【未所持1】「ルールブック未所持」の何がいけないの?

文字数 1,999文字

「ルールブック未所持」もよく紛糾していますが、これも問いの立て方がよくないということでしょうか。
そうなんだろうけど。先に、「ルールが書かれたものに対する認識の違い」について触れておきたいの。

TRPGの経験がある人には、「ルールブックなしでプレイできるわけがない」という認識があるわけよね。

当たり前じゃないですか?
でも、TRPG以外のゲームだと……久恵里ちゃんは缶蹴りをやったことはある?
小学校高学年のときに、クラスでやたら流行ったことがありました。
缶蹴りにも一定のルールがあって、それが書かれた本も売られているわけだけど、その本を持っていないと缶蹴りはできないのかしら? クラスのみんなは本を持っていたの?
え、みんながルールを知っていれば本はなくても……缶は必要ですけど。
競技スポーツ、例えば野球ラグビーフットボールには膨大なルールがあるわけだけど、選手一人一人がルールブックを持ってプレイしているわけではないよね。

中島弘が「磯野ー! 野球やろうぜ!」と言うとき、彼が携えているものはバットとグローブであって、公認野球規則ではないわ。

だって、ルールブックを持ってたらバットやボールが持てないじゃないですか。
こんな感じで、世の中にあるゲームの多くは、「ルールブックを持っていなくてもプレイできる」のよ。一方、TRPGを「ルールブックを持っていないとプレイできない」ゲームだとするなら、ゲームとして特殊であると認めねばならない。
「ルールブックがなくてもTRPGはできる」と主張する人は、TRPGを他のゲームに近いものとして認識しているということでしょうか。
そういう可能性はある。TRPGのルールブックが「ルールが書かれたもの」だとするならば、ルールを知っている人がプレイする際には必要ないことになる。他のゲームの経験がある人がそう類推してもおかしくはないわ。
……もしかして、TRPGのルールブックって「ルールが書かれたもの」ではない?
もうすこし詳しく。
缶蹴りは缶がないとできないし、野球はバットやボールやグローブがないとできません。TRPGのルールブックは、この缶やバットやボールやグローブのようなものなのでは?
TRPGのルールブックは、実は「ルールが書かれたもの」だけではなくて、「ツール」でもあるということね。実際、ランダム表のような、ツールに近い情報が記載されていることもあるからね。

ただ、バットやグローブとは決定的に違う要素があるわ。

「複製」ですか?
ええ。それが一つ目。バットやグローブは容易に複製できないけど、ツールとしてのルールブックにはそれができる。ここで「複製」は別の紙に複写するだけじゃなくて、読んで覚えるとか、そういう広い範囲の複製を含むことに注意してね。
二つ目は?
TRPGのルールには、「調整」という働きかけがなされることがある。主にGMが、セッションの進行のためにルールの一部を省略したり、シナリオのために特別なルールを設けたりすることがあるでしょう。このことを「ゴールデンルール」などの名称で記載しているTRPGもある。
確かに、野球や将棋で、試合や対局ごとにルールを調整することはありませんね。
これ、極端な話、「TRPGでは、ルールの調整さえうまくできるなら、ルールブックに書かれたルールやツールを参照する必要はない」ということにならないかしら。
え、でも……。
ボードゲームにもそういう面がある。ボードゲームのルール説明書って結構曖昧な記述があったりするんだけど、それでも巧みなプレイヤーは、「今回はこういうルールでやってみましょう」と調整していくことができる。そのときのプレイヤー同士で合意ができていれば、ルールは調整できるし、元の「ルールが書かれたもの」の記述は無視されることができる。
それは、元になるルールが書かれているから調整ができるわけで……。
その元になるルールだって、「ルールが書かれたもの」を常に手元に置いておかなきゃいけないものなのかしら?

草野球をプレイしたことがある人は少なくないでしょうけど、みんな公認野球規則を読んでルールを覚えたわけではないでしょう。他の人がプレイしている様子を見たり、実際にやってみて場面場面で教わったりしてルールを知っていくのよね。

TRPGだったら、リプレイ文や動画がそれにあたるわけで。

……。
納得がいかない、でも何に納得できないのかがわからない、という顔ね。

じゃあ、ここまでを整理して、いったん休憩にしましょう。


1)一般に、ゲームをプレイするとき、「ルールが書かれたもの」を持ってプレイはしない。

2)TRPGのルールブックには、「ルールが書かれたもの」だけでなく、ツールとしての役割がある。

3)しかし、TRPGのルールは調整可能であり、ツールとしてのルールブックを使用しないよう調整することもできる。

はい。少し考えさせてください。
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登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

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