第31話 神城の決断

文字数 3,369文字

 王宮の前まで来ると、神城はそこに2人の人物が立っているのが判った。この世の本当の両親だと思いだした。二人共ニコニコしている。傍まで近づくと、父である王が神城に向かって
「おお、エルス、良く帰って来てくれました。部下からお前が存命で、しかも立派に成長している事を聞かされてこの日が来るのが本当に待ち遠しかったです」
 そう言い母の王妃も
「おお、私のエルスよ、本当に美しく成長してくれました。そして今日再び会えたのを神に感謝しなければなりません」
 そう言って歓迎してくれたのだ。サツキはこの模様を一番後ろで見ていたが
「神城さんエルスというのが本来の名前なんだ」
 そう思っていた。
 神城と、サツキ、それからサイトとダイは王宮の中に案内されて中に入って行った。高い天井には天井画が描かれていた。サツキは恐らく宗教的なものだろうと理解したが、その美しさは兎も角内容は良く理解出来ないものだった。
 無造作に置かれた調度品も恐ろしく高級だと言う事はサツキにも理解出来た。王と王妃はそれぞれの座の椅子に腰掛けている。その前に神城が座っていて和やかな会話をしていた。
「お父様、御母様、私はもう長い間、別の世界で暮らしてきました。その世界での親とも思う方に大切に育てられました」
 そう神城が言うと王は
「うむ、その事は大事に思っている。一度きちんとした形で礼を言わなければならないと思っているのじゃ」
そう言って神城の気持ちを考えた。更に神城は
「私は向こうの世界では重要な立場にいます。ある家の当主となっています。この家も存続させなければなりません。ですから今暫くは向こうの世界で暮す事をお許しを願います」
 そう言って、この世界ですぐに暮す事をためらったのだ。王はそれを訊いて大層落胆したが
「そうか……今暫くは、致し方ないか。だが、ゆくゆくはこの世界に帰って来て王位を継いでくれるのだろうな?」
 そう言って神城に確かめると
「それは、大丈夫です。それに私にはすでに心に決めた人がいます。ゆくゆくはその者を妃として一緒に帰ってこようと思っております」
 王はそれを訊いて
「おお、すでにそう言うものがおるのか? それはどのような娘じゃ?」
 と神城に尋ねた。
「はい、それは私が幼い頃より良く知っている人物です。次に来る時は必ず連れて参りましょう」
 そう言って両親を喜ばせた。サツキはそれを訊いて、新城の思っている娘とは鈴和のことだと思った。
「ああ、やはり二人はそう言う関係だったんだ」
 そう思ったのだった。更に神城は王に
「私からここで提案があります。この度、この世のものが私が居る世界で非道な事をしました。
それはこの世での人口減少問題を受けての事ですが、この世の人間は精子も卵子も活性化していません。なのでこの二つでは妊娠し難くなってると思います。そこで私の所へ行儀見習とか留学とか名目は何でも構いませんが男女を寄越して欲しいのです。そこで向こうで暮らして向こうの人間と恋愛して、子孫を増やせば良いと思うのです。きっと向こうの人間の精子や卵子となら必ず妊娠して子孫が増えると思うのです。その場合、遺伝子的に優れた子が出来るのでは、と思います」
 神城の提案は王にとって以外だった。
「そうか。無理にしなくても恋愛すれば良かったのか!?」
 王は神城の提案を受け入れて、神城と一緒に何人かを選ぶ様に言いつけた。
 なんせ日曜には帰らなくてはならないので、あまりゆっくりとしている間もなかったのだが、それでもサツキはこの世界のあちこちを見学して歩いた。そしてこの世界も悪く無いと思う様になった。
「高校を卒業したら、神城さんやボスに言ってこの世界の駐在員にして貰おうかしら」
 そう考えたのだった。そして
「私だったら子孫を残せる能力はちゃんとあるし……まあ相手がいればだけどね」
 そんな事も考えていた。
 日曜の午後になり神城はとりあえず帰る事になった。
「エルスよすぐまた来るのだぞ」
 王と王妃は神城の手を取り別れを惜しんだ。帰りは一人の女性が一緒に来る事になった。
