第8話

文字数 916文字

この地域に住む小学生たちは、大抵何らかの習い事をしていた。公文、そろばん、書道、スイミング、ピアノ、体操、絵画、学習塾、、、こどもたちは学校に習い事に遊びに毎日忙しく過ごしていた。

花純は一年生からスイミングと書道に通っていた。丈瑠が通っている教室に自分も通いたい、と両親に頼み込んだのだ。
花純にピアノを習わせるつもりでいた祖母は反対をしたが、「スイミングは規律を身につけるため、書道は落ち着きを持たせるため」と花純の両親に売り込まれ、それならばピアノは落ち着いて楽器と向き合えるようになってからでも遅くはない、スイミングと書道で構わない、と承諾することとなった。


スイミングスクールには火曜と金曜に通っていた。スクールバスの送迎もあったが、バスの指定乗降場が家から離れていたため、丈瑠と花純は20分ほどの道のりを歩いて通っていた。

「ねえお兄ちゃん。」
花純は隣を歩いている丈瑠の服の裾をつまんで引っ張りながら言った。
「いつもプールに入る前に言うやつって誰のことなの?」
二人が通うスイミングスクールは、教室のはじめと終わりに全員集合して挨拶をする。開始前にはインストラクターが「スポーツ訓!」と大きく号令をかけて、プールの壁に掲げられている訓示をこどもたちが唱和していた。
「誰のこと?ってどうして?」
丈瑠は花純の言う「プールに入る前に言うやつ」が何のことかは理解したが、質問の意味はわからなかった。
花純は小走りで丈瑠の前にまわり込み、クルリと振り返り足を止めた。
「いつも言うでしょ、『明るくなかよく元気よく、みがけよこころ、きたえよからだ、今日もみんなでがんばろー!』って。」
「うん、言うねえ。」
「誰のことなんだろうね、スポーツ君って。」
丈瑠も足を止めて少し考えた。誰のことでもない。スポーツ君という人がいるわけではない。自分自身はそれを理解しているが、このなんでなんで星人の妹に説明は難しい。そして、できることなら巻き込まれたくない。
「うーん、誰でしょう、っていうクイズかもしれないから、花純がプールの先生にこっそり聞いてみるといいんじゃないかな。」

丈瑠がそう答えると、花純は満足げに、誰がスポーツ君だろう、と推理をしながら歩き出した。

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登場人物紹介

吉井花純(よしいかすみ)


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