第11話 オクタヴィア ①
文字数 1,178文字
さて、「背徳者」のヒロイン、オクタヴィアについてですが……
史料に残る彼女は、薄幸なんて言葉では全然足りないほど悲しい人生を送りました。
オクタヴィアの母、メッサリナはネロの項目でもお話した通り、いわゆる「悪女」の典型でした。
もっともあの時代のこと、陰謀で話の捏造などもあったかもしれませんが……さほど多くない記述を読めば、メッサリナを貶めて得になる人もいなさそうなので、まぁないのかなぁ。
オクタヴィアが清楚に育ったのは、母が反面教師の役割をしていたのかななどと考えています。
実母のあとにやってきたのがアグリッピナ。
私がオクタヴィアの立場であればきっと、「ちょっとお父さん女の人見る目がないんじゃない?」と思うことでしょう。
確かに血筋もよければ美人かもしれないけど……法規を破ってまで、と呆れてしまうかもしれません。
しかもアグリッピナの息子に嫁がされるために、自分はよそに養女にやられてしまう。名目上のこととは言え、捨てられたという感情を抱いてしまうのではないでしょうか。
そして、父の毒殺。
自分との結婚によって、親の仇の息子が皇帝になります。それも弟の権利を奪って、です。
それでもオクタヴィアの心中はともかく、表立った反抗はしていません。おとなしい性格だったのか、それとももう諦めてしまっていたのか――いずれにせよ、可哀想なことです。
さらには弟まで毒殺されてしまいました。その現場に居合わせたオクタヴィアは卒倒したそうです。
ネロはこのとき、体の弱いブリタニクスのこと、いつもの発作だから放っておいても大丈夫などと嘯いていたらしいのですが……彼女が倒れたということは、殺されたと認識したからでしょう。
このときにも、反抗の声を上げたという記録は残っていません。反抗すれば自分も殺される、そう思っていたのではないでしょうか。
ネロが自分の侍女を愛するようになって、あまりに失礼な出来事ではあるけれどもオクタヴィアはホッとしたかもしれませんね。
ネロの寵愛を受けたアクテを、オクタヴィアも大事にしていたらしいのは、自分の財産を彼女に残したことが物語っています。
そう、言動を見る限りオクタヴィアは、気の弱いところはあっても清楚かつ聡明で心優しい女性でした。自らの立場を理解し、達観していたからこそ、されるがままに運命に流されてしまったのでしょうか。
もし彼女が真に皇后として権力を持ち振る舞っていたら――
ネロの治世、最初期の5年はローマでもっとも平和な時代だったと語られることもありますが、それがもっと長続きしていたのかもと考えたりもします。
けれどそのようなことにはならず、オクタヴィアはずっと、まるで存在しないかのようにネロに無視され続けます。
次にオクタヴィアの存在がクローズアップされるとき、それは彼女の破滅を意味していました。