第2話 

文字数 1,179文字

わたしには年子のお兄ちゃんがいます。
お兄ちゃんは吉井丈瑠(よしいたける)という名前で、友達からは「しいたけ」と呼ばれています。
お兄ちゃんはしいたけで、わたしはいかすみです。
「よっしー」とか「花純ちゃん」と呼ばれることも多いけど、仲のいい友達からは「いかすみん」とか、「いかちゃん」って呼ばれています。とても気に入っています。


お兄ちゃんが習字に通い始めたので、わたしも通わせてもらいました。
お兄ちゃんがスイミングを始めたので、わたしも一緒に始めました。
お兄ちゃんが少年野球チームに入った時は、わたしは入れてもらえなかったのでグローブだけ買ってもらいました。
服を買ってもらう時は、お兄ちゃんが黄色でわたしがピンクで色違いのお揃いにしてもらっています。


おばあちゃんはいつもお兄ちゃんに優しいので、お兄ちゃんと同じことをすればわたしにも優しくしてもらえるんじゃないかと思います。


6歳の時、初めて家族でディズニーランドに行きました。その時、ミニーちゃんのピンクのバッグを買ってもらったんです。お父さんに、「ひとつだけ買ってあげるからじっくり選びなさい。」と言われて、選びに選び抜いた最高にかわいいキラキラしたバッグです。
お兄ちゃんが選んだのはミッキーのぬいぐるみでした。お兄ちゃんとお揃いじゃないものを選んだのは初めてのことでした。

初めて自分ひとりで選んで決めた大好きで大切なバッグだったので、家でいつも抱えていました。
ある日、従妹の莉子ちゃんが遊びに来ました。
莉子ちゃんはわたしのミニーちゃんのバッグを見て、自分も欲しいと泣きました。

わたしは莉子ちゃんが泣いていて困ったけど、このバッグはわたしの大切なものだからどうしてもあげられないんだ、ごめんね、と言いました。
あげられない、と言ったら莉子ちゃんはさらに泣きました。泣き止まない莉子ちゃんの様子をみたおばあちゃんが、怒っているような責めるような口調でわたしに言いました。
「花純ちゃんはお姉ちゃんでしょ?莉子ちゃんが欲しいと言ってるのにどうしてあげないの?どうしてちいさい子に意地悪をするの?」
「これは、お父さんがひとつだけ選んでいいよって買ってくれたバッグで、とても大切で、意地悪じゃなくて、ひとつしかないから、あげちゃったらなくなっちゃうから、だから…。」
言いながらわたしも涙が出てきました。おばあちゃんに怒られるのは初めてでした。もうこの瞬間から、わたしの大切なミニーちゃんはわたしのものであり続けることはなくなりました。
泣きながらわたしは大事なバッグを莉子ちゃんに渡して、部屋に戻って布団の中で大声で泣きました。

お兄ちゃんと同じにしておけば怒られなかったのに、わたしが自分の好きなものを選んだから悲しいことが起きました。

お兄ちゃんと同じものを選べば、おばあちゃんもわたしのことを好きになってくれると思います。

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登場人物紹介

吉井花純(よしいかすみ)


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