第34話 サツキの告白

文字数 2,442文字

 サツキは静かに語り始めた。
「私が育った世界ではこの世界とシステムが大分違っていて、人の安楽死が認められているの。だから人は皆七十歳になると安楽死を選ぶの。そうするとその子孫に減税が施されたりするんだ」
 サツキの語り出した内容に二人は驚愕を覚えた。安楽死という耳慣れない言葉がサツキの口から出たからである。
「それでね。その時安楽死を選ばないとその人には増税され、年金も打ち切られてしまうの。
つまり、『勝手に生きろ』という事なのね。医療も保険適用外になるから現金だしね。生きにくくなるんだ。だから殆んどの人は安楽死を選ぶんだ」
 聴いていた鈴和は
「それって酷い。七十歳過ぎたら人でないから死ね、って言われてるんじゃない!」
 そう言って怒りを表した。
「まあ、最後まで聴いてね。だから、教育とか世の中の仕組みが早熟になってるの」
「どうゆうこと?」
 康子が疑問を挟む
「うん、例えば小学校は五歳からで、五年間。その上が五年あるの。それで義務教育は終わりで、年齢はこの世界と同じで十五歳で卒業だけど、向こうはこっちで言うと高卒になるのかな……そんな感じで、その上はこっちだと大学にあたる学校があるんだけど。そこに進学するのは三割ぐらいで、この人達はエリートとなる人ね。そこが四年間で、二十歳前には教育は終わるの。その上は研究期間だからほんの一部の人だけが進めるの」
「ふうん、じゃあ、サツキは向こうの組織にはどのようにして関わったの?」
 鈴和が最もな疑問を口にした。
「うん、向こうでは能力者は社会的に認知されていて、私も小学校の頃には能力に目覚めていたから、小学校を卒業すると組織が主宰する上級学校に進んだの……彼とはそこで出会ったの。
歳は中学生だったけど、早熟な教育のお陰で精年齢はこちらの高校生だから、自然と惹かれ合ったの」
 鈴和と康子はそれで色々な事を納得した。サツキの成績が学年でトップだった事も、同じ歳なのに年長のような感じがするのも、全てそのせいだったかと思い当たった。更にサツキの告白は続く……。
「最初は同じクラスになって、実習の授業があるんだけど、それで同じ班になったの。そして色々な事をやったり、話したりして仲良くなったわ……何時の間にか好きになっていたの」
 サツキは遠くを見る目つきをした。
 五年間の間で違うクラスになった事もあったけど、ずっと付き合っていたの。そして卒業する時に実際に課題を実習で出されて、それを解決する時に私と彼は結ばれたの……幸せだった……」
 鈴和も康子も黙って聴いていたが
「ねえ、卒業してから危険な事になったの?」
 鈴和がどうしてその彼が亡くなってしまったのかが判らない。それに対してサツキは
「うん、卒業すると私達は組織に配属されるんだけど、私達は同じ支部に配属されたの。私はそこでこの世界に配属されてヒロポンに関わったのだけど、彼は別な世界に配属されてしまったの……そこで、彼は敵にやられて亡くなってしまったの……」
 それを聞いた鈴和は
「それは確かなの?きちんと確認したの?」
 そう訊くとサツキは
「うん、一度鈴和に負けて向こうの世界に帰った時に遺体と対面したから間違い無いわ」
「そうか、そんな事があったから、あの頃サツキは荒れていたんだ。凄かったものね」
 鈴和が懐かしそうに言うとサツキは
「それは、もう言わないで、そうだったのよ。もうどうでも良いと思っていたからね。この世界で暮す事を決めたのも向こうの世界じゃ色々と思い出があって辛いからなの」
 サツキがそこまで話すと康子が
「判る! よく判る。私はサツキの味方だからね!」
 興奮しながらそうサツキに言うのだった。
「でも、なんでこの世界にあの人の霊がいたのだろう?」
 考えれば考えるほど不思議だった。
「ねえ、私考えだけど、サツキを追ってこっちに来たんじゃ無いの?」
 ロマンチストの要素がある康子がそう言って茶化す。すると鈴和が
「それはあるかもよ。母が結界を張ってサツキが居た世界とは人間は行き来出ないけれど、霊魂だったら違うかもしれないわ」
 そう言って可能性を否定しなかった。
「どうするサツキ。彼が魂になっても逢いたいって言って来たら?」
 あくまでも思考がロマンチックな康子はそう考えるのだった。そこに、神城が送れてやって来た。
「あ、神城さん!」
 康子は呼び名も
「先輩からさんに変わっていた」
「遅れてごめんね。進路相談会だったから」
「何処かもう決めたの?」
 康子はちょっと心配だった。学年でもトップクラスの神城と一学年下だが平凡な自分では進路が違うのは避けたかったからだ。出来れば同じ大学に進みたい……それが康子の希望だったからだ。
「康子ちゃん。それは後で話すからね。先に事件の説明をしてくれるかな?」
 神城がそう言ったので、サツキと鈴和は順を追ってあらましを話し始めた。
 全て聞き終わり新城は
「サツキちゃんの彼氏と研究所が何処で接点を持ったかだね。それを調べよう。それから大学を見張って動きが無いか調べる事だね……そうだ、大学を調べるのは僕が進学を考えているという事であちこち見学させて貰おう、それがいいね。康子ちゃんも一緒に行こう!」
 神城の考えに康子は勿論賛成したが。サツキと鈴和は
「私達は何処を調べるの?」
 そう鈴和が聞くので神城は
「それは、大学や研究所の関係者の守護霊を調べるとか、だれか事情を知ってるかも知れない。
それに構内で僕が怪しい何かを見つけたらすぐに二人に連絡をする。それでどうかな?」
 新城の割り振りは納得出来るものだった。実際、康子が同行していて危険な目に合ったら大変だと思ったからだ。
「じゃ、それで明日から行動しよう。放課後になったらすぐに大学に直行すること」
 四人はそれだけを決めると、その日は解散してのだった。
 だが事件はその晩に起こって仕舞ったのだ……
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