第4話 古代ローマ(アウグストゥス)
文字数 2,196文字
次は帝政ローマを語る上で、避けては通れない人物、初代皇帝アウグストゥスについて。
――ついて、ですが、実は私、彼が大っ嫌いです。
なにせ私の愛する陛下、クレオパトラ7世を自殺に追い込んだ張本人ですから。
なぁにがアウグストゥス(尊厳者)だ、てめぇなんざオクタヴィアヌスで充分だっ!
とまぁ、口は悪いですが、これが私の主張です。
カエサルが「神君」と呼ばれることについては大いに賛同しますが、オクタヴィアヌスが呼ばれているのを聞くとイラッとしてしまいます。我ながら狭量ですが。
同じ理由で、カエサルのお話のときにちらっと名前を出したキケロも嫌いです。現代に残るクレオパトラの悪評の一部は、彼のせいだったりするので――ええ、偏見です。
なのでアウグストゥスについても偏見たっぷりになってしまうと思うので、そこのところをご考慮くださいませ。
「背徳者」の中には幾度か「神君アウグストゥス」と称える描写があるのですが、ネロや当時のローマ人にとってはそうだろうと思うので仕方なくそう書いていただけで、実際のところは「きぃぃぃオクタヴィアヌスの癖にぃぃい!」などと思っておりました。
アウグストゥス……あぁごめんなさいやっぱりオクタヴィアヌスと表記します。無理。
オクタヴィアヌスは、ガイウス・ユリウス・カエサルの姪の子供として誕生しました。
ローマでは一族で同じ名前をつける慣習があるので、彼の名前もガイウス。でも、ユリウス族ではあってもカエサル家ではなかったため、彼の生誕時の名にカエサルはありません。
――だったと思います。オクタヴィアヌスのことを詳しく調べるのも癪で、ネロを書こうと思ったときにさらっと流し読みしただけなので自信はないです。
オクタヴィアヌスは生まれつき、体が弱かったと言われています。その分知的分野では優秀だったとかなんとか。
けれど軍略はあまり強くなかったとも言われ、のちに戦神とも呼ばれた腹心、アグリッパを補佐役としてつけたカエサルの先見の明のおかげで内戦を勝ち抜けたのではないかと思ったりしています。(偏見)
――けれど、政治家として優秀だっただろうことは認めずにはいられません。悔しいですが。
カエサルが暗殺されるほど危険視されたのは、独裁政治へと強引に進めようとしていたのが一因だと言われています。
元々アレクサンドロス大王信仰者であるカエサルは、その流れを汲むエジプトのプトレマイオス王朝にも敬意を抱いていたと思われます。
そしてエジプトの財力、現人神として君臨する専制君主の権威などを滞在中に嫌と言うほど見せつけられ、傾倒したのではないでしょうか。
同時に、ローマの内戦で疲弊した経験もあり、君主制度への憧れを抱いたのかもしれません。
もっとも政治家としても優秀だったカエサルのこと、共和制末期の政治の腐敗などを一掃したいがためだった可能性もあります。
晩年、元からの持病である癲癇発作もひどくなっていたようです。自分が生きているうちにローマをよくしたい、そんな焦りもあったのではないでしょうか。
ただし、ローマにはかつて王制から共和制へと移行した歴史があります。専制君主政への抵抗は、ローマ市民の中には根強く残っていたと思われます。
その失敗を間近で見ていたオクタヴィアヌスは、内戦時に与えられた権限をすべて元老院に返還しました。
そしてうまいこと元老院を騙くらかして(失敬)、執政官の権力を手に入れました。そう、実質上の専制君主と同じ権限を、そう名乗らずに入手したのです。
贈られた「アウグストゥス」の名も、幾度か辞退したのちにようやく受け取ります。謙遜して見せることで、自分は権力なんか欲してませんよ、というアピールです。
巧妙に偽装された、「元首政」という形で、オクタヴィアヌスの時代は始まりました。
「インペラトル」「カエサル」、後に他言語での「皇帝」の元となる単語は、この時代の皇帝の称号として使われていました。
――まぁ正直に白状すれば、やはりすごい人物だったとは思っています。
最期、息を引き取るときの言葉が残っています。
「私は、私という役をうまく演じきれたとは思わないか。――この芝居がお気に召したら、どうか拍手喝采を」
演劇の口上を述べたと伝えられています。
自らの人生を喜劇として捉えていたのでしょうか。温厚な性格として知られる「初代皇帝アウグストゥス」の、さすがはカエサルの血族とも思える豪胆なエピソードに思えます。
クレオパトラの子供たちについての処遇も、人情と私の感情を除けば、きっと適切でした。
暗殺されたとはいえ、ローマ市民にとってカエサルは英雄であり、とても人気がありました。その子供であるカエサリオンは、オクタヴィアヌスにとって脅威でしかありません。
なので、殺す。仕方がなかったのでしょう。
けれどクレオパトラとアントニウスの子供たちは、保護しています。アントニウスの前妻、オクタヴィアヌスの姉に預け、育て上げたそうです。
オクタヴィアヌスが、カエサルやアントニウス、クレオパトラに対してどのような感情を抱いていたのだろうかと思えばまあ興味ないこともないけど、でもやっぱり癪なので、アウグストゥスのお話はここでおしまい!
