第19話 黄泉の国から来た人

文字数 2,448文字

「ああ美味しい~やっぱり秋の新作のパフェは美味しいわぁ~」
 鈴和がニコニコしながらファミレスの新作のパフェを食べている。相手をしているのはサツキと何時も一緒康子である。
 一応名目上は、鈴和とサツキは組織の地域の連絡会という名目で会っているのである。康子はおまけというより新城の委任を受けた代理という立場なのだ……形式的には……。
「でもあたし、本当は新城さんは鈴和の事なんだかんだと言っても好きなのかと思っていた」
 サツキがあの時まで思っていた事を何のてらいも無く話すと鈴和は
「それは無いわよ。だって新城先輩はお兄ちゃんだもん」
 そう鈴和が言うとサツキも
「そうか、そうなんだよね」
 と口では言っていたが心では
「でもさぁ、恋人より兄妹のほうが思いは強いよね」
 そう心で思っていた。
「まあ、でもここは康子の想いが上回ったのかも知れない」
 誰にも聞こえない声でそう呟いて、窓の外を見ると表の通りを若い男の人が通っていた。その人物を見たサツキの顔から見る見るうちに血の気が引いて行った。
「サツキどうしたの?」
 サツキのあまりの変わり様に鈴和はサツキの肩を揺すって尋ねた。サツキはやっと我に返って
「あのね、今表を通って行った人なんだけど、もう亡くなってる人にそっくりなのよ。いや似てるというより本人と覚しきと言う感じなのよね」
 それを訊いた鈴和は
「サツキも霊能力の方も目覚めた?」
 そう笑いながら言うとサツキは
「違うよそんなのじゃ無くて……ちょっと鈴和見てよ霊視してよ」
 そう言って鈴和の手を引っ張って窓際に連れて行き、通りを見せた。
「あの人よ」
 サツキの指差す方向を見ると確かに一人だけ感じの違う人物がいる。
「あの人だけ守護霊様付いていないわ!」
 そう鈴和も言ったのだ。
 それを訊いて康子が窓から外を見ると
「鈴和、あの帽子被った人?」
 と訊いて来るでは無いか
「康子、あの人が見えるの?」
 鈴和が驚いて訊くと、康子は
「うん、普通に見えるし、あの人ちゃんと影があるよ」
 そう言うので、鈴和ももう一度見直すとちゃんと影がある。
「なんだ、サツキ他人のそら似よ」
 そう言って席に戻ろうとするとサツキは
「違うの……違うのよ。あの人に間違い無いわ……何故この世に……」
鈴和は余りにもサツキが真剣に言うので、康子に
「康子、悪いけど、これで勘定精算しておいて、私、あの人の後をつけて行くから、逐次メールするから後でサツキと一緒に来てね」
 そう言って千円札を渡すと外に飛び出して行った。
 飛び出した鈴和は、先の人が交差点の横断歩道を渡っている所で追いついた。そして、詳しく後ろから観察すると、やはりおかしい。
 鈴和は普通に見ている時は普通の人と同じ様に見えるが、霊視の状態で見ると、外形の人の中にその人物の魂が重なって見え、上には守護霊様のアイコンの様なものも見えるのだが、この人物には中の魂が見えず、まるで魂そのものが姿形を持っている様な感じなのだ。
「どういう事これ?」
 鈴和は急いでスマホを出すと、後ろからその人物を撮影したのだった。
 その人物は街中を通って、鈴和の街の外れにある、ある大学の構内に入って行った。鈴和は更に後を付けながら康子とサツキに場所のメールを送った。
「霊的な事件なら父に一度相談してみよう」
 鈴和はそう思い、父の達也に
「霊魂が実体を持って具現化出来ますか?」
 とメールをしてみた。やや間があり返信が返って来た。
「なんだそれは?  普通は無理だが強力な能力者なら短時間だけなら出来る場合もある」
 それを見た鈴和は
「う~んそう言う感じじゃ無いんだよね」
 スマホをしまい、更に後をつけて行くと、ある建物に入って行ったので、鈴和も入って行く。その人物はエレベーターに乗り3階まで行った様だ。それを確認すると鈴和もエレベーターに乗り3階で降りて見る。そこは研究棟とでも言う建物らしく幾つかある部屋のドアには「〇〇研究室」とか「xx研究所」と書かれている。
 果たして何処に入ったのかと思っていて気を探って見ると、一つの部屋に気の跡が続いているのを確認すると鈴和はその部屋のドアまで行きドアに書かれているプレートの名前を確認した。
「綾瀬物質研究所」
「なんだこれ? 物質研究所って……物理? それとも化学?」
 混乱する鈴和にスマホが震え出した。その場を離れて窓の傍に行く
「あ、もしもし、うん大学にきたの?門の所? じゃあねえ、今から行くわ」
 そう行って通話を切ると鈴和は建物の外に出てサツキと康子達を迎えに行った。
 二人は門の横に行儀よく並んでいた。
「どうしたの?  入ればいいのに」
 鈴和が声を掛けるとサツキの様子がおかしい。
「どうしたの? サツキ大丈夫?」
 鈴和がもう一度声を掛けるとサツキは
「この大学って……あたしの仲間がヒロポンをかなり売った所なの。大分中毒者が出たって聞いたわ。だから入り難いのと、その時に聞いたのだけど、この大学には死者を蘇らせる実験をしている研究所があるって聞いたんだ。さっきの見かけた人ももう亡くなっている人なのよ」
 サツキはそう言うとうずくまってしまった。鈴和は、サツキに
「ねえ、嫌だったら答えなくてもいいけど、さっきの人って、若しかしたらサツキの恋人だったんじゃ無いの?」
 それを聞いて目を剥く二人
「鈴和、どうしてそこまで……」
 驚くサツキ
「うん、例え魂だけでも気はあるからね。あの人の出してる気にサツキの気を感じたんだ」
「そうだったの……じゃああたしもそこまで判っているなら正直に言うけど、そう、私の恋人だった人……でもお互い能力者だったけど、ある事で死んでしまったの……もう黄泉の国に居る人なのよ。だから、なんで黄泉の国からこの世界に来たのか判らないの。それと具現化した事も……」
 サツキはそう言って大学の建物の方を見つめるのだった。
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