第38話 別れ

文字数 3,915文字

 神城は達也に連絡をして、十のテレポートの能力の強い能力者を寄越して貰った。グズグズしてると連中がやって来てしまうからである。その十人の力で物質化の機械を組織の本部にテレポートしようと言うのである。
 間もなく十人が集まり、神城の命令通りに機械を囲むと皆が一斉に能力を発揮した。すると、結構大きな体積を持っていた物質化マシーンは十人の脳力者と一緒に消えて行った。
「さあ、これで終わりだ。でも大学側はどうするのだろう?」
 神城はそこを心配したが、鈴和が
「あのね、教授が亡くなった事はすでに大学側も了承済みで、近く研究所も整理させられるそうよ。だからあの連中は夜間に色々とやっていたそうよ」
 綾瀬教授の霊の言葉を鈴和は忠実に伝えた。
「でも、あいつらの応援が来るわよね」
 サツキが今後のことを心配する。神城が
「どうやらお見えになったみたいだよ」
 鈴和も、サツキもそしてリョウさえも異世界の能力者の気を感じていた。
 大学のキャンパスに出た鈴和達の前に三人の能力者が現れた。鈴和が見たところ、いずれもかなりの使い手では無いかと思った。如何にも強そうな感じだ。
「これはちょっと厄介ね」
 サツキはこの三人を知っていた。昔の組織で最強の五人と呼ばれた内の三人だったからだ。
「少し来るのが遅かったみたいだな。こうなりゃ、この世界の能力者を残らず片付けて、機械を貰って行く」
 ここで、鈴和はおかしな事に気がついた。そう言えばさっき母の陽子が鈴和に頼まれ、新しく結界を張ったハズだが、どうしてやって来れたのだろう?この連中は母の結界を破る程強いのだろうか?
 そう思って考えていた。
「死んで貰うよ」
 連中の一人が総叫び、気の弾を放出する。高速で発射された弾は新城の胸に強く当たった……そして砕けた……。
「うん?」
「あれ?」
 鈴和が首を傾げ、敵の能力者も唖然とした。神城が笑いながら
「鈴和ちゃん、僕が支配を発動しなかったから、変だとは思っていたんだろう?  そんなに余裕が無いのかとね」
 そう云うと鈴和も
「どういう事なの?」
 と聞き返した。
「ふふふ、簡単な事さ、こいつらはマザーの結界を破ってこちら側にやって来たが、結界を破る時に能力を格段に弱められてしまったのさ。今のこいつらは普通の人間でも腕に自身があれば勝てるよ」
 そう言って、新城は三人の後ろに素早く移動すると、あっと言う間に三人を気の縄で縛り上げてしまった。敵の連中は為す術もなかった。
「くそ! こんな仕組みになってるなんて……」
「さて、どうするの?」
 鈴和が新城に訊くと新城は
「うん、どうせこいつらは指令に失敗したからにはもう元の世界には帰れ無いな。おめおめ帰ったら、よりキツイ前線に行かされるそうだから……そうだろサツキちゃん」
 訊かれたサツキは笑いながら
「そうなの。私は嫌だったわぁ~」
 そう言って三人を見ると
「あんた達でこの程度になってしまうという事は、後は誰もこちら側にやって来れないのね」
 そう言って、陽子の作った結界の凄さに納得した。

