第36話 リョウの告白

文字数 2,545文字

 サツキはリョウと呼んだ青年にしっかりと抱きついていた。
「こうしてもう一度リョウを抱きしめられるなんて思わなかった」
 サツキは涙を流しながら両の手をリョウの背中に回す。
「僕もこうしてサツキを抱きしめる事が出来るなんて夢の様だよ」
 二人がしっかりと抱き合っている脇で鈴和が
「お取り込み中だけどいい?」
 そう言ってサツキとリョウを見た。
「あ、鈴和、ゴメンつい夢中になってしまって……」
「それは良いのだけど、紹介してくれると助かるんだけど……」
 そう云われてサツキは自分のしたことを自覚して真っ赤になってしまった。
「始めまして、僕は元サツキと同じ組織に入っていたリョウと申します」
 リョウは男らしく、さっぱりとした感じで自己紹介をした。
「わたしはこの世界の組織の一員の上郷鈴和と申します」
 そう鈴和が自己紹介をするとリョウは
「実は良く知っています。こちらが神城剛士さんでいらっしゃるんですよね」
「どうして、ご存知なんですか?  何処かでお会いしましたっけ?」
 神城のその言葉にリョウは
「いや違うのです。わたしは向こうの世界で任務に失敗して死亡しました。そして霊魂となってサツキのもとにやって来たのです。ずっとサツキに取り付いていました。そして、サツキと一緒にこの世界にやって来たのです。それからもサツキの周りにいたのですが、サツキがあなたと戦って負傷した時に離れてしまったのです。その後再びサツキはこの世界に派遣されましたが、わたしはその時はこの大学の研究室にすでに居たのです」
 リョウが今迄の経緯を話すとサツキは
「知らなかった……あの時もあなたが傍にいてくれたなんて……」
「ゴメン、僕には知らせる術が無かったんだ。だからこの世界のこの研究所で霊魂を物質化する研究をしてると知って僕はここに潜り込んで、色々な方法で綾瀬教授に僕を実験台に使ってくれるように頼んだのさ」
「頼んだって……どうやって?」
 そう云うサツキと鈴和にリョウは
「なに、自動書記とか、霊感の強い研究員に憑依して話すとか、教授の夢枕に立つとか色々と方法はあるよ。そうやって教授に信用して貰って実験台になったのさ」
「じゃあ成功したんだ!」
 サツキが喜びの声で言うとリョウは
「確かに物質化は成功したのだけど、量産は出来ないんだ。量産するには多くのエクトプラズムが必要だし、それから霊魂の数も多くないと気が集まらない。恐らく僕の次はまだまだ時間が掛かると思っていたんだ」
「いたんだ……という事は?」
 鈴和が訊くとリョウは
「そこに、かっての組織が目を付けてやって来たんだ。元の世界から大量のエクトプラズムを持ってね。教授は研究を助けてくれるなら正直誰でも良かったのさ。化学者は往々にしてそうだけどね」
「どうして、こっちに来れたの?母が結界を張ってるのに……」
 鈴和は再びリョウに訊く
「何、一旦別の世界に飛んで、そこからこの世界に飛んだのだよ。三点移動さ」
 鈴和は想像していた通りだったので、驚きはしなかったがガッカリした。これから、またあの連中とやり合うと思うと気が重かった。それまで黙っていた神城が
「その研究は僕が生まれた世界でも有望な技術だね。亡くなっても形が残ればとりあえず人口の極端な減少は避けられる」
 新城がそう云うとリョウは
「連中もそこが狙いで、戦いで亡くなってしまった能力者を蘇らせて、また使おうという気なんです。そんな事は許され無いです。無限の戦いの循環にさせようなんて事は……」
 リョウはそこまで言うと
「だから、僕でも何かお手伝い出来ないか、待っていたのです」
「リョウ君、敵はもうどのくらい入り込んでるんだい?」
「この研究室の助手や生徒に化けてのべ二十人以上は入り込んでいます。確か今も五人はいます。そしてもうすぐ第二号が物質化されそうです」
 皆がこうした話をしている間に鈴和は研究所の扉を開けて、中の様子を伺った。康子も両親も寝かされている。鈴和は両親を抱くとテレポートして家に帰した。サツキも手伝って康子を抱いて家に送り届ける。実はその時鈴和はあることを確認しなかったのだ。
「さてこれで、心配事は無くなった」
 鈴和はそう云うと
「さあ、いらっしゃい! 今日のあたしは怖いからね」
 そう言って指を鳴らすのだった……。
「鈴和、それやると関節が太くなるから」
 サツキが横からちゃちゃを入れる。
「もう、サツキったら、久しぶりに彼氏に会えたんで気が充実してるじゃない」
 二人はそう言って笑った。
 やがて物音を聞きつけて徹夜で作業していた研究員がやって来た。そして康子達が居ないのを確認すると。
「リョウ!裏切ったな!」
「冗談じゃ無い! 僕はもう組織の人間じゃ無い! 自由にする権利があるはずだ。僕はサツキと一緒に生きると決めたんだ」
 そう言って対決の姿勢を決めた。
「ねえ、リョウって何の能力なの……その前にあの状態で能力使えるの?」
 鈴和はサツキに尋ねるとサツキも
「能力は色々と持っているけど、あの状態で使えるかは、わたしも始めてだから……」
「そうか、そうだよね……ごめん」
 向こうの数は五人だった。こちらはリョウを入れて四人とやや分が悪い。神城が
「ここでは研究室に被害が及ぶ。君等もそれは本望じゃ無いだろう」
 そう云うとキャンパスに戦いの場を移したのだった。
 神城は戦いに備えて「支配」で一気に決着をつける積りだった。その能力を解放しようとした時だった。向こうの研究員の一人が
「おっと待った、神城剛士。お前の能力「支配」は調査済みだ。お前が王子なら我々に協力するのが筋だろう。抵抗するなら王子と言えど、我々もそう簡単にお前に能力を解放させはしない。これを見るがいい」
 そう言って研究員が出したのは小さなガラスのような容器だった。霊能力が無いものが見ても判らないが、神城は愛のちからで、鈴和は能力でその中にあるものが判ったのだ。
「康子……どうして……あの時良く知らべなかった……体だけ無事で確認しなかった……」
 ガラス玉の中には康子の魂が入っていたのだ。鈴和の泣くような声に新城も真っ青になるのだった。
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