由を知りぼそりとリーナに(つぶや)いた。

「どや顔してる奴に限って真っ先に倒されるんだ」

 聞こえないのか火刑人のヴェラはピクリとも表情を変えず(さげす)んだ笑みを浮かべたままアイリへ視線を向けている。

 だいたい頭にあんなどでかい(つの)つけた奴が素早く動けるわけねえじゃんとアイリは思った。

 魔軍団の指揮官は初めて表情を変えた。笑みを浮かべたまま半眼になると人間の兵の先頭にいる青髪の小娘を目下に(にら)んだまま口角を吊り上げた唇を(くず)した。


「45年放置しこの有り様か────」


 魔の軍団率いるヴェラは冷ややかに青髪の少女率いる兵士らに言い放った。

「アイリ・ライハラとやら──お前を殺し我が配下に(おとし)めてあげよう」

 アイリ・ライハラは腰を落とし抜いた長剣(ロングソード)をゆっくりと振り回し始めた。それを見て火刑人のヴェラは死を前にした舞踊(ぶよう)かと笑みをさらに吊り上げたが、青髪の少女の方から凄まじい(うな)りと上がり続ける圧に魔団の指揮官は目を細めた。

 青髪の少女が(ソード)を恐ろしい速さでヴェラに振り抜いてピタリと止めた刹那(せつな)、逆巻く空気の(うな)りが押し寄せ六災厄が一人──火刑人のヴェラの燃えるような波打つ髪が背後へと飛び上がった。


 一瞬でヴェラの周囲を護る数百の骸骨兵(スケルトン)がバラバラに砕け散った。


 魔団の女王は真顔になるとアイリ・ライハラに告げた。

「目を疑う──魔法も使わずしてこれだけの配下を瞬時に────」


「やはりお前は勇者なのだな」

 ヴェラにそう言われアイリは顔の前で片手のひらを振った。

「うんにゃ。違うと言ってるだろう。これだけのこともできますよということだ」

 六災厄が一人は再び嘲笑(ちょうしょう)を浮かべた。

「いいだろう人間。我の力を見せてやる」

 ヴェラがそう告げると何の仕草もせずに一気にアイリの方へ(ほのお)のカーペットが伸びた。





 切り結んだ相手の技量に胸ときめく。

「少しはできるようだな女騎士──だがこれはどうだ?」

 ヘルカ・ホスティラに一撃のあと直近に着地し左に回り込んだ妖魔の小娘が虚仮威(こけおど)しでない口上のあといきなり踏み込んで間合い詰め戦斧(ハルバード)先端のスピアを突き込んできたのをヘルカ・ホスティラは()()って(あご)(かす)りそうな目睫(もくしょう)()(かわ)した。

 その戦斧(ハルバード)を一瞬で引き振り回しロミルダという妖魔の小娘が大きすぎる(おの)を猛速で振り回した。

 それを女騎士は振り上げた長剣(ロングソード)(やいば)ぶつけ火花散らし軌道を逸らし後退(あとず)さった。

 あの女騎士はロミルダの速さに合わせてくる!

 六災厄の魔団長が直近の配下ローデリヒは遠目に見ていてその人の騎士の反射神経と腕力に(おどろ)いた。



 小さいが双角(そうかく)あるがゆえの腕力かと女騎士ヘルカ・ホスティラは眼を細めた。

 その妖魔の小娘が砂地を蹴り猛速でヘルカとの間合いを詰め続けると飛び上がり恐ろしい速さで横様に回転して女騎士の顔目掛け戦斧(ハルバード)の大きな(やいば)を打ち込んだ。

 その大(やいば)をヘルカ・ホスティラは顔の前に振り上げた長剣(ロングソード)で受け止め火花飛ばし弾き返し驚き顔で間合いを取り直した妖魔の小娘に言葉(こぼ)した。

「そんな大きな得物(えもの)持ちながら小柄なくせに」

 無表情のロミルダはヘルカに勧告した。

「何を(おどろ)いている人の騎士よ。(われ)の動きはこんなものではないと言っただろう────苦しめるつもりはない。その首に(やいば)打ち込ませなさい」

 そう告げながら妖魔の小娘はヘルカの利き腕とは逆側に回り足を運びながら女騎士に言葉をかけた。

(われ)相手では(ろく)な死に方は選べないと覚悟せよ」

 その有利な方へ回り込むロミルダへ正面を向けながらヘルカ・ホスティラは思った。



 こいつアイリ・ライハラほどではない!





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登場人物紹介

 アイリ・ライハラ

珍しい群青の髪をした15歳の美少女剣士。竹を割ったようなストレートな性格で周囲を振り回し続ける。

 イルミ・ランタサル

16歳にして策士策謀の類い希なるノーブル国変化球王女。アイリにくるんくるんだの馬糞などと言われ続ける。

 ヘルカ・ホスティラ

20歳のリディリィ・リオガ王立騎士団第3位女騎士。騎士道まっしぐらの堅物。他の登場人物から脳筋とよく呼ばれる。

 イラ・ヤルヴァ

21歳の女暗殺者(アサシン)。頭のネジが1つ、2つ外れている以外は義理堅い女。父親はドの付く変態であんなことやそんな事ばかりされて育つ。

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