第15話 オト ①
文字数 1,497文字
マルクス・サルヴィウス・オト。偉大なるローマ帝国、第7代皇帝です。
とはいっても期間も短く、割ところころと入れ替わったり混乱期だったりしているせいで、ガルバとかと一緒に「四皇帝時代」なんて呼ばれ方をしているようです。
オトの名前はやはり、ネロ帝との関わりにおいてよく出てきます。
貴族の子息ではあるのですが、まぁあまり評判はよくなかったようです。アグリッピナやセネカの元、品行方正だったネロによくない遊びを教えた張本人と言われています。
オトはいろんな女性と浮名を流していました。そのうちの一人がネロの宮殿に出入りする人間で、彼女を介して出会ったとされています。
おそらく、最初から取り入ろうと思っていたんでしょうね。生真面目一辺倒のネロにとって、危険な遊びはきっととても刺激的だったのではないでしょうか。
しかもオト、かなりの美男子だったらしく、当時は男色も普通にあったと聞きますので、遊び慣れたオトは魅力的に映ったのかもしれません。
――余談ですが。
史料などで読むと、オトはとってもモテていたようです。ローマ一とも名高い美女、ポッパエアを娶るなど、ハンサムだったと思わせるものが多いのですが――残されている像が、ね。
もちろん、実際のオトを見て作ったものではないのですが……その、あんまりハンサムじゃない……。
ネロも太っていた、なんて記述もちらっと残ってますが、正直、それ以上にしか見えないのです。
その像を元にしたと思われる銅版画やブロンズ像なんかもありますが、うん、ね?
ネロの像は、かっこいいものもあるのですよね。最近ちょっと話題になった、彫刻を元にリアルな人間の顔を作る技術、みたいなヤツで流れてきたネロ、とてもハンサムでしたもん。
高校時代デザイン科に在籍していたので、ギリシア彫刻を元にした石膏像も多く学校にあったのですが、残念ながらネロの像はなかったなぁ。あったらきっと、用もないのに絵画室に入り浸っていただろうなと。
いや、すでに入り浸ってはいたのです。実は――というほどでもないのですが、私、彫刻はもちろんですがデッサン用の石膏像を眺めているのが大好きで。
ミロのヴィーナスの全身像とか、レプリカの石膏像ですらとても迫力もあり。
ボルゲーゼのマルスもかっこよかった。すごくきれいな顔と体をしていらっしゃるのですよ。マルス像といえばたぶん真っ先に思い出されるくらい有名なあれですね。
でもそのマルス像よりもなによりも、ミケランジェロ作のブルータスが! 大好き!
未完成なのですが、本当にもう、めっちゃかっこいいのです。そしてブルータスというより、私の中ではカエサルのイメージにぴったりで。
デッサンの時間、絵も描かずに見惚れていたのを思い出します。
ちなみにあのブルータスは、いわゆる「ブルータス、お前もか」の方のブルータスではなく、王制末期の大ブルータスと言われています。
でも小ブルータスだって説も見かけたりしたけど……あの、きりっと凛々しい感じは印象的に大ブルータスな気がするなぁ。
はいすみません、余談終わり。
えぇっと、オトですねオト。
でも実は、あんまり実像が見えてこないのですよね、彼。
若い頃はネロと一緒に放蕩三昧、むしろ悪の道に引きずり込んだ張本人にしか見えません。
実際、ネロと出会う前には名門なのに役職もなく、まともに仕事をしていた形跡も見つけられませんでした。
けれどポッパエアと離婚させられ、ルシタニアへ向かったあとは評判がいいのです。有能な執政官として過ごしていたようです。
そしてガルバに組して反乱に参加し、ネロを破滅に向かわせました。