【未所持2】ルールの調整はどのように行われる?
文字数 2,431文字
今までのお話で、ルールの「調整」ということが要点だと感じたので、何か役に立つものはないかと思って……。
それで、「将棋の殿様」?
そうね。そうした社会の是非は措くとして、ここでは、
家来は殿様に逆らえないという「ゲームの外側の人間関係」が、ゲームのルールを調整する、ということが起きている。
そして、どんなゲームであれ、「ゲームの外側の人間関係」から選ばれない限り、プレイされることはない。1人用のパズルなら違ってくるけどね。
そういうこと。そして、中島くんとカツオくんの2人では9人対9人の試合はできない。だったらどうやって彼らの「野球」を実現するのか、ということを、中島くんとカツオくんとで決めていくことになる。「ゲームの外側の人間関係」がルールを調整していくのよ。
うーん……そうなると、「ゲームの外側の人間関係がまだない人たちが、そのゲームによって初めて人間関係を結ぶ」場合はどうなるんでしょうか? コンベンションやオンラインセッションではそういうことが起きますよね。
えっと……「そのゲームをプレイしたい」という意志のもとに集まることです。
野球だったら、バットやグローブを掲げて、「野球やろうぜ!」と叫ぶ。缶蹴りだったら、空き缶を踏みしめて、「缶蹴りするものこの指とまれ!」と指を立てる。それに応じる人が集まる。これが最初の人間関係です。
そうね。「野球やろうぜ!」という言葉は、「その人が野球と呼ぶ何事かをしたい」という意味でしかない。その「野球」が、他の人にとって意味不明な何かではなく、他の人にとっての野球と同じものである……ということを示す記号として、バット・グローブ・ボールは働いているわけ。
これって、TRPGのルールブックにも同じことが言えないかしら? TRPGのルールブックにはツールとしての側面があるということはさっき話したよね。
えっと……誰かが「CoCやろうぜ!」と言い出したとして、その言葉は「その人がCoCと呼ぶ何事かをしたい」という意味でしかないわけですよね。でも、その人がCoCのルールブックを持っていれば、他の人は、「あの人がやろうとしているのは、あのルールブックを使って行うCoCなんだな」と理解することができます。
そうか、TRPGのルールブックはゲームをプレイする前の人間関係を結ぶ役割も持っているんですね。
それは、「持っていないことがわかる」と「持っているかどうかわからない」の2つの場合に分かれますね。
「持っていないことがわかる」の場合、「あの人はあのゲーム名のもとに何をしようとしているのか?」がわからないことになります。
「持っているかどうかわからない」場合、「あの人がしようとしているのは、私が知っているあのゲームなのか? それとも違う何かかのか?」となり、やはりわからないことになります。
いずれの場合も、「同じゲームをやろうとして集まる」という人間関係の構築には失敗するでしょうね。しかも、休憩前に久恵里ちゃんが話してくれたように、どんなルールの調整をするにしても、未調整のルールがある程度共有されていなければ調整はできないわけ。その前提となる共有ができているということを示す働きも、ルールブックは持っていることになるわ。
そうね。そして、私たちはそうした不便な人間関係を避けるという選択もできる。
「ルールブックを持ってない? じゃああんたがやろうとしているそれが、俺の知っているそれと同じって証がないじゃないか。そんな卓はごめんだね」
と突き放してしまえばいい。
それこそ、「ゲームの外側での人間関係の構築」に失敗している例よ。ゲームの内側の技法として詐術を用いることはあっても、それをゲームの外側に適用していたら、人間関係の構築なんてできないわ。
「ゲームの外側で他人を騙すような行いをする人とは一緒にゲームをしたくありません」
とはっきり言えばいいのよ。
何をしようとしているのかわからない相手と無理矢理に関係を結ぼうとするより、ずっといいと思うんだけど。このあたりは以前別の話題で触れたアドラー心理学の考え方に基づいているから、参考にしてみてね。