第12話 霊の告白、悪徳業者の手口

文字数 3,014文字

 真っ暗な闇の中で鈴和と英梨は霊と対峙していた。
「そう、別にそう気を使ってくれなくても、無傷で帰るつもりだけれどもね」
 鈴和はそう言って霊を刺激する。英梨は霊が言った事は判らないが鈴和の脳内をスキャンしているので、会話が手に取る様に判るのだが
「鈴和さん強気すぎるよ」
 と思っていた。そうしたら
「大丈夫だよ英梨、心配しないで」
 と逆に返って来てしまった。
「わしらはな、騙されたのだ。このマックスと言うマンションの建築会社にな」
「それで恨みをぶつけてる訳なの?」
「黙れ! 事情も知らない癖に偉そうな事を言うな!」
「じゃあ、その時事を話してご覧なさいよ。この私にも判る様に」
 そう鈴和が言うと霊達は更に三人増えて六人になった。
 その中のひとりが徐ろに
「それでは話してみようかの」
 そう言って話し始めた……。
「わしらは、元はここに住んでいた者達じゃ。震災後は周りの家は皆新築をしてしまったが、
ここの六軒は地盤が硬かったおかげで家も修繕だけで済んだのじゃ。当然昨今ではここだけが古く感じる様になるが、わしら年寄りには家を建て替える事も出来ん。そんな時じゃ、マックスが『等価交換』で契約すれば新しく建てた新築のマンションの最低一区画、土地が広ければ二区画と交換出来ると言って来た。わしらは、将来がある訳じゃ無い。老後は便利なマンションもよかろうと言う意見になった。二区画貰えれば、そこを貸して生活費に充てる事が出来る。そう考えたのじゃ」
 話し始めた霊は鈴和の方を見ながらも何処か遠くを見ている。
「わしらは喜んで契約書にサインをして判も押した。だがイザ工事が始まると、リーマンショックだかバブルだか知らんが、土地の価格が暴落して、おまけに建築の費用が資材の高騰もあり、このままでは一区画与えられ無いと抜かしてきおった。わしらは、契約の時に一区画は完全に貰えると約束した。と言ったのだが、マックスは、そんな事は言っていないと言う。わしらは怒ったが、向こうは契約書を見せよった。そこには、土地の価格の変化については、これはその時の時価を持って相殺とする。そう書かれていてな、しかも家の取り壊しの費用は家の持ち主がそれを負担する。とまで書いておったのじゃ」
 そこまで言って霊は本当に悔しそうな顔をする。鈴和は段々気の毒になって来て
「それからどうなったの?」
「足らない金額を出してくれたら、何の問題も無く入居させると抜かしおった。要するに我々は騙されて家と土地を取られたんじゃ。悔しくても、抗議しても『契約書の通りですから』と取り合わん。
 絶望したわしらは腹いせに、このマンションの建設現場で集団自殺をしたんじゃよ。永久にこの地にマンションを立てさせない様にな……」
 そう言って霊は鈴和達に
「だから、お前さんがたには関係の無い事じゃから帰れと言ったのじゃ」
 そこまで訊いていた英梨は見えない霊に向かって
「それだからって、ここの工事現場の業者の人を傷付けていいの?良く無いでしょう!」
そう言い放つと鈴和も
「そうよ、それなら何で弁護士に相談しなかったのよ」
 そう言うと霊は更に怒り
「黙れ!  そんなのとっくに相談したわ。契約書に実印を押してあるから、どうにもならないと言い返されたわ」
 霊達は六個に別れていたが怒りが増々増えて来て一つに纏まろうとしていた。
「こうして一緒になればお前なんてなんとも無いわ」
 纏まった霊は黒い気の塊となって二人に襲い掛かる。その黒い塊が二人を飲みこもうとした時、鈴和の気の剣が黒い塊を切り裂く。声をあげる間も無く地面に叩き付けられる。
