【未所持8】「未所持」は文化盗用?
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はいはい違う違う。文化盗用というのは元々Cultural Appropriationの訳語で、正直言ってうまい訳とは思えないんだけど、最も広まっている語句ではあるので、この会話ではあくまで「文化盗用」という語句を使っていきましょう。
文化盗用は、複数の文化が混在していて、それらの間に力関係がある社会で問題に挙がるのよ。
そうね。よくサラダボウルに喩えられるほど様々な出自を持つ人々が暮らしているのがアメリカ合衆国だけど、政治的にも文化的にも中心を占めているのはWASPと呼ばれる人々であって、先住民やアフリカ系などの人々は劣位に立たされているという現状がある。
以前別のところで話したミンストレル・ショーみたいですね。
一部共通するところはあるんだろうけど……ところが時が現代に至ると、plastic shamanと呼ばれる人々が事件を起こした。
俗っぽく言えば「エセまじない師」くらいの意味ね。そのエセまじない師たちは、先住民の習俗を、中途半端に真似して実践したために、何人も死者を出してしまったの。
英語ではsweat lodgeと呼ばれる、サウナのような小屋に入って行う儀式の一部なんだそうだけど……高温の環境下に長時間居続けるものだから、健康状態に細心の注意を払わなければならない。先住民たちは経験を積んだ先達の指導の下でこれを行ってきた。でも、エセまじない師に先達なんていないからね。事故も起ころうというもの。
当事者ではないから想像しかできないけど……元々先住民の文化習俗は、ヨーロッパ人にとっては野蛮とか残酷とか思えるものもかなりあって、それを理由に弾圧・禁止されてきたという面もある。だから、「彼らは伝統の名のもとに人が死ぬことをしている」という認識を持たれるのはとても危険なことに感じられるんじゃないかしら。そうした誤解を招くエセまじない師を放ってはおけないわよね。
もう一つには……こうしたエセまじない師は、儀式のようなものを行うときにお金をとることがあるのよ。
本来の儀式では対価を受け取ることはないそうよ。言ってみれば、エセまじない師の金儲けのためにいいように利用されてしまっていたわけで。それに対してNOを突き付けるのは、本来の文化の担い手にとっては健全な行いよね。
こういうふうに、祖先や先達から受け継いできた文化に、勝手な意味づけをされたり、利益をむさぼられたりすることをさして文化盗用というわけ。
まず「日本」について。「民族」という観点では、日本国内に住む日本人は圧倒的マジョリティでしょ。自分が文化の中心にいすぎるから、「複数文化の力関係により生じる文化盗用」にはリアリティを感じにくいのかもしれない。それで、先住民であるアイヌの文化を侵害しているかもしれない、ということにも気づきにくかったりする。
でも、「民族」よりもっと細かい領域に視点を絞れば、共感が持てるようになるんじゃないかしら。
コンベンションの開会式で読み上げられる注意書きにそれが現れている。具体的には、
「サイコロを用いるため、賭博のように見える」
「暴力的な言動がしばしばある(「サタスペ」などに顕著)」
「特定の政治的宗教的思想の伝播に利用されたことがある」
とかね。あと、
「キャラクターになりきるとか幼稚に見える」
というのも否定できない。
文化盗用についての法整備はされていないし、そもそも文化盗用という概念自体が日本人に馴染みの薄いものだからね。疑似問題(おかしい人たちが文句つけてるだけで、なんの問題もない)だと思おうとしている人も少なくない。非常に困難ではある。
それに、文化盗用への批難はTRPGプレイヤーにとって諸刃の剣よ。
そう。TRPGのルールやシナリオの中には、他国や他文化へ勝手なイメージを押し付けているものが少なからずあるからね。そうしたものへの自己批判もしていかなきゃアンフェアになってしまう。近年のメーカーはそうしたことにも配慮しているはずよ。
すると、ルールブックなしでTRPGのまねごとをしている人たちが「表現の自由」と言い出したら、認めねばならなくなるでしょ。
こんなふうに、文化盗用にせよなんにせよ、「相手だけを縛れる都合のいいルール」なんて存在しないのよ。