【パ障3】もし妄想性パーソナリティの人がTRPGをしたら?

文字数 1,909文字

じゃあ、具体的なパーソナリティ障害の分類に基づいて、そうしたパーソナリティを備えた人がTRPGをしたらどんなことが起こるか、シミュレーションしてみましょう。
はい。どのパーソナリティから行きますか?
ICD-10に基づいた厚生労働省の分類で最初に出てくるのが妄想性パーソナリティ障害だから、まずこれに取り掛かってみましょう。

えーと、分類によれば……読みやすいように改行入れますね。

「この人格障害は,

  邪魔されることに対して極めて敏感で,侮辱を容認しないこと;

  疑い深くて他人の中立的又は友好的な行為も敵意があるか軽蔑しているものと受けとるという歪曲した経験をする傾向;

  配偶者又は性的パートナーの貞操に関して繰り返される正当でない疑い;及び

  個人的な権利に固執して闘争的になるセンス

 を特徴とする。

 過度の尊大におちいりやすい傾向があり,しばしば極端な自己関係づけが見られる。」

特に難しい言葉はないと思うけど、「自己関連づけ」というのは専門用語っぽいわね。
自己関連づけってなんなんでしょう?
こちらの論文に「自分に向けられたのではないかもしれない出来事に対して、自分がその出来事の対象ないし被害者であると過剰判断する自己関係づけ」という説明があったわ。つまり例えば……すれ違った人から舌打ちのような音が聞こえたのに対して、自分が非難されているのだと思い込んだりするような考え方ね。
実際のところは舌打ちでさえなかったかもしれないのにね。
そうした、他人の何気ない言動や、単なる偶然のようなことでも、自分に対して悪意の攻撃が向けられているのだと解釈してしまう心の癖が、妄想性パーソナリティというわけね。

さて、自分は世の中から攻撃されている、と思い込んだ人は、何をしようとするかしら?

反撃しようとするでしょう。
反撃のためには何が必要?
それは……強さですね。力というか。
そうね。それだからか、妄想性パーソナリティの特徴として、権力を欲しがる傾向があるようなのよ。
権力は、他人を屈服させる力ですもんね。

最初に確認した分類でも、「個人的な権利に固執して闘争的になる」とか「過度の尊大におちいりやすい傾向」とかあるものね。

精神科医の岡田尊司はこう表している。「彼らは人との信頼関係や愛情を信じられないため、人を権力や力で支配しようとする」

そういう傾向の人がTRPGをするとなると……まず、同卓のプレイヤーたちと信頼関係を築くことができないということになりますね。
そうね。他人は隙あらば自分を攻撃してくる敵でしかないわけだから。
そうした中で、自分の権力を発揮して、他人を屈服させることができれば、自分の心の安定は保たれるということになりますね。
ところで、TRPGにおいては何が権力を持つのかしら?
そうですね……。

・ルールブックまたはその作者

・経験年数の長いプレイヤー

などでしょうか。

厳密にはそれらは権力じゃなくて「権威」だと思うけど、そうね。ルールブックの有無や記述だとか、経験年数とかを持ち出して、他人を屈服せしめようとするのは、権力指向の現れなんでしょうね
逆に、屈服させたい相手の権力(もともとそんなものはない)を矮小化させようとすることもあるでしょうね。「お前いつからそんなに偉くなったんだ?」とか。
それが他人を侮蔑する行動につながる。でも認識としては、「自分こそが侮蔑されている被害者なのだ」となってしまうわけね。

あと、岡田が指摘している妄想性パーソナリティ障害の特徴がもう一つあるの。「過度な秘密主義」がそれで、要するに、自分に関する質問に素直に答えようとしない傾向ね。

素直に答えず、どうするんですか?
曖昧にはぐらかしたり、「なぜそんな質問をする」と抵抗したりするそうよ。
それもまた、信頼関係の構築にはマイナスに働きますね。
TRPGの現場では、謎解きの楽しみのために情報を伏せることはあるわけだけど、あまり何もかも隠し立てすると信頼関係が崩れてセッションが遭難しかねないからね。
ここまで、TRPGでの妄想性パーソナリティの動きをシミュレーションしてきましたけど、実際にそういう人に出会ったらどう対処したらよいのでしょうか?
その点についてはテキストにしている岡田尊司「パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか」を読んでもらいたいんだけど、かいつまんで言うと、

・深い関係にならないこと

・真向から対立しないこと

といったところね。特に相手がこだわっていることについて否定を表明するのは危険とされているから、避けなければいけない。

なるほど……次回はどのパーソナリティを扱いますか?
一応次は非社会性パーソナリティ障害を扱う予定。
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登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

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