第3話

文字数 889文字

校舎と校庭の境目には、階段と呼ぶにはだいぶ横幅の広い段差がある。

花純はピラミッドの土台みたいなこの段差が気に入っていた。ピラミッドの土台の上に建っているから校舎はピラミッドだな。わたしたちは毎日ピラミッドに吸い込まれて、吐き出されているんだな。そんなことを考えていた。
「脱出だー!」と言いながら花純は段差を一段抜かしで駆け降りて、校庭と段差の境目を門に向かって走った。


南門近くまで走ると、見知った顔が段差に腰掛けているのを見つけた。
「でみちゃん!」
花純は秀実の前に駆け寄り、しゃがんで目線の高さを合わせてから大きめの声で彼女の名を呼んだ。
目を合わせてからぴょん、と勢いよく立ち上がり、三段目に背負ったままのランドセルを置くようにして秀美と並んで二段目に座った。

「びっくりしたー!いかちゃんはいつも元気だねえ。」
秀実は大きな目をさらにひとまわり大きく丸くしてコロコロと笑った。
でみちゃんのふたつ結びの髪はエビのしっぽみたいにユラユラしていて好きだ。
花純はユラユラを眺めながら身体を揺らして一緒に笑った。
しばらくして秀実は急に動きを止め、真面目な顔をして
「あのね、今日わたしどうしても南公園に行きたいんだけど、いかちゃんも一緒に来てくれる?」
と内緒話のような早口で言った。

学区域内には大きめの公園が複数あり、南公園はそのなかで比較的新しい公園だ。
秀実が行きたいのなら一緒に行くことに全く問題はないが、どうしても行きたい、の「どうしても」の部分を今聞いたほうがいいかの判断が難しい。
花純は秀実の顔の横で揺れるエビの尻尾を左右交互に見て考えた。今聞く、後で聞く、今聞く、後で聞く…よし。花純は秀実の顔を見、目を細めて言った。

「行こう!わたしも南公園の気分になってきた!」


南公園に向かう道のりで、秀実は花純になぜ自分は今日どうしても南公園に行きたいのかについて打ち明けた。

いかちゃん、わたし、好きな人がいてね。その人たちのグループが、今日南公園で遊ぶって話してたの。だから、南公園に行けば会えるでしょ?あと、もしかしたら一緒に遊べるかもしれない。お願い、いかちゃんに協力してもらいたいの。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

吉井花純(よしいかすみ)


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み