第26話 混乱
文字数 2,175文字
鈴和と康子の後を付けていたのは二人組だった。
「ちゃんと、覚えたか?」
「ああ、大丈夫だ。さつきのファミレスでウエイトレスに化けて、五人全員のDNAを採取したからな」
「なら安心だ。アイツラに目にもの見せてやる」
片方の男がそう言っていきり立つともう一人が
「まあ、まあお前の仇は取ってやるよ。それと変な事を感じたんだが……」
そう言って首を傾げると片方は
「なんだ?言ってみろよ」
そう言われたので
「じゃあ言うがな、あの中に男が居たろ? 確か神城と呼ばれていた奴」
「ああ、それが?」
「あの男、なんか俺らに近い存在だぞ」
それを訊いて片方の男は
「いや、それで言うと、あの男、王子が成長した感じに似てる様な気がしていたんだ」
「なんだお前もか!」
「うん、気のせいとも思うがな。王子がちゃんと成長したらあんな感じになったと思っただけだ。お前のその近いとは?」
そう訊かれた五人のDNAを採取した男は
「DNAがさ、俺らと極めて近い感じがするんだ。それとあの中でサツキと呼ばれていた娘は異世界人だな。それは分かった」
「まあ、今日はDNAを採取出来ただけでも良しとしよう。明日から思い知らせやる」
そうつぶやく様に言うと暗闇に消えて行ったのだ。
翌日、五人は西高の制服に身を包んで放課後の西高へとやってきた。
「ねえ、これから部室に行って、昨日の本物の方だったらどうする?」
康子は昨日声を掛けて来たのが本物だと思っているのだ。それを聞いて美樹は
「じゃあ、私が傷付けたのは何処へ行ったんだろう?」
美樹は手の甲に傷を付けたのが、かなり重要な証拠になるのでは無いかと思っているのだ。廊下を歩いていて不意に美樹は
「あ、先に行ってて、私トイレ寄って行くから」
そう言って皆を先に行かせた。この時美樹は、あの時、対決した男に近い人の気をなんとなく感じていたのだ。
トイレに入り、物陰に隠れてあの男が近づいて来るのを待った。すぐ、傍まで来たと思った瞬間に飛び出して
「あんた、また私を狙っているんだね」
そう言ってジャックナイフを取り出して構えた。相手の男はもう顧問の顔をしていないが、手の甲に美樹が傷付けた跡がハッキリと残っていた。美樹はそれを見て自分の勘が間違っていない事を確信したのだった。
「さあ、今度は逃げられないわよ」
そう言って、男と距離をじわじわと詰めて行く時だった。不意に後ろからハンカチを嗅がされ、うっかりとそれを吸った美樹は意識が遠のくのを感じた。そして、後ろから襲った男の両腕に落ちたのだった。
「後ろには気が回らなかったか。まあ、俺達のアジトで寝ていて貰おう」
そう言って手の甲に傷のある男が美樹の体を受け取った。そして、美樹を眠らせた男は
「俺はこいつに『なりすます』」
そう言うと見る見るうちにその男は美樹そっくりになった。
「ご丁寧に両方の高校の制服まで用意してるからな」
美樹を抱えた男が笑いながら言う。
「大丈夫よ。記憶も移したし、思考回路も組み込んだから、大丈夫」
美樹の声、美樹の言い方になった男は
「じゃ、アイツラに合流するわね。連絡は何時もの方法で」
そう言うと鈴和達を追って行った。残されたもう一人は本物の美樹の体を抱いて
「さあ、かわいこちゃん、俺達のアジトで暫くオネンネして貰おうかな」
そう言うと美樹を抱いたまま何処へと消えたのだった。
「ねえ、美樹遅く無い?」
鈴和は何時もより長いトイレタイムに何となく不安を覚えたのだ。その時だった
「悪い!御免!」
そう言って美樹が走って来た。鈴和はその時得も言われぬ違和感を感じたのだが、美樹は美樹だし、化けてるのかと思い気も調べたら同じだったので、自分の思い過ごしかと思い直した。念の為に自分の守護霊に訊いても問題無いとの事だった。大丈夫か……鈴和はそれでも不安が消えないのだった。神城から昨日訊いた「なりすまし」は人間だけで無く、霊魂も錯覚させる事が出来ると訊いたからだ。
「大丈夫だよ。ちゃんと待ってあげてるから」
康子がそう言って美樹に抱きついた。
「こら、康子!苦しいよ」
美樹が笑いながら康子に言う。
「良かった!やっぱり本物の美樹だった」
そう康子が言うので美樹も
「なにそれ?私はわたしだよ!」そう言って笑う。
それを見てサツキは美樹が戻って来た時の得体の知れない違和感は錯覚で、自分の思った事が杞憂だと感じるのだった。
「それより、今日は顧問来てるの?」
美樹が鈴和に尋ねると鈴和は
「今は部室で何か製作中ね。発表する事だと思うけど」
そう美樹に説明する。サツキが
「美樹、教室の中覗いて手の甲を調べたら、本物か判るよ」
そう言ったので、窓の隙間から美樹はそっと部室の中を覗いてみた。
「う~ん、傷は無いわ。本物なのかも知れない」
美樹は窓から目を離した。だが美樹になりすました能力者は神城に注意を向けていた。美樹の記憶から分かった事は三歳の頃にこの世界にやって来たという事。ならば、やはり「王子」では無いのか?
