第6話 ネロ ②

文字数 1,880文字

 ネロを語る上で、この人は絶対外せない。
 そう、ネロの母、アグリッピナです。

 まずは彼女の生い立ちについてですが――後期の悪女のイメージとは違い、なかなか薄幸な少女でした。
 むしろ、だからこそ貪欲に幸せを求めた結果がああだったのかもしれません。

 ユリア・アグリッピナ。ローマにおいて、とてもとてもありふれた名前です。母と同じ名なので、一般的には母を大アグリッピナ、彼女を小アグリッピナと区別されます。
 彼女の血筋を遡っていけば、アントニウスに繋がります。詳細は割愛しますが、オクタヴィアヌスの姉、オクタヴィアとアントニウスの子孫です。
 そのアグリッピナの息子が巡り巡ってローマ皇帝となるのですから、ちょっぴり皮肉な感じもありますよね。

 ちなみに、オクタヴィアヌスからネロまで続いた皇帝は、「ユリウス・クラウディウス朝」と呼ばれています。
 直系の子で継ぐことができず、ユリウス氏やクラウディウス氏から後継者を選んだからです。
 なので、ネロまでは辛うじて「カエサル」だったのですが、それ以降は本来、「皇帝」は「カエサル」ではなかったのですが、称号として残りました。
 ちなみにスエトニウスの有名な著書ですが、日本では「ローマ皇帝伝」とされていますが、直訳すると「カエサルたちの伝記」なのだそうです。だから、ネロ帝で終わり、ガルバ以降は記述されていないのだとか。

 初代皇帝アウグストゥスは男児に恵まれず、親類であったティベリウスを養子に迎え、後継者としました。
 このティベリウス、有名ではありませんが暴君と言うならネロ以上でしょう。
 彼自身、不遇と言えば不遇だったのでしょうが……人間不信にでも陥っていたのか、近親者の処刑、性的倒錯傾向が見られた逸話が残っています。

 ――ええと実は、ここのあたりの時代はさらりと流し読みしたので詳しくありません。申し訳ない。
 ともかくこのティベリウスが、アグリッピナの母を流刑、そして処刑しました。

 ティベリウスの死後、皇帝の地位に就いたのはアグリッピナの兄、ゲルマニクス。カリグラの名で知られています。
 この「カリグラ」という名は愛称で、彼が子供の頃に軍靴を好んで履いていたから、なのだそうです。
 そう考えると、なんとなくちょっと可愛い。小さな男の子が軍の戦士たちに憧れて、大きな軍靴を履いてはしゃいでる姿を想像してしまいます。

 が、まぁ彼もいわゆる暴君と呼ばれる類いの君主でした。
 というか、なんとなくネロと印象が被るのです。エピソード的に、という話ですが。

 カリグラは、24歳の若さで即位しました。ティベリウスの悪評がひどかったのもあるのですが、直系ではないとはいえオクタヴィアヌスと同じ血族である彼は、市民たちに熱烈に歓迎されたようです。
 実際、最初期の2年は穏健な君主として過ごしていたという記述も残っています。
 が、大病を患い、回復して以降、人格が破綻し凶暴化したとも言われています。
 病の正体は、はっきりされていませんが――なんらかのウィルスに感染したのではないか、と推測されているようです。癲癇や脳炎、性病の疑いもあるようですが、鉛中毒という説もあるそうです。

 ちなみに、ティベリウスやカリグラだけではなく、ローマでは食器に鉛を使っていたせいで中毒症状を起こした者も少なくはなかったとのこと。
 オクタヴィアヌスが体が弱かったとか、カエサルも癲癇を患っていたとか、はっきりとした原因はわかりませんが一因としては鉛中毒もあったのかもしれません。

 ともかく、名君の片鱗を見せていたはずのカリグラは、変貌しました。疑い深くなり、性的倒錯を起こし、また残虐な仕打ちを行うようになったそうです。
 近親者を次々と殺していったのは、地位を狙われたと思ったからでしょうか。
 元々奔放だった性はさらに過激化し、男女も問わず、さらには妹アグリッピナにまで手を出します。

 アグリッピナにとっては、不幸としか言いようがありませんでした。母を処刑され、共に辛酸を舐め、苦労を分かち合うべき兄に裏切られ弄ばれ――挙句にはその兄の暗殺計画を立てたとして流刑に処されてしまったのですから。
 暗殺計画が事実だったのか濡れ衣だったのかは不明です。が、もし企てたとしても無理はないかもな、などとこの時点のアグリッピナには同情してしまいます。

 そしてとうとう、カリグラ暗殺。
 彼の政策は元老院や貴族階級に対して厳しかったらしいので、彼らの憎しみを買ったのでしょう。

 カリグラの後を継いだのは、クラウディウス。カリグラやアグリッピナの叔父にあたる人物でした。

 

 
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