第24話 知らない能力

文字数 2,275文字

 サツキは鈴和にテレパシーで何処に居るか連絡を取った。すると、「現代経済研究会」の部長の跡をつけて、部室の前に居るという事だった。
「美樹、一旦鈴和達と合流しよう!」
「うん、そうだね」
 二人は校舎の隅にある「研究会」部室に急いだ。一方、鈴和と康子は「研究会」の部室が見渡せる廊下の角に立って様子を伺っていた。
「動き無いわねえ」
 退屈に飽きた康子がつぶやく。
「そんな簡単に物事は運ばないの!」
 そんな事を言っていたら、サツキと美樹が帰って来た。鈴和は、美樹の気が乱れていて、しかも荒々しいので、何かあったと感じた。
「美樹、何かあったの? 教えて?」
 そう鈴和が言うと美樹は
「うん、大した事じゃ無いけど、顧問をつけていたら、何時の間にか後ろに廻ったらしく、私を襲ってきたの。でも大丈夫だったけどね」
 美樹はそう悪びれずに言うのだった。
「じゃあ、やったんだ!」
 そう鈴和が推測すると美樹は悪びれず
「ちょっとね、ナイフで手の甲に傷をつけただけ、そうしたらサツキが戻って来てくれて、慌てて消えたわ」
 淡々と話す美樹に鈴和は
「もう、美樹は変に度胸が良いんだから」
 そう言って呆れる。この娘は私がここで何か言ってもきっときかないだろうと鈴和は思っていたので、あえて注意はしなかった。
「それよりこっちはどう?」
 サツキが二人に様子を訊くと康子が
「全く動き無しって処」
 そう言って両手を広げる。
「そうか……どうする鈴和、顧問は完全に能力者だから、手っ取り早く二人で襲って白状させる?」
 サツキはどうやら証拠を固めて……という性格では無いようだ。
「サツキ、それじゃ美樹と康子の存在価値が無いじゃない」
 そう鈴和に言われてサツキは舌を出し
「そうか、そうだよね」
 そう言って皆で笑いあった。その時だった。
「君たち、どこの部活かな? 用が終わったら早く帰りなさい」
 そう声を掛けて来た者を見て、四人は驚いた。なんと「研究会」の顧問だ。先ほどまで、美樹が戦い、サツキが跡をつけていた人物だ。思わず美樹は物陰に隠れる。しかし、サツキは先ほどとは気が違うのに気がついた。
「違う人物?」
 思わず先ほど美樹が傷つけた左手の甲を見た。
「な、無いわ!  美樹の傷付けた傷が無い……」
 サツキは呆然と物陰に隠れた美樹を見て首を左右に振るのだった。
「どうしたのかな?」
 顧問の先生が不思議そうな顔で逆に尋ねた。美樹が出て来て
「先生、先ほど職員用のトイレに行かれましたか?」
そう訊くと、顧問は
「いいや、これから職員室から向かう処だったのだが……それがどうかしたかい?」
 そう言わては何も返す言葉が無い。
「いいえ、失礼しました。すぐ家に帰ります!」
 美樹はそう言って、他の三人もその場所を後にした。
「どういう事なんだろう?」
 美樹は不思議そうな顔をしてサツキに問いかける。
「そうねえ、気が違ったから、さっき美樹を襲った奴じゃ無いのよね」
 サツキは腕を組んで考えている。
「傷の件は?」
 そう訊く美樹にサツキは
「それもね、回復が早い能力とか……ないか……」
 そう言って笑うと鈴和が
「二人が違ってて、片方が化けてるとして、良くそうやって本物にバレないで、入れ替わり出来るわね?」
 そう言って疑問を呈した。
「そうなんだよね! それも謎なのよね」
 サツキは鈴和に言われる迄も無く、その事は疑問に思っていた。すると、今まで黙っていた康子が
「ねえ、お腹空いちゃった。今日はもう調査止めて帰りに何か食べて行こうよ」
 そう言うので、皆賛成して、今日は帰る事に決めた。
 四人並んで校舎を昇降口に向かって歩いて行くと、向こうから見慣れた人物が見慣れない格好で歩いて来た。
「ぷっ! し神城先輩!」
 鈴和は思わず吹き出してしまった。何と神城は西高の男子の制服の黒の詰め襟を着ていたのだ。
「全然学ラン似合いませんね!」
 笑いながら鈴和は茶化す。康子は
「鈴和、それはあんまりよ! 中々新鮮で良いと思うわ」
 あくまでも康子は神城の味方のつもりらしい。
「処でどうしたんですか? そんな格好で?」
 そう訊いたのはサツキだ。訊かれて神城は
「組織に話が上がったから、君たちだけでは心もとないので僕が来たんだ」
「それで、学ランですか!」
 美樹がニコニコしながら言う美樹も神城の事は良く知っている。
「でも、もう今日は帰る処だったのです。で帰りに何か食べようと言うことでして……」
 康子がちょっと怪しげな眼で神城を見つめる。
「そうだ、さっきの事神城さんに訊いてみましょうよ」
 サツキがそう言って神城を一緒に連れて行く事を提案する。もとより反対なぞありはしないので、神城も一緒に何処かへ行く事が決まってしまった。
「……という訳なんです」
 サツキが先ほど校舎内で起きた事を神城に手短に話す。ここは何時ものファミレスの中で、五人はそれぞれ好きなものを食べていた。鈴和は勿論苺パフェである。康子がドリア、サツキと美樹がチーズケーキである。
 神城はサツキの言った事を暫く考えていたが、やがて
「それは、『変態』か『なりすまし』かも知れないな」
 そうつぶやく様に言うと、鈴和は食べていたパフェを置いて
「神城先輩、その能力ってもしかして…‥…」
「ああ、そうなら、多分……」
 美樹も康子もサツキでさえも、二人の会話が良く判らなかったが、何か重大な秘密が二人の間にあるのだと言う事だけは理解できたのだった。
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