【未所持3】メーカーが正当な対価を得るためには?

文字数 2,106文字

ルールブック未所持者に対して、「メーカーが受けるべき対価をむさぼっている」と糾弾する向きがよくあります。
久恵里ちゃんはカラオケよく行くほう?
カラオケですか? 歌はあんまり得意じゃないので、友達に付き合って何回か……。
はい、貼ってありますね。
カラオケは、基本的に他人の作った音楽を演奏することで成り立っているわけだけど、演奏する権利……演奏権はその作者にあるわけだから、演奏するにはその作者から許可を受けなければならない。でも音楽の作者なんてごまんといるわけで、一人一人と交渉なんてとても無理。
はい。
JASRACのような団体は、音楽の作者と契約して、演奏権などの使用料を分配して支払う仕事をしている。カラオケボックスはJASRACと契約して使用料をまとめて支払えば、その先の複雑な手続きをしなくて済む。その契約の証があのステッカー。
それはわかるんですが、TRPGと何の関係が?
TRPGもまた、プレイされるごとに使用料を受け取るビジネスモデルを想定することができる……という話をしたいのよ。

「本が売れなくてビジネスが破綻する」と考える前に、「本を売るという方法によるビジネスモデルはもはや限界なのかもしれない」と考える必要があるってこと。

追加:日本の書籍業界の構造的問題について論じた記事が山本一郎氏によって書かれました。また、書籍流通が不採算化したため運送業者の撤退が相次いでいるということはかねてより報じられています。こうしたことから、「日本において紙の書籍の売上に依存したビジネスモデルでは、いずれ、欲しがっている人に届けることすらままならなくなる」ことは想像に難くありません。このことは消費者も含め業界全体で考えねばならないでしょう
うーん、でも、音楽の演奏権みたいな権利って、TRPGのプレイにはあるんでしょうか?
もし制度にその定めがないなら、作ればいいのよ。

例えば、著作権法第23条第1項は公衆送信権を定めているけど、この規定は平成9年(1997年)の法改正で新たに加わったもので、それ以前には「有線送信権」だったの。

なぜ変わったんですか?
当時の日本ではインターネットの利用が一般に普及してきて、著作物の無許可での公衆自動送信……つまりアップロードが現実的問題になってきていたからよ。

このように、その時の社会の要請に合わせて制度を改めることも、正当な手続きを踏めば可能なの。

でも、ルールブックを買った上にプレイ料金を取られるのは納得がいきません。
だったらルールブックは無料か、実費レベルの安価にすればいいのよ。

オンラインゲームだったら「基本無料でアイテム課金」なんて当たり前のようにあるし、家庭用プリンターの本体がやたら安いのも、その分インクカートリッジの値段を上げて、そちらで利益を出しているからだし。こんなふうに、収益化のポイントは動かすことができるの。

それに、コンベンションやお店のプレイスペースだったらカラオケボックスみたいに料金を集めることもできるでしょうけど、一般のご家庭で行われているものやオンラインセッションはどうなりますか?
まずオンラインセッションから議論するけど、オンラインセッションにはそれなりのプラットフォーム――具体的には「どどんとふ」や「ユドナリウム」などがあるけど――が必要なわけで、それらのプラットフォームを課金制にして、そこからメーカーに使用料を支払えばいい。不正使用に対しては法的措置をとる。音楽ではすでに行われていることよ。

一般のご家庭で行われているものは、それはお風呂の鼻歌みたいなもので、使用料を算定して請求すること自体物理的に無理でしょう。それは考慮しないことにせざるを得ない。

補足:プラットフォーム有料化について説明不足だったようなので補足します。ここで想定しているのは、「ユーザーがコストを負担する」モデルです。「プラットフォームのベンダーはメーカーに支払わねばならないが、ベンダーはユーザーから徴収してはならない」というモデルは想定していません。むしろ、現状無料で利用できるプラットフォームは、個人のベンダーの趣味や厚意で無料になっているわけで、こうした少数に負担を押し付けるモデルは公平性や持続可能性の観点で困難を抱えています。

また、比較として挙げたカラオケでは、「どの曲が何回再生されたか」を機械が計数しており、それを根拠に著作者へ使用料が分配されます。もちろんこれらの原資は、利用客が支払う料金です。

でも……反発されませんか? それこそ音楽では、音楽教室での演奏料について紛糾していましたし。
これに反発する人は、「メーカーが正当な対価を得る」ことなんて考えてないってことでしょう。それはそれで構わないけど、そうなるともう、「ルールブックを買わないのはメーカーが対価を得られないから駄目だ」という主張は説得力を失うことになるわね。

「メーカーが対価を得る」ことが目的なら、本を売る方法だけじゃないんだから。これからの時代の要請に合った方法を考えることだってできるはずよ。

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登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

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