第75話 白い魔導師たち

文字数 1,923文字

リューズの配下、白い魔導師が背後からセレスに襲いかかる。
1人の白い魔導師が生み出した巨大な闇の固まりは、セレスの羽が触れるとその光を飲み込んでゆく。

「無礼者メ!闇ヨ、飲ミ込メ!」

真っ黒なその闇は、魔導師の声に反応して大きく広がり、セレスをひと飲みにしようと襲いかかった。

「無礼はお前よ、不埒者!」

セレスは振り向きざまに左手を上段から振り下ろしてそれを一閃し、両断した闇に腕輪のある右手を広げると一瞬で吸い込まれる。
あまりにもあっさりと無効化された力に驚いた魔導師の横で、もう1人が杖を振って巨大なドラゴンを生み出す。

「飲ミ込ンデシマエ!」

ウヲオオオオオオォォォ

人を一飲みしようかと言うほどのドラゴンが、青い炎を吐きながらセレスに向けて雄叫びを上げた。

「うるさい!」

ドラゴンの咆哮に、セレスが一喝して一気に向かい、くるりと舞ってドラゴンの顔に蹴りを入れた。

「バッ馬鹿ナ!巫子ガ蹴ッタ?!」

ドラゴンの身体は紙のように蹴られた場所が吹き飛び、セレスの羽がまるで巨大な手のように形を変えて引きちぎって行く。

ギャアアアアアアア……

「ククク、なんともろい作り物よ!」

「マ、マサカ! コノヨウナコトガッ!」

その場にいた白い魔導師達が、ひるんで身を引いた。

「オ、オノレ地ノ巫子!我ガ力ヲ見ヨ!」

自分たちの力が通じない焦りに、それでもまた術を繰り出そうとする白い魔導師たちを見下ろし、セレスが翼を元に戻すと腹立たしそうにため息を吐いた。


「愚か者よ、思い出すが良い!遙か昔、せいせいたるお前を神木のようだと言うたはこの私だ。
この有様、お前を神木と定めて下さったヴァシュラム様に顔向けできぬわ!不届き者!

すべての神木であった物よ!おのれを思い出し聖なる大地に返れ!

汝が役目は破壊にあらず!この地の守りと悟るがよい!

地に祝福あれ!」


「ナニッ!?」

白い魔導師達の手にある、杖がブルリと震えた。
セレスの言葉に応えるように、杖からニョキニョキと枝が伸び、根が生える。
それはズシンと重く、魔導で空飛ぶ魔導師達が次々と地面へと引き戻されていく。
杖は木に戻り、地に根を張ろうとしてところ構わず、城中の魔導師の杖さえもが一斉に反応した。

「ツ、杖ガッ!!」
「オオ!杖ガ!」

セレスの元に急ぐ城内の魔導師も、床に根を張る杖に足を取られ、先に進む事が出来ない。
そうしていると、突然駆け寄ってきた兵たちが白い魔導師達を背後から、または正面から、そして囲むように次々と切っていった。

「オノレ!人間ゴトキガ!ギャアア!!」

抗う事も出来ず、杖に縛られていた魔導師は切られて杖とローブを残して消えてゆく。
そして、落ちたローブの中には奇妙なほど大きな虫や爬虫類の死骸が転がっていた。

「今こそ決起だ!化け物の魔導師達を排除しろ!
元の平和なトランに戻すときぞ!」

「おお!」
「おおお!!白い魔導師達を切れ!」

声の響く中、廊下でエルガルドが叫び、部下たちが剣を振り上げ雄叫びを上げて走る。
エルガルドは横に立つ王子に一礼し、周りの兵にうなずいた。
その後ろには、帰ったはずのアトラーナの騎士たちが控えている。

「あの魔導師の部屋は?」

「あの輝いている所だ、だがすでに崩れてしまって危険だ。
下から外に回ろう。」

「承知した。少しでもセレス様のお近くに参る。」

「セレス様の邪魔をしてはならぬ。適当に距離をとってお見守りせよ。」

うなずきあってエルガルドたちに先導され、セレスの元へと急ぐ。
トランの人々は、セレスが行動を起こすときこそ千載一遇のチャンスとばかりに、王子の指示で準備を急いでいたのだ。
時を置けば、必ずリューズが予見で先読みしてしまう。
だからこそ、この数時間のうちに人を集め、水面下で伝達し、行動を起こす時を待ちじっと息をひそめていた。
ただ、杖を無効化される事は思ってもいないことだったが、白い魔導師達は次々と宿り主を殺され、その数を減らしていく。

「東の塔はあのままでは全壊しますが。」

「良い、この化け物どもを一掃するためなら、セレスにくれてやる。
壊れたらまた作ればよい、それだけの技術はこのトランにはあるのだ。
塔の再建はこのトラン王家再生の礎となろう。」

「は」

王子が進むと、床に根を張る杖の横に切り捨てられたローブから瀕死のトカゲが這い出してきた。

「まさか、人でさえもないとは……」

王子は眉間にしわ寄せ、腰の剣を振り上げる。
すると側近がその手を遮るように抑えた。

「御身の剣が汚れます。」

「構わぬ。汚れ(けがれ)も知らぬ王になる気はない!汚れを知って、本物の王となるのだ。」

王子は、ちゅうちょ無く剣を振り落としトカゲの首を落とす。
そして、切られてヒクヒクと身体を震わせるトカゲに、さげすむような目で見下ろし、プイと顔を背けた。
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