第16話 危機一髪

文字数 3,419文字

今、まさにサツキの刃が鈴和の喉元を裂こうとした瞬間、その刀は粉々に砕け散ってしまった。
あっけに取られているサツキをよそに、鈴和は内心助かったと思った。そこに懐かしい気を感じたからだ。
 サツキが次の攻撃を仕掛けようとしたその時、体が動かなくなってしまった。目蓋さえ動かす事は出来ないのだ。サツキはその時、圧倒的な力の差を感じ、そして恐怖さえ覚えるのだった。
そして、その時
「何とか間に合ったな。良かった」
 そう言って上郷達也が姿を表したのだ。
「お父さん!どうしてここへ?」
「神城くんから連絡を受けて、やって来たんだ。あまり無茶をするなよ。母さんも心配してるから、一度ぐらい連絡を入れろ」
 そう言って
「こいつは本部に連れて行って、洗いざらい喋って貰う。ヒロポン事件の事も含めてな」
 達也がそう言うと脇から神城と英梨が姿を表した
「鈴和ちゃん。無理はイケナイよ。今回は僕達も判ったから良いけど、一人で戦おうなんて無茶過ぎるよ、それに万全の体調じゃ無かったのだから」
 神城がそう言うと英梨も
「そうですよ、あんなに黒い気があるのに鈴和さん気が付か無い感じだったら、私達お芝居したんですよ」
 そう言って笑っている。鈴和は、そうか、自分はそれほどまで能力が落ちていたのか、と思い直し
「ありがとうね。お父さん、神城先輩、そして英梨。感謝します」
 鈴和にしては珍しく素直に頭をさげた。
「じゃあ、こいつは連れて行くから」
 そう達也が言うとサツキを連れて姿が見えなくなって行った。
「さあホテル帰りましょう! 新世界は今日は行けなくなってしまったけど」
 英梨の提案に神城も鈴和も賛成した。
「でも帰りにホテルの傍の喫茶店でパフェ食べて帰りましょうよ」
 そう言って鈴和が甘える様に言うと二人とも
「当然鈴和ちゃんの奢りだよね」と言って笑う
「うん、仕方無いね」
 鈴和も舌を出しながら言って笑ってる。
「じゃあ、わたしは、チョコパフェがいいな!」
 英梨がそう言って注文を付けると鈴和は
「はいはい、何でも頼んでね!」
 三人は喫茶店に入って行った。
 夕方のニュースは6時台の「話題の地域」と言うコーナーで紹介、放映された。神城の渡した映像がほぼそのまま使われていた。
「ほう、かなり長く映してくれたね。今後が見ものだぞ」
 画面をみながら神城が言うと、鈴和が
「番組が終わったら見に行く人が居るでしょうね?」
 そう訊くと、英梨も
「それやいますよ!わたしだったら行っちゃいますもん」
 笑いながら言うと神城が
「ほら、見てご覧!もう見に行く人がいるよ」
 そう言って窓の外を指刺す。鈴和と英梨もその方向を確認すると
「わあ、いるいる!ゾロゾロ行く!」
 英梨が興奮しながら見ている。鈴和も、ひょっとしたら、思ったより騒ぎは大きくなるかも知れない、と思うのだった。
 翌日からマンションの工事現場は一種の観光地と化してしまった。夜になると各地からお化け見たさにやって来るのだ。
 鈴和は工事現場の霊達に、人が大勢居る時は出ない事。人が少ない時に出る事。兎に角、やたら出ない様に言い含めるのだった。
 その内に段々噂は広まり、マックスも傍観出来なくなって来て、ガードマンを雇って見物人を排除し始めた。その為、見に来た者と軋轢が生じ始めた。ここまでは、神城の描いた予想通りとなっている。あとは、何時マックスに乗りこむかだけだ。
「焦る事はない」
 そう思って、三人はホテルで夏休みの課題をやっていたり、それこそ新世界に串かつを食べに行ったり、異人館見物に行ったりしていた。鈴和は異人館がとても気に行った様で
「また来たい!」と口に出していた。
 騒ぎがかなり大きくなり、マックスでも困っている頃とみた神城は大阪市中央区にあるマックスの関西本部が入っているビルの前に居た。このビルも当然M不動産所有のビルである。このビルの3~4階を使用しているみたいだ。神城はエレベーターを3階で降りて、受付に名刺を出す。
 神城のきょうの姿はビシッとしたスーツ姿で名刺には「霊能者」と肩書が書いてあり、「除霊受付ます」と書かれてあった。
