【アサ4】TRPGにおけるイラショナル・ビリーフとは?

文字数 1,973文字

前回、自分自身を自由から遠ざける非合理的信念、イラショナル・ビリーフというものを見てきたけれど、今回はもっと具体的に、TRPGにおけるイラショナル・ビリーフについて考えてみましょう。
どんな方法でやっていきますか?
うーん……前回、イラショナル・ビリーフの基本形として「三大『ねば』」を採り上げたから……具体的事例を挙げて、それが「三大『ねば』」のどれに当てはまるかを検討する、ということでどうかしら。
わかりました。
あと、一つ補足。前回は、イラショナル・ビリーフの特徴として「ねばならない」を挙げたけれども、これと似たような語彙として、「当然」「当たり前」を追加しておくわね。後出しっぽくて悪いけども。
これらも柔軟性がないということですね。
ここまでを踏まえて、いよいよケーススタディに入りましょう。まずはこれを読んでちょうだい。
イラショナル・ビリーフ

「PLがどんな無理な要求をしてきても、GMはそれらに賢く対応せねばならない」

「ねばならない」ですね。
「三大『ねば』」の中ではどれにあたるかしら?
誰の発言かによっても変わってきます。GMの、自分自身への「ねば」かもしれませんし、PLの、他人に対しての「ねば」かもしれません。

前者なら「私は成功し、他人から承認されねばならない。そうでなければ私に価値はない」、後者なら「他人は『正しいこと』をせねばならない。そうでなければ彼らに価値はなく、また罰を受けるべきである」に当てはまります。

自己の信念として持つなら立派ではあるけど、「何でも対処できなければGM失格」のような思い込みに至ってしまうと、PLに振り回されたり、他のPLから苦情が来たり、そういう不具合はありそうね。

他人に対して向けるなら、それはもう攻撃的自己表現の域と言っていいでしょう。

自己を尊重するが、他者を尊重しない自己表現のことですね。
できないことを「できない」、したくないことを「したくない」と表現するのもアサーションの一部だからね。それを押さえつけようとする表現は攻撃的と言えるのよ。

次の事例行ってみましょう。

イラショナル・ビリーフ

「俺もやったんだからさ(嫌々)、お返しGMすんの、当たり前だよなぁ
ないです(食い気味)
他人にGMを強要してはいけない(戒め)

そもそもGMをやるかどうかは各人の自由だし、「GMをやれば見返りが来る」という信念も非合理よね。その上、そうした見返りを自分に与えない相手を、暗に非難しているわけだから、これもやっぱり攻撃的自己表現と言える。しかも、直接的な攻撃ではなく、潜在的に他人を操作しようとしているわけで、攻撃的の中でも操作的自己表現にあたるでしょう。

【アサ1】で言っていたmanipulativeがやっと出てきましたね。

「三大『ねば』」の中では、「他人は『正しいこと』をせねばならない。そうでなければ彼らに価値はなく、また罰を受けるべきである」に当てはまるということで。

じゃあ最後に。今まで見てきたのはイラショナル・ビリーフだけど、これらをラショナル・ビリーフに変えていこうとすると、どうなるかしら?
ラショナル・ビリーフの特徴は、「であるにこしたことはない」「とは限らない」「大抵の場合」などでしたね。えっと……。
イラショナル・ビリーフ

「PLがどんな無理な要求をしてきても、GMはそれらに賢く対応せねばならない」

ラショナル・ビリーフ

「PLがどんな無理な要求をしてきても、GMがそれらに賢く対応できるにこしたことはないが、必ずしもそうとは限らない。もしできなかったとしても、それがGMの無能の証明になるわけではない」

こんな感じでどうでしょうか。
いいゾ~これ。もう一つのほうはどうかな?
そうですね……。

イラショナル・ビリーフ

「俺もやったんだからさ(嫌々)、お返しGMすんの、当たり前だよなぁ?」

ラショナル・ビリーフ

「お返しGMをしてもらえるにこしたことはないが、当たり前ではない。GMをするかどうかは当人の自由であり、それを何らかの義務であるかのように言ってくる相手は、イラショナル・ビリーフを抱いているのだと理解できる」

できました。
ここで重要なのは、自己にせよ他者にせよ、イラショナル・ビリーフをそれと認識できるようになったことよ。

「あなたのそれは非合理ですよね」と、口に出して言わないにしても、思うことができるようになった。この意味は大きいわ。

そんなに大きいんですか?
ええ。何かしらの攻撃的自己表現の被害を受けているとして、その被害を認識できていなければ、対処のしようがないでしょう。心構えがあるだけでも、全然違う。特に自分が受ける精神的ダメージには大きな違いが出るはずよ。
なるほど。これはTRPGだけじゃなくて、コミュニケーションのある営為の多くに応用がききそうですね。
まあ、楽ではないんだけどね。
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登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

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