能力者は、当分美樹になりすまし、近くで神城を観察するのも悪く無いと思い始めていた。
「あの娘には悪いが、当分なりすまさせて貰おう」
そう決意していた。
「ちゃんと、覚えたか?」
「ああ、大丈夫だ。さつきのファミレスでウエイトレスに化けて、五人全員のDNAを採取したからな」
「なら安心だ。アイツラに目にもの見せてやる」
片方の男がそう言っていきり立つともう一人が
「まあ、まあお前の仇は取ってやるよ。それと変な事を感じたんだが……」
そう言って首を傾げると片方は
「なんだ?言ってみろよ」
そう言われたので
「じゃあ言うがな、あの中に男が居たろ? 確か神城と呼ばれていた奴」
「ああ、それが?」
「あの男、なんか俺らに近い存在だぞ」
それを訊いて片方の男は
「いや、それで言うと、あの男、王子が成長した感じに似てる様な気がしていたんだ」
「なんだお前もか!」
「うん、気のせいとも思うがな。王子がちゃんと成長したらあんな感じになったと思っただけだ。お前のその近いとは?」
そう訊かれた五人のDNAを採取した男は
「DNAがさ、俺らと極めて近い感じがするんだ。それとあの中でサツキと呼ばれていた娘は異世界人だな。それは分かった」
「まあ、今日はDNAを採取出来ただけでも良しとしよう。明日から思い知らせやる」
そうつぶやく様に言うと暗闇に消えて行ったのだ。
翌日、五人は西高の制服に身を包んで放課後の西高へとやってきた。
「ねえ、これから部室に行って、昨日の本物の方だったらどうする?」
康子は昨日声を掛けて来たのが本物だと思っているのだ。それを聞いて美樹は
「じゃあ、私が傷付けたのは何処へ行ったんだろう?」
美樹は手の甲に傷を付けたのが、かなり重要な証拠になるのでは無いかと思っているのだ。廊下を歩いていて不意に美樹は
「あ、先に行ってて、私トイレ寄って行くから」
そう言って皆を先に行かせた。この時美樹は、あの時、対決した男に近い人の気をなんとなく感じていたのだ。
トイレに入り、物陰に隠れてあの男が近づいて来るのを待った。すぐ、傍まで来たと思った瞬間に飛び出して
「あんた、また私を狙っているんだね」
そう言ってジャックナイフを取り出して構えた。相手の男はもう顧問の顔をしていないが、手の甲に美樹が傷付けた跡がハッキリと残っていた。美樹はそれを見て自分の勘が間違っていない事を確信したのだった。
「さあ、今度は逃げられないわよ」
そう言って、男と距離をじわじわと詰めて行く時だった。不意に後ろからハンカチを嗅がされ、うっかりとそれを吸った美樹は意識が遠のくのを感じた。そして、後ろから襲った男の両腕に落ちたのだった。
「後ろには気が回らなかったか。まあ、俺達のアジトで寝ていて貰おう」
そう言って手の甲に傷のある男が美樹の体を受け取った。そして、美樹を眠らせた男は
「俺はこいつに『なりすます』」
そう言うと見る見るうちにその男は美樹そっくりになった。
「ご丁寧に両方の高校の制服まで用意してるからな」
美樹を抱えた男が笑いながら言う。
「大丈夫よ。記憶も移したし、思考回路も組み込んだから、大丈夫」
美樹の声、美樹の言い方になった男は
「じゃ、アイツラに合流するわね。連絡は何時もの方法で」
そう言うと鈴和達を追って行った。残されたもう一人は本物の美樹の体を抱いて
「さあ、かわいこちゃん、俺達のアジトで暫くオネンネして貰おうかな」
そう言うと美樹を抱いたまま何処へと消えたのだった。
「ねえ、美樹遅く無い?」
鈴和は何時もより長いトイレタイムに何となく不安を覚えたのだ。その時だった
「悪い!御免!」
そう言って美樹が走って来た。鈴和はその時得も言われぬ違和感を感じたのだが、美樹は美樹だし、化けてるのかと思い気も調べたら同じだったので、自分の思い過ごしかと思い直した。念の為に自分の守護霊に訊いても問題無いとの事だった。大丈夫か……鈴和はそれでも不安が消えないのだった。神城から昨日訊いた「なりすまし」は人間だけで無く、霊魂も錯覚させる事が出来ると訊いたからだ。
「大丈夫だよ。ちゃんと待ってあげてるから」
康子がそう言って美樹に抱きついた。
「こら、康子!苦しいよ」
美樹が笑いながら康子に言う。
「良かった!やっぱり本物の美樹だった」
そう康子が言うので美樹も
「なにそれ?私はわたしだよ!」そう言って笑う。
それを見てサツキは美樹が戻って来た時の得体の知れない違和感は錯覚で、自分の思った事が杞憂だと感じるのだった。
「それより、今日は顧問来てるの?」
美樹が鈴和に尋ねると鈴和は
「今は部室で何か製作中ね。発表する事だと思うけど」
そう美樹に説明する。サツキが
「美樹、教室の中覗いて手の甲を調べたら、本物か判るよ」
そう言ったので、窓の隙間から美樹はそっと部室の中を覗いてみた。
「う~ん、傷は無いわ。本物なのかも知れない」
美樹は窓から目を離した。だが美樹になりすました能力者は神城に注意を向けていた。美樹の記憶から分かった事は三歳の頃にこの世界にやって来たという事。ならば、やはり「王子」では無いのか?
能力者は、当分美樹になりすまし、近くで神城を観察するのも悪く無いと思い始めていた。
「あの娘には悪いが、当分なりすまさせて貰おう」
そう決意していた。