第11話

文字数 978文字

クラスの中で中学受験をしたのは3人だけ、学年全体でも5人だけだった。
花純は祖母や両親が選んだ学校を受験し、片道1時間ほど電車を乗り継ぐ女子校に通うことになった。
花純に進路選択の自由は一切なかったが、「自分で選択しなくて構わないという選択」を自分自身でしたのだ、と自身の中で呑み込んだ。


「いかちゃんと一緒に中学も行きたかったなあ。」
秀実は校庭に続く足元の最後の段差に目を落とし、悲しそうに言った。
花純は足を止めてから、秀実には届かないくらいの小さく掠れた声で、わたしもみんなと一緒が良かった、と呟いた。


みんなはテストでいい点を取ったり、50メートル走で1位になったり、読書感想文や写生会で表彰されたり、なんでも頑張ったら褒めてもらえる。
わたしも全部試してみたけど、できて当たり前、もっとできるでしょうと言われるだけ。そうなのか、と思って当たり前のように勉強も運動もやっていたら、先生はわたしをこどもらしさがなくて気味悪いと言った。

「こどもらしさ」とはなんだろう。産まれてからの年月で考える「こども」と、「こどもらしい」ということばは果たして同義なのか、否、同義でないことはわたし自身が体現している。「こどもらしいこども」とはなんだろう。その要素が、褒めてもらえるみんなにあってわたしに欠けているもの、なのだろう。

わたしは「こどもらしさ」を知るために読書に没頭した。本の中に答えにたどり着くヒントがあると思ったからだ。
そして、ひとつの仮説を立てた。
こどもらしさの中には、「ものを知らないこと」「場の空気を読まないこと」「我が強いこと」が含まれるのではないか。それならば、わたしはこどもらしくなくて当然だ。よく学び、場の空気を読み、我欲を制するように、と育てられてきたのだから。


「わたしも、本当はみんなと一緒がよかったな。学校は違くてもきっと遊ぼうね!」
花純は秀実に駆け寄り明るく声をかけた。
「うん、遊ぼう!今日はこれからお祝いのごはんなんだ。それじゃ、またね!」
「うん。楽しんできてね、バイバイ!」
秀実は校門の近くに両親の姿を見つけ、小走りで去っていった。
花純は両親と連れ立って歩く秀美の背中を目で追い続けた。
「またね」と言えなかった。最後だと理解していたからだ。
バイバイ。
角を曲がり、視界から秀実が消えた。花純は滲んだ目で空を見上げた。
頬を一筋の涙が伝った。
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登場人物紹介

吉井花純(よしいかすみ)


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