 当然、神城は能力を使っていて、その結界に入った者には神城は、如何にも霊能者と思わせる貫録をしており、信用に値する雰囲気を漂わせていた。名刺と神城を見た受付嬢は「少々お待ち下さい」と言って奥に消えて行った。
 神城の名刺を見たのは、マックスの建築課の課長、石野だった。
「くそ、この事は親会社のM不動産がTV局に圧力をかけて、話題にしない様にしていたんだが、
あそこが放送しやがったからなあ……あそことはM不動産とあまりCMの取引が無かったからな」
 石野がそう呟いて考えていると、横に居た若手が
「自分が出て対応しましょうか?」
 そう言うので石野も「そうだな、取り敢えずそうして貰ってその間にMI不動産に連絡入れるわ」
 そう言うやりとりがあり、応接室に案内された神城の前にその若手が出て来た。
「どういうご用件でしょうか?」
 しらばっくれて訊くしか無いのだが、若手はその霊能者が、あまりにも立派なので気後れしてしまった。神城は「最初は若手か」と思ったが、そこはボロを出さず。
「実はおたくが建築中の『伊丹パークホームズ』ですが、最近あそこに霊が出ると言う事らしいですね。お困りじゃ無いんですか? よろしければ私どもは除霊やその他霊障を除外する仕事を請け負っております」
 そう述べて相手の反応を伺う。若手社員は「これは本物だ!」と思い、焦って
「少々お待ち下さい」
 と言ってまたまた奥に行ってしまった。
「慌ててるか……面白くなって来たな」
 そうほくそ笑んでると、今度は課長の石野が出て来た。
「お待たせ致しました。建築課、課長の石野です。伊丹は私が責任者をさせて戴いております」
そう言って名刺を出した。
 神城は、先ほどと同じ文言を繰り返して石野の出方を伺うと石野は
「幽霊が出るなんと言うのは単なる噂に過ぎません。TV局にも困った事で現在法的手段に訴える事も検討中です。そう言う訳ですので、大変有りがたいお話ですが……」
 そこまで言った時に神城は
「これをご覧になってから、検討して戴きたいのですが」
そう言って、工事現場で鈴和と英梨が撮影した動画をノートパソコンで見せ始めた。それは、被害者がマックスの手口を話してる動画で、TVで放送されたものでは無かった。
「こ、これは……」
 石野は、余りの衝撃的な映像に激しいショックを受けた。
「私は霊能者です、霊と何とでもコミュケーションを取る事が出来ます」
 神城はそう石野に言うと、パソコンからDVDを抜き出して
「この映像は差し上げましょう。よ~く検討して戴きたいですからね。いいお返事待っています」
 そう言って神城は席を立つて帰ろうとする。石野は慌てて取りすがる
「ちょっと待って下さい。今親会社と調整中ですから」
「ふん、そうかM不動産に報告済みか、若しかしたらこの様子も監視カメラで撮影されてるな。だが大丈夫だ僕の能力はそんなものでは見破る事は出来ない。この現場そのものが僕の結界なのだ。その結界の中にあるものは全て自分の思い通りの制御が出来る。つまり撮影された映像は僕の思っている映像が記録されるのだ。僕の本当の能力は『錯覚』では無い、自分の結界の中の完全な支配さ。つまり能力『支配』なんだ。これはボスとマザーしか知らない。僕の恩人の二人しか……」
 神城はそう思っていたが、拉致があかないと思い
「また、おじゃましますから、その時に良いお返事を期待しています」
 そう言い残してその場を後にした。
 残された石野と若手社員は
「どうしますか?……」
 そう言う若手社員の言葉に石野は
「業務解決コンサルタントに連絡して、あの御仁を事故にあわせろ!」
 そう指示をした。
「こう言う場合に始末してくれる為に高い金を払っているのだから」
 石野は裏の世界で始末を付ける事を選択した様である。
「判りました。すぐに連絡します」
 若手社員はそう言いって自分の机の上にある電話で、そのコンサルタントに連絡をした。
「課長、これからこちらに来るそうです」
「そうか、今に見てろよ、クソ霊能者め……」
 石野は不敵に笑うのだった。
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