「ウイと申します宜しくお願い致します」
 髪の長い聡明そうな女性だった。勿論、神城の言った計画の最初の一人であり、向こうの世界とこちらを繋ぐ役目もするし、お目付け役m,お兼ねていた。当然王子の神城の動向もこの世界に送られる。彼女も能力者だから、一人でも行き来出来るのだ。
「それでは、とりあえず帰ります。今度来る時は婚約者を連れて来ます」
 神城はそう言うと、サツキとウイと一緒に元の世界に帰って行った。
 鈴和は日曜の夜に康子と一緒に新城邸で斎藤さんが作った苺パフェを食べていた。
「ああ、美味しい! 本当に斎藤さんの作るパフェってなんでこんなに美味しいのかしら!」
 鈴和はもうニコニコ顔で食べている。康子はそろそろ神城が帰ってくるのでは?と思ってそわそわ仕出した。その時、神城邸に庭で光が放たれた、と思った瞬間に三人の人影が現れた。
「あ、帰って来た!」
 康子はパフェを放り出すと急いで庭に出て行った。そこには新城とサツキの他に見慣れない女性が立っていた。康子は
「何あの女?  まさか神城さんの……そんなわけないか」
 そう思っていると神城が
「康子ちゃん、ただいま!」そう言って笑顔を見せてくれた。
 一緒に帰って来たサツキは康子の顔をまともに見られ無かった。
『康子、新城さんはね、貴方じゃ無くてね……』
 そう思って仕舞い、気の毒になってしまった。あんなに慕っているのに、恋って残酷だと思ったのだ。
「康子ちゃん、こちらは憂ちゃんと言ってね、行儀見習いと僕のお目付け役でやって来た娘なんだ、みんな宜しくね」
そう言って紹介した名前はウイから一応憂という漢字に変えたみたいだ。
「どうぞ宜しくお願い致します。憂と申します。十八になります」
「わあ、じゃあ私達よりお姉さんだね」
 鈴和は単純に喜んでいる。
 その晩、神城とサツキは向こうで起こった事を詳しく説明したのだった。そして、
「実はね、この次向こうに行く時は、婚約者を連れて行く事になっているんだけど……」
 そこまで神城が言った時にサツキは
『ああ、康子可哀想!』
 と真剣に思ってしまった。しかし次の瞬間サツキは耳を疑った。
「康子ちゃん。この前に僕が言った返事聴かせて貰えるかな?」
 神城が何時に無く真剣な表情で康子を見つめる。
『え、新城さん、なんで康子なの?』
 サツキはそう思いながら二人の行方を見ていた。言われた康子は耳まで真っ赤にしながら
「私の様な者でよければ……」
 それを聴いて鈴和は康子に飛びつき
「康子! 良かった。私、大丈夫とは神城先輩に言ったのだけど、今回の事があったから心配していたんだ」
 そう言って喜んだ。
「え、何? 神城さんの想い人って康子だったの!  私はてっきり鈴和だと思っていた……」
 それを聴いた鈴和は
「やだサツキ、私と新城先輩は兄妹の関係だから、そうはならないわよ」
 そう言って未だにショックが抜け切れないサツキをからかった。
「実はこの前に僕の想いを打ち明けたんだ。それで、今回の事で帰ってきたら返事を訊くという約束をしていたんだ」
 神城の打ち明けにサツキも納得したのだった。
「でも、康子じゃあ将来は向こうに住むの?」
 そうサツキが訊くので康子は
「うん、それも考えて返事したの」
 サツキは事態はそこまで進んでいたのだと思った。
「ねえ、お嫁に行って向こうに住む時に私も一緒に行って良い?」
 突然のサツキの話に今度は皆が驚いた。
「私が組織の連絡員として向こうに行けば、連絡も、それから康子が里帰りをしたいと思った時も便利でしょ。私、今回向こうへ行って、あっちの世界が気に入ってしまったの。どうから?」
 そう言って神城と康子を見ると
「そうして貰えれば僕も康子ちゃんも百人力だよ」
「私も、そうしてくれると嬉しい」
 二人の返事でそう決まった様だ。
「でも、サツキ、まだまだ先の話だよ」
「それは分かっているって!」
 そう言いって二人は笑ったのだった。鈴和はふたりを見ながらその時の事を想像していた。
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