第64話 泥棒猫

文字数 1,795文字

「ああああ!行っちゃったニャ!
聞き覚えのある声と思って急いだのに、行っちゃったニャ〜!
ニャーッ!怪獣?!あ、あれ?ライアニャ!助けてー!!」

「おや?王子の猫じゃないですか?なんでこんな所に?」

アイ猫が、泣き声を上げてライアの腕に飛び込んでゆく。
麻袋に入れられてここまで連れてこられ、そして森を一人でさまよっていたのだ。
真っ暗闇の森の中は不気味で心細く、このまま死ぬのかと思った。
さすがにネコの身体でも、野ねずみや虫は食べられない。

「キアンの家来に捕まって、こんなとこに捨てられたニャ!
もう嫌ニャ!あっちの世界に帰るニャ!
ライニャ、魔導師紹介してニャ!」

「それは構いませんが……どの魔導師でもと言うわけにも………
いかがしましょうフレアゴート様。」

ふと、フレアゴートを見た。
フレアゴートはふいと目を背け、しばし考え見下すようにアイを見た。

「異世界人よ、お前には契約があったはず。
忘れたとは言わせぬ。」

「えっ!け、い、や、く??なんだったかニャ?
えーとお……」

目の前の鳥がフレアゴートと聞いて、恐怖にアイが焦ってライアにしがみつく。
ライアがイケメンでも、ふんにゃりする暇もない。
アイたちは、確かに地の精霊王と口約束をしてきたのだ。
今まですっかり忘れていたけれど。

「あのヴァシュラムが、利もなくお前たちに力を貸すわけも無かろう。
もう一人は運命を受け入れ、水の流れのごとく動いているぞ。
お前はここで退くのか?
お前はそれで、異世界に戻れば元の姿に戻れると思うのか?
ククククククク…………………」

「なっ!ニャンですってえええええ!!」

バッと飛び降り、フレアゴートの元へ駆け寄る。
全身の毛が逆立ち、だまされたと言う思いが身体中を駆け巡った。

「あたし達は、ただ、キアンとかがどうにゃってるか見に来たかっただけにゃのよ!
なんでよ!元に戻してよ!冗談じゃないニャーーーッ!」

声の限り叫んでも、精霊王は涼しい顔で彼女を見下ろしている。
フンと鼻であしらわれ、カッと頭に来た。
しかし、だからと言ってどうしようもない。
飛びかかって爪で掻き立てても、相手はここに実体があるのかさえわからないのだ。
アイが知っているフレアゴートは、長い角がある四つ足の馬か鹿かわからないような動物で、少なくとも鳥ではなかった。
フーフー荒い息を整え、つばを飲み込んでとりあえず落ちつく。
もう、どう足掻いてもあとがない。
腹をくくるしかなかった。

「いいわ、わかったわよ。
あれが契約とは思わなかったけど……こんなずるいやり方……悪魔みたいニャッ!
フンッ!
そうよ、あれね!
ヨーコは導く、あたしは盗む。
それが何か知らないけど、あたしは泥棒猫って事。
でも、何か力をちょうだい!今度のことで懲りたわ。
城に戻れば、またあいつがあたしを狙ってくる。もうそれだけは嫌!」

火の鳥が何を考えているのか顔をそらして、そして突然アイに向けて口を開ける。
するとまるでテレビで見た怪獣のようにアイに向かって火を吐いた。

「ぎゃああああああ!!」

一瞬火に包まれ、悲鳴を上げて腰を抜かす。
が、特に別段身体は変わったと思えないが、よく見ると毛の色が薄いグレーから真っ黒に変わった。
しかも、なんだか前よりほっそりスレンダーになっている。

「びっくりするじゃない!し、死んだと思った!
ん?これなによ、ちょびっと色が変わっただけニャン!ケチ!」

「城内は暗い、見つけにくくしてやったのだ。
その内わかる、泥棒猫。クククク……
お前は我が巫子の友なれば、我も力を貸してやろうというのだ。ありがたく受け取るがいい。」

なんて根性のねじ曲がった精霊!
思わずおしっこ漏らしたが、猫で良かったと思った。

「なによもったいぶって。ちょっと色が変わっただけじゃにゃい。」

「しかし、見た目は全然別の猫ですよ。
これならレスラカーン様のために、私が拾ってきた猫としましょう。」

「あ、そうか。じゃああたしはキアン達に知らんぷりしてればいいのね。」

「そう言うことです。
ん?迎えが来たようです、では私はこれで。
さあ参りましょう、レスラカーン様はきっとお喜びになりますよ。
茹でた鳥肉を準備させましょう。大変でしたね。」

ライアに抱き上げられ、ホッと一息ついた。
近くにミュー馬の泣き声がして、ライアがそちらへ手を上げ火の鳥に頭を下げる。
火の鳥は無言でうなずき大きく羽を広げると、リリス達が向かった方向へひと筋の光となって飛んでいった。
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