第30話 神城の出生

文字数 2,827文字

 神城は優しく康子に言うとさらに
「僕が向こうへ行くのは構わないが、その前にすることがある」
 そう言うと自分の能力『支配』を発動させた。一瞬で新城の結界に周辺が入った事が確認される。
「いま、この辺、そう周囲十㌔四方を僕の結界に入れた。大体西高の生徒の殆んどはこの結界の中で生活をしていると思う。今から、デートクラブの被害者の記憶を消させて貰う。勿論この事件の記憶だけを消す」
 それを聞いた男たちは
「まさしく王のちからだ。間違い無い、行方不明になった王子だ」
 そう言って神城の足元にひれ伏す。
「そんな事はやめてくれ。君たちの世界は封建制なのかい?」
 神城はそう言って笑ってる。
「大体数はつかめた感じだから、今からその人達の記憶を操作する」
 そう神城が言ったかと思うと目をつぶって意識を集中させた。次の瞬間何かが変わったと鈴和も康子も美樹もサツキもそして男たちも感じていた。
「これで、この結界に居た事件の被害者は事件の記憶を消されて何も覚えていなくなった。
事件は無かった事になった」
 神城は皆にそう言って明るい顔をした。
「先輩、この結界にいなかった人はどうなるのですか?それと行方不明になった二人は……」
 美樹が心配をしてそう尋ねると神城は
「大丈夫、僕が数えたらこの結界に居なかったのは一人だけで、しかも男子だ。そして彼は転校してしまいかなり遠くに居る。問題は無いだろう。それに他の不明な人物ならそこに居るじゃ無いか!」
 そう云われて、皆は納得した。二人が化けていたのだと。それが判り皆は安心した。鈴和は新城に
「何時向こうへ行くの?」
 そう訊いたのだ。それは自分の兄とも思っている神城の事を思っての事だった
「そうだな学校は休みたくないので、金曜の放課後でもいいかな?」
 神城はそう二人の男に問うと男達も
「それで結構です」
 と了承した。彼らも、これから向こうに色々と連絡する事が沢山あるのだと思う。
すると、新城はサツキに
「出来ればサツキちゃんに一緒に来て欲しいんだ」
 そう頼みこんだ。康子はそれを訊いて
「ええ! 先輩サツキちゃんが好みだったんですかぁ~」
 ともう半泣きの状態だ。
「違うよ康子ちゃん。向こうに行ってどうやって帰って来るんだい? この中で異世界に行く事が出来る能力を持っているのは、サツキちゃんと鈴和ちゃんだけだ。しかも鈴和ちゃんは自分だけしか移動出来ない。だからサツキちゃんに一緒に行って貰うのさ」
 神城がそう説明すると何とか康子も納得したのだった。その様子を見ていた鈴和は、ある疑問というか確信を感じたのだった。
 金曜日の放課後私服姿の神城とサツキ、それに二人の男が神城邸にいた。鈴和も康子も美樹も傍にいて見守っている。
「どれくらい時間が掛かるの?」
 鈴和が男たちに尋ねると片方の男が
「血液検査でDNAを調べるだけなら半日もいあれば充分ですが、王のご子息の確認となるとまる一日は掛かると想います。幼い頃採取してあった指紋とか色々と照合しますから」
 そう丁寧に説明する。
「まあ日曜の晩にはとりあえず帰って来るよ」
 神城はそう明るく言うのだった。
「じゃあ行きますか? サツキさんは私達のどちらかと手を繋いでおいてください。道案内しますから。そうすれば帰りはご自身で帰ってこられますからね」
 男がそう言うのでサツキは片方の手を神城ともう片方を男と繋いだ。それを確認すると、「じゃあ行きます」
 男がそう言ったかと思うと四人の姿が静かに消えて行った。
「ああ、行っちゃった……」
 康子が寂しげに言うのが鈴和には逆におかしかった。
 神城が目を明けるとそこは明らかに自分のいた世界とは違うことが判った。そして、封印されていた自分の過去の記憶が蘇って来た事も判った。
「そうか、そうだったのか……」
 隣に居たサツキは神城の心をテレパシーで読んでその事実に驚愕をした。振り返るとふたりをここまで誘導した男達がそこにかしこまっていた。二人共神城が記憶を取り戻した事が判ったからだ。
「申し遅れましたが、私はアイと申します。記憶を取り戻された様ですね。ならば今更検査は要らないでしょう」
 美樹によって手に傷を負わされた男がそう言う。そしてもう一人が
「私はサイと申しますどうかお見知りおきを」
 それを聞いて神城は
「僕はこの世界では●※□#という名なんだね。初めて知ったというか思い出したというか……」
 神城がそう言うとサイは
「王子、それは本名、通常はサイドネームを……そうしませんと敵に操られます」
「そうか、元々はそれが原因だったねじゃあ、ELS 、エルスでいいかな?」
「はい、それで結構でございます。さ、御案内致します」
 神城(ここでは作者がこの人物を表す時はエルスではなくこの名で表現します)はそう言われると二人の後を従いて歩きだした。その後ろをサツキが従う。
 少し歩くと歩道がありこれは動いていた。周りの景色は緑が多いものの近代的な建物が程良い感覚で立っており、未来都市と言うものがあるならこのような都市だろうとサツキは思っていた。気になるのは都会であるのに、すれ違う人が余り居ないという事だった。
「そんなにまで人口が減ってしまっているんだ」
 サツキは周りの景色からそう思っていた。近代的な建物が立ち並び、緑が多く、歩道は動いており自分で歩く必要さえ無い世界。空は澄み渡り、調度良い気候、でもこの感じは何だかまるでエアコンで温度管理されている様な気にもさせられるのだった。
 道には自動車等は一台も走っておらず、恐らく人々はテレポートで移動しているのだとサツキは理解した。進み過ぎた世界……サツキは早くもこの世界をそう感じていた。
 やがて、動く歩道の先に大きな建物が見えて来たアイがそれを指さし
「あれが王宮でございます」
 そう云われたので神城もそれを見ると、幼い頃ここで遊んでいた事が思い出されて来た。そうあの日、王政転覆を狙う革命軍が行動を起こし、王族を尽く殺害して来た連中は遂に王宮に攻め込んで来た。
 王は自分の事は兎も角、息子だけは生き延びさせようと、異世界にその身を移動させたのだ。その時、異世界では過去の記憶が蘇らない様に封印させたのだ。それは、余計な記憶と能力が発揮出来ない様にとの思いだったが、初めに能力者の幼い鈴和と出会ってしまった為に能力は封印されなかったのだ。
 その後革命軍は尽く捕まり事件は解決したが、王は咄嗟にした為に異世界への移動先が判らなくなってしまっていた。その後、色々と調べてみて(何しろ平行世界は無数にあるので調べるだけで時間が掛かる)いたが未だ判らずと行った処だったのだ。だから今回のことは王にとっても非常に喜ばしい事だったのだ。
 段々と王宮が近づいて来るにつれ、新城は懐かしさで胸が一杯になるのだった。
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