第33話 達也の能力

文字数 1,999文字

 鈴和はサツキに
「さっきの人物が入って行った場所も判っているから、そこがどのような研究をしてるか調べましょうよ」
 そう言うとサツキもやっと正気に戻った様で
「うん、そうしようか……でも又逢えるかな?」
 サツキはそう言って大学の構内を見つめていた。
 三人はそのまま組織の本部に向かった。この中で康子だけが初めてである。嫌でも期待に胸が膨らむ。何時もの様に顔パスで中に入ろうとすると、康子の事を訊かれたので
「神城剛志の代理で婚約者です」
 鈴和がそう紹介すると、そのまま入れた。勿論、わざわざ停めたのは、康子のデーターを記録する為である。この一瞬に気を含め霊的なデーターや外見も全て収められてしまった。これは偽物は侵入するのを防ぐ為である。
「ボスは居る?」
サツキと鈴和が同時に訊くと受付嬢は
「はい、会長室にいらっしゃいます。通知しましょうか?」
「お願いします」
 鈴和はそう言ってそのまま、そこを通りぬけて会長室に上がって行った。会長室のドアをノックすると秘書が
「どうぞ」
 と言うので中に入り
「ボスに会いたいのですが」
 要件を伝えると秘書は
「丁度良かったです。会長もお二人を呼ぶ処でした」
 そう言うので、そのまま奥の部屋のドアをノックすると
「どうぞ」
 と言われたのでそのまま中に入った。
 部屋では達也が会長の椅子に座っていて
「良かった。先程の事で二人を呼ぼうとしていた処だったんだ」
 そう言って応接のソファーを進める。三人が座ると先程の秘書がコーヒーを持って来てくれた。
「実はね、さっきの霊魂が具現化するか?  という事について色々と調べたんだが、霊能者が短時間自分の霊力で具現化する以外に、これを物質化する研究をしている、ある大学の研究所がある事が判ったんだ」
「ボス、そんな研究をしている所があったのですか?」
 サツキが思わず訊くと達也は
「そう、あったんだ。それも以外とすぐ近くでね。東山大学の『綾瀬物質研究所』という所なんだ」
 達也が言った事を聞いて鈴和は、やはり先程の所だと思った。あそこでどのような事が実際に行われているのだろうと、思うのだった。
「お父さん、その研究の事は判ったの?」
 鈴和が訊くと達也は
「詳しくは判らない。なんせその研究所に外部から研究中に入って見たものがいないからね。外部の話を訊いて想像するしか無い。噂の段階では、亡くなった死者の霊魂を何らかの形で具現化させるのだそうだ。エクトプラズムなども一種の具現化とも言えるが、どうもそれとは違う様だ」
 達也は霊能者としての自分の意見もあわせて鈴和に伝えた。
「じゃあ、お父さんは、霊魂を具現化出来るの?」
 そう言った鈴和の言葉に達也は
「ああ、しかし短時間ならな」
 そう言って
「見たいか?」
 と笑ってみせた。鈴和は
「出来たら見てみたい」
 そう言った目は真剣だった。
「じゃあちょっとだけ見せてあげよう」
 そう達也が言うと、両手を合わせて意識を統一し始めた。暫くすると、その両手の間が光り始めた。達也の集中力が増すと、光も益々大きくなる。段々それは大きくなりちょっとした水辺で遊ぶビニールのボール程の大きさになった。そして、その中に達也は誰かの霊魂を入れた様である。次の瞬間その光は形を持った物体と化していた。
「俺の守護霊のひいばあちゃんだ」
 達也の紹介にひいばあちゃんは
「おう、鈴和か、何時も活躍をみているぞい」
 そう言ってニコニコしている。
「ひいばあちゃん!  私にとってはひいひいばあちゃんだけどね」
 そう言って鈴和も笑っている。それを見たサツキも康子も自分の見ているものが俄には信じられなかった。
『あるんだ、確かに目に見えなくても存在するんだ……』
 サツキはそう思い、康子も納得するのだった。やがて光は収縮してひいばあちゃんも消えて見えなくなって行った。サツキは
「凄いです。でも私が見たのは、もっと普通の人の様な感じだったのです」
「そうか、それじゃ、何か全く霊的なものとは関係無い事で具現化しているのだな」
 達也は暫く考えていたが、
「鈴和、それにサツキ、君たちに任せるから突き止めてみなさい。もしこれが広まって、死者が蘇って普通にウロウロされたら混乱を引き起こす。それは組織としても避けなければならない。必要なら別に応援も出すから、まずはじめに自分達でやってみなさい。神城くんも付けるから、康子ちゃんもお手伝いしてね」
 達也はそう言って三人を励ましたのだった。組織から帰って来て三人は行動の計画を練る。場所は勿論何時ものファミレスで、テーブルにはパフェが乗っている。
「ねえ、サツキ、良かったらその彼氏とどうなったのか、教えてよ」
 こういう話が好きな康子がサツキにせがんでいる。サツキもとうとう康子に負けて語り出した……。
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