刃ぶつかり合う波動に氷の壁から水滴が弾け飛ぶ。
銀眼の魔女と一戦交えるノッチに何か手助けはと辺り見回すイルミ・ランタサルは天井から下がった
氷柱に気づいた。
飛びとびに抜けた床の穴が邪魔をし
叩きつけに行けぬが投げつけることはできると
王妃は飛び上がり天井から下がった
氷柱を
叩き折った。
1本では足らぬとばかりにイルミは繰り返し数本を折るとその1本をつかみ上げ振りかぶって、激しく動き回る銀眼の魔女へ狙い定めた。
だがあまりにも動きが素早く投げるに投げれずにいると落とし穴の縁にいきなり筋肉質な腕が突きだされイルミは驚いて
後退さった。
落とし穴から
這いだそうとしてきたのは
見窄らしい成りをした鼻の下から
顎にかけて白髪混じりの絡みきった
顎髭の初老の男。
「何を見ておるかぁ! 手が滑るんじゃ!! 手伝えそこの女ぁ!!!」
爺に言われムスッとしたイルミ・ランタサルはそれでも落とし穴に捕らわれていたものだとばかりに男が穴から抜けるのを手伝った。
初老の男が抜け出すとすぐに次の手が落とし穴から突き出て氷の床に指を滑らせ、イルミ・ランタサルは次のものを引き上げるとヘルカ・ホスティラだった。
そうして次々にテレーゼ・マカイとアイリ・ライハラが引き上げられ
王妃はアイリに初老の男のことを尋ねた。
「アイリ、このものは魔女に捕らわれていたのですか?」
「うにゃ(違うよ)。
冥府の
苦悩の河の
河守────カローンだよ」
冥府の
河守ですってぇ!? イルミ
王妃は思わず引いてしまった。3人は穴底に激突死して生き返るついでに
冥府の住人を連れてきたことになるのか。
王妃は少女に顔寄せて小声で尋ねた。
「どうして
冥府の人を連れてきたの!?」
ノッチが銀眼の魔女と
鍔迫り合いするのを見つめていたアイリは
王妃に問われ簡単に答えた。
「魔女への奥の手」
奥の手ですって!? こんなよぼよぼの年寄りがぁ!?
王妃が盗み見るとカローンが片手上げ微笑んだ。
「よっ!! 銀眼の魔女ってあいつかぁ?」
そう言って
剣戟繰り広げる白髪の女と青髪の男を見つめながらカローンは立ち上がった。
「女の方だよ。男は味方だから手をだすなよ」
そうアイリ・ライハラが言うとカローンは右腕を数回振り回して
両膝を折って一気に落とし穴を飛び越え青髪の男の
傍に下り立った。
「なんだお前かカローン」
そうノッチに言われカローンは顔をほころばせた。
「なんだぁノッチスじゃないか。じゃあ本当にこの女が悪人なんだな」
「そうだ手をかせ」
ノッチに教えられカローンは素手で銀眼の魔女へと進み出てその女に言い捨てた。
「
冥府では女も平等にあつかう。つまり殴ってよし、だぁ」
いきなり銀眼の魔女は素手の老人に
斬りかかった。その
強速で迫る
2口の氷の
刃をカローンは
両拳で打ち据えた瞬間、爆轟に周囲の壁の氷に
罅が走った。
「この
拳、
柔じゃねえぞ。幾千年も数億人の頭ぶん殴ってきたからなぁ」
言い捨てるノッチに銀眼の魔女は数歩
退いて間合いを取ってニヤついた。
一方、落とし穴の反対側で女騎士ヘルカ・ホスティラとテレーゼ・マカイが剣を引き抜いたのでアイリが止めに入った。
「まてよ。あの
爺さん、半端なく強いから見てろよ」
寸秒、脚を繰り出し交差させた銀眼の魔女はスピンし横様に氷の
剣を目にも止まらぬ速さで振り抜いた。
またもや爆轟が広がり衝撃に天井の
氷柱が落ちてきてノッチは
慌てて跳び退いた。
カローンは突き出した右腕の前腕を立てて片腕で
2振りの
刃を受け止めていた。
それを眼にしてヘルカが
顎を落としアイリに
尋ねた。
「あ、アイリ、あの
爺さんばなれしたオヤジ。す、素手だけで銀眼と渡り合ってる────」
直後、カローンは左の
拳打ち出し魔女の腹に
正拳打ち込むと銀眼の魔女が壁に飛ばされぶつかった壁が
罅割れすり鉢状に陥没した。
強ぇえええ!
苦悩の河で渡り合った時に強いとアイリ・ライハラは思ったがここまでの強さだと思いもしなかった。
だが
苦悩の河の
河守の強さもここまでだった。
陥没した
氷壁から出てきた銀眼の魔女がいきなり姿消すとカローンの
傍に同時に出現し
刃打ち込んだ。