――ついて、ですが、実は私、彼が大っ嫌いです。
なにせ私の愛する陛下、クレオパトラ7世を自殺に追い込んだ張本人ですから。
なぁにがアウグストゥス(尊厳者)だ、てめぇなんざオクタヴィアヌスで充分だっ!
とまぁ、口は悪いですが、これが私の主張です。
カエサルが「神君」と呼ばれることについては大いに賛同しますが、オクタヴィアヌスが呼ばれているのを聞くとイラッとしてしまいます。我ながら狭量ですが。
同じ理由で、カエサルのお話のときにちらっと名前を出したキケロも嫌いです。現代に残るクレオパトラの悪評の一部は、彼のせいだったりするので――ええ、偏見です。
なのでアウグストゥスについても偏見たっぷりになってしまうと思うので、そこのところをご考慮くださいませ。
「背徳者」の中には幾度か「神君アウグストゥス」と称える描写があるのですが、ネロや当時のローマ人にとってはそうだろうと思うので仕方なくそう書いていただけで、実際のところは「きぃぃぃオクタヴィアヌスの癖にぃぃい!」などと思っておりました。
アウグストゥス……あぁごめんなさいやっぱりオクタヴィアヌスと表記します。無理。
オクタヴィアヌスは、ガイウス・ユリウス・カエサルの姪の子供として誕生しました。
ローマでは一族で同じ名前をつける慣習があるので、彼の名前もガイウス。でも、ユリウス族ではあってもカエサル家ではなかったため、彼の生誕時の名にカエサルはありません。
――だったと思います。オクタヴィアヌスのことを詳しく調べるのも癪で、ネロを書こうと思ったときにさらっと流し読みしただけなので自信はないです。
オクタヴィアヌスは生まれつき、体が弱かったと言われています。その分知的分野では優秀だったとかなんとか。
けれど軍略はあまり強くなかったとも言われ、のちに戦神とも呼ばれた腹心、アグリッパを補佐役としてつけたカエサルの先見の明のおかげで内戦を勝ち抜けたのではないかと思ったりしています。(偏見)
――けれど、政治家として優秀だっただろうことは認めずにはいられません。悔しいですが。
カエサルが暗殺されるほど危険視されたのは、独裁政治へと強引に進めようとしていたのが一因だと言われています。
元々アレクサンドロス大王信仰者であるカエサルは、その流れを汲むエジプトのプトレマイオス王朝にも敬意を抱いていたと思われます。
そしてエジプトの財力、現人神として君臨する専制君主の権威などを滞在中に嫌と言うほど見せつけられ、傾倒したのではないでしょうか。
同時に、ローマの内戦で疲弊した経験もあり、君主制度への憧れを抱いたのかもしれません。
もっとも政治家としても優秀だったカエサルのこと、共和制末期の政治の腐敗などを一掃したいがためだった可能性もあります。
晩年、元からの持病である癲癇発作もひどくなっていたようです。自分が生きているうちにローマをよくしたい、そんな焦りもあったのではないでしょうか。
ただし、ローマにはかつて王制から共和制へと移行した歴史があります。専制君主政への抵抗は、ローマ市民の中には根強く残っていたと思われます。
その失敗を間近で見ていたオクタヴィアヌスは、内戦時に与えられた権限をすべて元老院に返還しました。
そしてうまいこと元老院を騙くらかして(失敬)、執政官の権力を手に入れました。そう、実質上の専制君主と同じ権限を、そう名乗らずに入手したのです。
贈られた「アウグストゥス」の名も、幾度か辞退したのちにようやく受け取ります。謙遜して見せることで、自分は権力なんか欲してませんよ、というアピールです。
巧妙に偽装された、「元首政」という形で、オクタヴィアヌスの時代は始まりました。
「インペラトル」「カエサル」、後に他言語での「皇帝」の元となる単語は、この時代の皇帝の称号として使われていました。
――まぁ正直に白状すれば、やはりすごい人物だったとは思っています。
最期、息を引き取るときの言葉が残っています。
「私は、私という役をうまく演じきれたとは思わないか。――この芝居がお気に召したら、どうか拍手喝采を」
演劇の口上を述べたと伝えられています。
自らの人生を喜劇として捉えていたのでしょうか。温厚な性格として知られる「初代皇帝アウグストゥス」の、さすがはカエサルの血族とも思える豪胆なエピソードに思えます。
クレオパトラの子供たちについての処遇も、人情と私の感情を除けば、きっと適切でした。
暗殺されたとはいえ、ローマ市民にとってカエサルは英雄であり、とても人気がありました。その子供であるカエサリオンは、オクタヴィアヌスにとって脅威でしかありません。
なので、殺す。仕方がなかったのでしょう。
けれどクレオパトラとアントニウスの子供たちは、保護しています。アントニウスの前妻、オクタヴィアヌスの姉に預け、育て上げたそうです。
オクタヴィアヌスが、カエサルやアントニウス、クレオパトラに対してどのような感情を抱いていたのだろうかと思えばまあ興味ないこともないけど、でもやっぱり癪なので、アウグストゥスのお話はここでおしまい!