「ほんと、どうするの?」
 鈴和が新城に訊くと新城は
「そうだな、こっちで再教育して、僕達が両親の世界に帰る時に一緒に連れて行く。どうやら生殖能力はありそうだから、男二人と女一人というのも良い組み合わせだしね。片方が活発なら、大丈夫だと思うんだよね」
 そう言って鈴和に答えた。
「さあ、こいつらを本部に連れて行って再教育だ」
 神城はそう云うと大学の門の方から親子らしき二人連れがやって来た
「お父さんと信太郎じゃ無い」
 信太郎というのは鈴和の弟で達也と陽子の長男だった。
「もう片がついたみたいだね。信太郎を連れて来たのは、この子に凄い能力があることが判ったからなのさ」
 達也の言葉に神城は
「ボス、じゃあもしかして、信太郎くんは例の能力者だったのですか?」
 そう言って興奮している。鈴和は、自分の家族のことなのに、神城が知っていて自分が知らないという事が悔しかった。
「ちょっと、私にも教えて!」
 鈴和の言葉に達也は
「鈴和、信太郎に接触してごらん」
 意味が判らなかった鈴和だが、そっと信太郎の手を取った。
「信太郎、能力を発動させなさい」
 達也に云われて信太郎がメガネの奥の目をつぶる。その時だった、鈴和は自分の能力がとてつもなく強くなっているのを感じる事が出来た。
「凄い! これが信ちゃんの能力なのね」
 鈴和の気の充実度はサツキから見ても新城から見ても良く判るものだった。
「じゃあ、この三人を念だけでテレポートしてごらん」
 達也の命令に従って鈴和は気を三人に送る。組織の地下牢にテレポートするように念を送ると三人は消えて行った。
「凄い!自分でも信じられない!」
「信太郎、もういいいよ」
 達也に言われて信太郎が力を抜くと、鈴和の能力は元に戻ってしまった。
「ああ、もう少し強いのを感じていたかったのに……残念!」
「ボス、遂にそれも自分の御子息から見つかるとは……」
 神城が達也に今迄の事を話している。鈴和もそれは知っていただけに感慨無量なのだ。その昔異世界の江戸の世界の志摩さんの弟さんがこの「補助」とも言うべき、能力者の能力を飛躍的に高める事が出来る能力を持っていて、同じ様な能力者をずっと探していたのだ。それが自分の息子だった事に新城も喜んだのだった。
「さあ、全て片付いた。帰ろう!」
 達也がそう云うとサツキとリョウが
「僕たちはどうなるのでしょうか?」
 そう訊いてきたので、それには神城が
「リョウさんはサツキさんと当分一緒に暮らしてください。それがいいでしょう。僕が生まれ故郷に帰る時に一緒に来て欲しいのです。ご存知かも知れませんが、僕の生まれ故郷は激しい人口減に悩んでいます。生殖能力が皆衰えて、その世界のもの同士では子供が出来ないのです。だから、出来たらあの機械を持って行って人口が増え始める迄、魂を具現化させておきたいと思うのです」
 神城はそう言って先程の機械を異世界に持って行く積りなのだ。きっと神城なら悪用はしないだろうし、もしそうなってしまいそうになった時にリョウの様な存在が必要なのだと鈴和は思ったのだった。
「判りました。僕でお役に立てるなら喜んで一緒に行きましょう。なんたってサツキの望みでもありますしね」
 リョウはそう言って笑ったのだった。


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それから三年後の上郷の家の庭
 そこには既に高校を卒業し、大学に進学した鈴和、美樹、それにリョウとまるで夫婦の様なサツキ、それに神城と固く手を握ってる康子がいた。
「康子は向こうの世界で教育機関に入るのね」
 鈴和がそう云うと康子は
「うん、将来のお妃だから色々と教育があるんだって、だからこっちの大学は行けないの」
 そう言ってすまなそうな顔をした。
「寂しくなるな。康子もサツキも居なくなるんだね……」
 鈴和がそう呟くと横にいた美樹が
「あたしが居るでしょう! そう思ったから同じ大学に進学してあげたんだから。ホントは大学行きたく無かったんだけど、鈴和がひとりぼっちで可哀想だと思ったから一緒の大学に行ったのよ。しかも同じ学部!」
 そう言いながら鈴和の肩を抱く。
「判ってるわよ! ちょっとぐらい感傷的になってもバチは当たらないでしょう!」
 鈴和もそう言って笑った。この楽しい会話も後少しで交わせ無くなるのかとつい思ってしまうのだった。
「皆準備は出来たかな」
 奥から達也が出て来て確認をする。
「神城家は憂に残って貰って向こうの世界との連絡をして貰います。将来僕と康子ちゃんの子供の一人に新城家は継がせます。それまでは管理も任せます」
 神城がそう云うと達也は
「憂ちゃんがこっちで恋愛して結婚という事になったら、どうする?」
「その時は子供を沢山産んで貰います」
 その言葉に家の中に居た憂も顔を赤らめて笑っていた。
「まあ、向こうに行けば僕はエルスと呼ばれますが、この世界では神城剛志ですから」
 神城はそう言って
「ボス、それにマザー、今まで本当にありがとうございます。いくら感謝しても感謝しきれません。この御礼はこれから僕が一生掛かって恩返しさせて戴きます」
 そう言って達也と陽子礼を言った。
「それと、王子の間はちょくちょく帰って来ますから」
 そう言って鈴和を安心させた。
「その時は康子も連れてきてね」
 鈴和はそれを神城に約束させた。
「ああ、大丈夫だよ」
 それからも何時までも別れを惜しんでいたが
「じゃあ、そろそろ行きます」
そう神城が決断をして、神城、康子、サツキ、リョウと並んだ。向こうからも異世界に移動出来る能力者が迎えに来ていて、新城と康子の両肩に手を置いた。サツキも片手をその肩に置き、片方の手をリョウに繋ぐ。
「準備できました」
 能力者がそう云うと神城は
「じゃ頼みます! それでは皆様さようなら」
 そう言って皆が手を振りながら影が段々薄くなっていって、やがて消えて無くなった。美樹が
「鈴和、元気ださないと、また次の事件に対処出来ないよ」
「大丈夫!パフエさえ食べられれば元気が出るんだから」
 鈴和はそう言って美樹に言い返したのだった。
「康子、サツキ、幸せになるんだよ。ずっとこっちで祈ってるからね」
 鈴和は見えない遠い空にむかってそう思うのだった。


   「超能力高校生はパフェがお好き」 了
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