第17話 オト ③

文字数 1,200文字


 オトとルキウスの関係性は、複雑なものになりました。

 オトは、オクタヴィアに嫉妬してただろうな。ルキウスが男だと信じて疑っていなければ、仲のいい夫婦の間に入り込む難しさを感じていただろうし、女じゃないかと疑っていたら、だったらおれにしておけばいいのにとヤキモキしたり。
 それでも二人を表立って邪魔しようとしなかったのは、ルキウスに嫌われることを恐れてたのではなかろうか、とかね。
 オクタヴィアの清楚な様に、嫌悪を抱けなかった……なんて可愛いところがあってもいいな。
 ――などと、まぁとりとめもなく考えておりました。

 そうそう、そしてアグリッピナの刺客としてのオトを頓挫したのは、そのような相手をルキウスが信用しないだろうと思ったからなのもあります。

 ネロは死に際して、駆けつけた追手が自分の首の傷に布を当てたとき「それがお前の忠義か」と言った、なんて記述があります。
 そんな状況を誰が見てたんだ、創作だろうと思いはしたのですが――でも素敵だなと。
 おそらく追手は、生きたままネロを連れて行かなければならず、できれば死なせたくなかった。それは犯罪者として裁き、さらなる恥辱をネロに与えるためだったはずだけど、ネロは本来の純粋さが出たのか、助けようと思ってくれたと感じたようです。

 その役割を、オトにやってもらおうと思いました。ならばルキウスは憎み合った相手ではなく、友人として信頼した相手だとオトを認識してほしい。
 ――そして、死にゆくときくらいは穏やかな心でいてほしい。

 ちなみに、私はハッピーエンドが大好きです。
 まぁ「背徳者」に関しても他に描く予定の歴史題材のお話も、ハッピーとは言い難いものが多いのですが……せめて読後感は爽やかに、バッドとは言わずビターエンドくらいにしたいのです。

 実はもう1パターン、駆けつけたオトに助けられたというのも考えたのですよね。
 ここで死んだことにして、逃げろと。
 ピソ陰謀事件のときに「死んだことになっている」ガイウスと共に逃がし、二人は遠くロードスの地で幸せに、ネロの墓に花が絶えなかったのは「ルキウス」本人が供えていた、と。

 このパターンでも、一度書いたのですよね。でも、なんかしっくりこなかった。
 なんというか、ご都合主義? みたいに思えて。
 ハッピーエンド厨だからって無理矢理そう終わらせるのはどうなんよ、と自問自答した結果、組み立て直しました。

 まぁ、恋敵の元に逃がすにせよ目の前で死なれるにせよ、オトにとってはハッピーとは言いがたいんですけどね。

 ついでに、「背徳者」作中で私の一番のお気に入りはオトでした。
 器用に立ち回っていそうに見えて、肝心なところで不器用だったり、悪童のようなところもあれば思いやりもっていたり、よそでは割りと強引なのに本命相手では強く出られなかったり。
 だから彼にも、せめて心の平穏を――そう思って、ラストはああなりました。
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