第7話

文字数 846文字

吉井家の親族は大半が「先生」と呼ばれる職に就いていた。その中でも、自身の名を冠した幼稚園を創設した父方の祖母は群を抜いて支配力が強く、まさに女帝だった。

丈瑠と花純は祖母が創設した幼稚園に通っていた。

「あの園長の孫」という色眼鏡で大人たちは二人のこども達を見た。もちろん、その大人たちには他の園児たちの親も含まれた。
丈瑠が甲斐甲斐しくウサギの世話をする姿や、新しい遊びを発見した手柄を自分のものにせず他の園児たちと共有して楽しむ姿、決して自分自身が前に出て目立とうとせずに周りをサポートする様子を見て、大人たちは驚嘆した。
「さすが園長先生のお孫さんですね。」と言われれば言われるほど、園長は自慢の孫である丈瑠を大切に扱った。

花純は人見知りせずに誰にでも元気にあいさつをする愛想のいいこどもだったが、少々わんぱくが過ぎた。園内の冒険をして滑り台の横にある柘榴の木の実を取って食べてみたり、階段の手すりを腹這いで滑り降りたり、柵を飛び越えようとしてスカートを破いたりした。そんな花純が周りから「園長の孫」として見られることが園長は面白くなかった。
「わたしの孫なのだから、最低限園内では模範的なこどもでいるべきだ。丈瑠は利発な子なのに花純は落ち着きがない。」
園長は利己的な大人の事情を片手で指が余る年齢の孫娘に押し付けて、たびたび叱った。
「お兄ちゃんを見習ってちゃんとしなさい。」
花純には「ちゃんと」が何なのかわからなかったが「お兄ちゃんのようにすればいい」ということは理解できた。
まず花純は母に頼んで髪を短く切ってもらうことにした。スカートをやめてショートパンツを履きたがった。自分のことを「ぼく」と呼ぶことにした。

「みてみて、おばあちゃん。この髪、似合う?」
「いいね、花純は髪が短い方が似合うよ、おばあちゃんは好きだな。」

おばあちゃんが褒めてくれた。好きだと言ってくれた。「相手が自分に求めている姿」を想像して応じれば、相手は自分に好意を返してくれる。
それは、花純にとって大きな成功体験となった。
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登場人物紹介

吉井花純(よしいかすみ)


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