「だから言ったでしょう。相手にならないって。で、あんあたらはどうして欲しいの?」
 鈴和は霊に対して、まるで要求を訊く様な感じで問い詰めた。
「うう、あんた小娘のくせに強力だな……どうしてもマンションが立つならば、世間にこの事を公表して二度と不幸な者が出ない様にして欲しい。それからこのマンションの敷地内にわしらの慰霊碑を立てて欲しい。この二点じゃ」
 鈴和は暫く考えていたが、
「それは、そのマックスと言う会社に掛かって来てるわね。マスコミには情報を流せるけど証拠が必要ね。なんか無いの?」
 そう言うと霊達は急に弱気になり
「証拠と言ってももう契約書はもう無いし……」
 それを訊いた鈴和は肩の力を抜いて
「どうやらあんた方の言ってる事に嘘はなさそうね」
 鈴和は霊達が説明をしている間霊一人一人を霊視してその心が真実かどうかをスキャンしていたのだ。
「兎に角、今日は帰るけど。悪さはしない事。いいわね!」
そうキツく言うと六人の霊は大人しく従ったのだ。
「さあ、そこの霊達出ておいで」
 そう鈴和が言うと物陰から何人かの霊が出て来た。鈴和が霊視した処、どうやら、他所の現場でこのマックスの悪行で亡くなった人達だった。ここの他にも各所で同じ様な事をやっていたのだ。その者達の声も聞いた鈴和は
「私はそのマックスに頼まれて来た訳じゃ無く、ここの周りの住人が気味悪がってたり、下請けの工事関係者が大勢怪我したりしてる、と言うから来たので。あんた方が悪戯や工事の人の足を引っ張る様な事を辞めてくれたら、悪い様にはしないわ」
 その鈴和の提案に、そこに居たかなりの霊は賛成したのだ。
「必ずいい情報を持って来るから、大人しくしてるのよ」
 そう言って二人は工事現場を後にした。
「さて、本来の仕事はここまでだけど、マックスにお仕置きしなくちゃね」
 ホテルにほど近いファミレスで鈴和はパフェ、英梨はピラフを食べながら相談していた。
「さっき、母に事の次第を報告しておいたの。そしたら驚く事があったのよ」
「驚く事って……なんですか?」
 英梨の質問に鈴和は
「私の学校の一年先輩に神城さんて言う能力者が居るんだけど……」
「知ってます神城さん! 何回か会った事があります。素敵な方ですよね」
 どうやら英梨は神城の事を知っていた様だった。
「知ってるなら話が早いわ。彼が明日来るのよ」
 それを聞いて英梨の目が輝き出す。
「本当ですか! 神城さんが来るのですか!」
 うっとりとしている英梨に鈴和は
「あのね、遊びに来るんじゃ無いのよ。私達の仕事を手伝って貰うの」
「え~何をですか?  そう言えば神城さんの能力って知りませんでした」
「私も良くは知らなかったのだけど。今回母に聞いて、驚いちゃった!」
「何だったのですか?」
「それはね。絶対秘密だからね、判った?」
「はい! 秘密ですね」
「そう……彼の能力は『錯覚』だって」
「『錯覚』って……なに?」
 鈴和はその時の英梨の間抜けな顔を忘れないだろうと思う程、呆気にとられていた。
「錯覚は錯覚よ。相手に違うことを思い込ませる能力」
「相手に違うことを思い込ませる能力……つて事はつまり……」
「そう『必殺!騙しのテクニック』よ。明日から忙しくなるわよ。私達、大企業の秘書になるかも……」
「大企業の秘書……ですか。服なんかどうしましょうね?」
「だから、それも錯覚させるの!」
 いまいち理解できない英梨をよそに、鈴和は
「何人もの人の土地を騙して死に追いやった悪徳業者め、お仕置きしてやるんだから!」
 鈴和はワクワクしながら明日以降の事に思いを馳せるのだった。
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