【キャラ2】キャラクターの課題≠プレイヤーの課題?

文字数 2,294文字

前回は、ゲームにある「資源を使って課題を解決する」という仕組みを考えてみました。
それで、資源を勝手に増やされるとアンフェア、という話になったのよね。

だったら、TRPGでも、キャラクター表現で勝手に資源を増やそうとするプレイヤーには「アンフェアだ!」と言ってやれば十分なようにも思えるけど、どうもそうでもないらしい。

どうやら、TRPGの中で取り組まれる「課題」に何かがありそうですね。
チェスの「相手のキングをチェックメイトにする」という課題と比べると、TRPGの課題は曖昧なようね。
そうでしょうか? 「悪者を退治する」のような明確な課題があるものも多いようですが。「カオスフレア」とか「ガーデンオーダー」とか。
もし、「悪者を退治する」とか「怪奇現象から脱出する」という課題しかないのだったら、そのための資源は多ければ多いほどいいのだから、キャラクター表現で資源を増やそうとするのは正しい行いだということにならない?

少なくとも、ゲーム以外の分野では、使える資源を増やすのは、基本的によいことよ。

いくらでも資源を増やせてしまったら、それこそ「最初からハッピーエンドの映画」みたいなもので、困難を打ち破る達成感とか、限られた資源で課題に取り組む知的興奮とか、そういうものが殺がれてしまいます。
んん? すると「困難を打ち破って達成感を得る」とか「限られた資源で課題に取り組んで知的興奮を得る」という課題があることになるわね。「悪者を退治する」や「怪奇現象から脱出する」の他に。
そうですね。でも、課題がだんだん増えてきてしまったので、整理しておいたほうがいいように思います。
うまく整理する基準はあるかしら。
「悪者を退治する」のは、そのゲームの中のキャラクターの課題です。

「困難を打ち破って達成感を得る」のは、キャラクターの課題ではありません。プレイヤーの課題というべきでしょう。

じゃあ、前者をキャラクター課題、後者をプレイヤー課題と呼ぶことにしましょう。
はい。これで、

キャラクター表現でむやみに資源を増やすのは、キャラクター課題の解決には有利に働くかもしれないが、プレイヤー課題の達成を阻害したり、プレイヤー課題の価値をおとしめてしまう場合がある

と言えるようになりました。

それにしても、キャラクター課題とプレイヤー課題とが対立するって、不思議な感じがするわね。スムーズに理解できない人も少なくないと思う。
キャラクター課題は、「悪者を退治する」のようにルールブック上で明示されていたり、あるいはハンドアウトに「呪具を手に入れる」とか「要人を警護する」とか指定されていたりしますけど、プレイヤー課題を明示的に確認することはなかなかないでしょうからね。
プレイヤー課題については、ルールブックでも、「楽しい時を過ごす」のような曖昧な書かれ方で終始していることがほとんどなのよね。「『楽しい』とはどういうことか」「何をすれば『楽しい』と感じられるのか」ということこそが問題なのに。
でも、それを書き表そうとすると、本質主義になってしまうのでは?
そうね。「楽しい」に全人類共通の仕様書なんてないわけで。キャラクター課題が順調に解決されることを「楽しい」と感じる人もいるし、キャラクター課題が達成できないときのキャラクターの苦悩や苦痛を「楽しい」と感じる人もいるし、他人を出し抜くことで「楽しい」と感じる人もいるし。
そうなると、プレイヤー課題同士が対立を始めてしまうんですね。
ただ、そうしたときに、自分のとっての「楽しい」だけを追い求めて他をないがしろにするのは独善だし、他人と協業すること自体の意味を失うことになるわね。
何をしていけばいいでしょうか。
少なくともここまでで、

・キャラクター課題とプレイヤー課題は異なる

・プレイヤーによってもプレイヤー課題は異なる

・普遍的なプレイヤー課題は存在しない

という知見は得られたんだから、まずそのことを念頭に置くことはできる。

その次には?
あらゆるプレイヤーに普遍的なプレイヤー課題が存在しない以上、問題なのは「今ここにいる」自分と相手のプレイヤー課題よね。それらに意識を向ける。

「この人はどんな課題を目指しているのだろう?」

「それは自分の課題と同じだろうか? 違うとしたら、その違いを理解できているだろうか?」

ってね。

それから?
もし、相手の課題を観察して、「面白そうだ」と思ったら、それに乗っかってしまうのも一興。

でも、いつでも隣の芝が青いとは限らないわけで。どうしても乗りたくない課題を相手が目指していることだってある。

その時は?
「あなたが目指しているのは〇〇ですか?」と、明示的に確認すればいいのよ。その上で、メンバー全員で、その課題を目指すか目指さないかについて、合意の形成を目指す
確認に対して回答を拒まれたら?
キャラクターではなく、プレイヤーとしてのあなたの目指すものを問うています。プレイヤーとしての私たちが協業しない限りセッションは成立しません。あなたと協業するためには、あなたの目指す課題を知る必要があります」

と付け加えてもう一回尋ねる。これで回答が得られない相手とは一緒に遊ばないほうが得策だと思うわ。

でももし、プレイヤー課題を共有できるなら、その達成のために資源やキャラクター課題に調整を加えることについても、合意の形成ができる……ということですね。
そういうこと。パワープレイでもキャラクタープレイでもマンチキンプレイでも、それら自体に善も悪もない。ただ「それらを目指す」というプレイヤー課題が共有されていないままにセッションを進めることが不幸なのよ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色