第28話 偽物と本物

文字数 2,389文字

 鈴和は今感じた強い美樹の気に戸惑いを覚えていた。
「今の強い気は確かに美樹のだわ。でも目の前にいる美樹はだあれ?」
 そんな事が顔に出て居たのかもしれない、サツキが少し離れた所で自分を呼ぶのが判った。
鈴和は、康子とそれから康子とじゃれあってる美樹に判らない様にそっと近づいて
「サツキもさっきの強い気を感じた?」
 そう訊いてみるとサツキも
「鈴和も感じた!?  やはりね……どういう事だと思う?」
 小声で鈴和に問うと鈴和も
「もしかしたら、目の前の美樹はニセ美樹かも知れないわ?」
 そう言って、それを訊いたサツキは
「証明は?  見て、感じる限りは本物なんだけど……」
 そう言いながらため息をついた。鈴和は
「サツキ、私、トイレに行くふりして、さっきの強い気の後を追ってみるわ。連絡はテレパシーでするけど、バレると困るので、符丁で言うね」
「符丁? ……ああ、暗号ね」
 サツキは一瞬戸惑ったがすぐに理解した。
「こっちの美樹がニセモノだったら、クロ!  本物だったらシロ! って思って伝えるからね」
 そう言うと
「康子、美樹、私、ちょっとトイレ行ってくるから」
 そう言うと鈴和はその場を離れたのだった。
 一方、本物の美樹は……
「あんた達みたいな女の子の気持ちを踏みにじる様な輩は天が許してもわたしが許さないからね」
 そう言うと自分のスカートの中に手を入れてナイフを取り出すそうとしたが、そこに無いのに気がついた。
「ふふふ、何回も引っかかりはしないよ。ちゃんと君が寝ている間に君の太腿から外しておいたからね」
 男はそう言うと美樹のジャックナイフを取り出してみせた。
「返しなさいよ。それあたしのなんだから」
 そう言ってはみたものの、返すはずが無いとは美樹も思っていた。ナイフを手にした男は美樹に少しずつ近寄って来る。美樹は後ずさりしながらも、男の行動の隙を見ていた。その時だった。
『ここだわ』
 という声がドアの向こうから聞こえる。男が視線をドアにやった途端に美樹は男の両足にタックルを試みた。
「あっ!こいつ!」
 そう言って男が倒れた時、ドアが蹴破られ、鈴和が飛び込んで来た。
「鈴和! どうしてここが」
 美樹が興奮してそう叫ぶが、美樹は倒した男に馬乗りになっていたのだ。
「あら美樹、お楽しみだったの?」
 そう言う鈴和に美樹は
「そんな訳無いでしょう! わたしだって選ぶ権利はあるわ」
「クソ! 仲間か、あいつ何やってんだか……」
 男がそう吐き捨てる様に言うと鈴和はサツキにテレパシーで「クロ」とだけ伝えた。そして気で男の両手を縛り、更に美樹の持っていた細いが本物のチェーンで手首も結いたのだ。
「あんた、ナイフだけじゃ無いんだ。そんな物まで持って歩いてるの?」
 鈴和が呆れるとも感心して言うと美樹は
「そりゃそうよ。ナイフの為にスカートだって鈴和達みたく、たくし上げて無いんだから」
 そう言って自分の制服のスカートの裾を持ち上げた。
「一見超真面目に見えるものね。違うけど」
「最後は余計!」
「はいはい、じゃこいつ皆の所に連れて行こう」
「うん、そうしよう」
 そう言って二人はその部屋をでたが、そこは校務員さんの控室だった。それを見て鈴和は
「校務員さんも仲間なのかな?」
 そう思ったが、今はサツキと康子の元に行かないとならないと思った。
 サツキはいつこっちが正体に気がついて居る事がばれないか気が気で無かった。神城は楽しげにニセ美樹と康子と会話をしている。どうも良く見ると神城は康子が気になっているみたいだった。
「そうか、神城さんは気がついているんだ。それで、やたらニセ美樹に親しくしてる康子が気になるんだ」
 サツキはそう理解をして、自分は少し離れた場所に居た。やがてサツキに鈴和からテレパシーで、すぐ後ろに捕虜を捕まええている。と連絡が入った。それを信じ後ろを振り返ると本物の美樹と鈴和それに結かれた男が立っていた。
 その時だった神城が、ニセ美樹と戯れている康子を、強引にさらって、引き離しに掛かった。
「な、なにを?」
 そう言いかけて、ニセ美樹は視線の隅に、鈴和達を認めたのだった。
「馬鹿ねえ、ドジって」
 そうニセ美樹は言うと元の姿に戻り、目の前のサツキ目掛けて気で出来たナイフの様なものを投げつけて来た。シュッ!と音がしてサツキの脇をナイフが抜けて行く。サツキはそれを横っ飛びに避けながら、自分も気を放出して対抗する。神城は康子を抱いて、離れて行く。サツキは康子が安全圏に去ったのを確認すると
「さあ、ニセ美樹、あたしが相手だからね。覚悟するんだよ」
 そう言ってサツキは薄笑いを浮かべる。男は
「ふん、こうなったらこちらも本気を出そうかな」
 そう言うと何やら手を振り下ろすとそこから放出された気が周りを包んでしまった。
「何これは、鈴和も神城さんも見えないじゃない」
 サツキはそう叫ぶと男は
「ふん、この結界の中は俺の能力『なりすまし』の世界だ。君はこの結界の中では俺を認識出来なくなるのさ」
 そう言って男はその姿を消したのだった。サツキは自分の気を張り巡らせて結界の中をサーチしていたが、ようとしてニセ美樹になった男の存在は判らなかった。
 鈴和はサツキが危ないと見て自分も結界に入って行こうとしたが、その時神城が
「鈴和ちゃん、康子ちゃんと美樹ちゃんを頼む。それからその男もちゃんと見張っていてくれ。今からこの辺僕の『支配』の結界に入れるから」
 そう言って、それまで抱きしめていた康子を鈴和に渡した。
「この結界ごと『支配』に入れてしまうの?」
 そう鈴和が訊くと神城は
「ああ、その方がてっとり早い」
 そう言ったかと思うと何やら軽く表情を歪めたのだった。次の瞬間、世界が変わった……
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