【パ障5】もし自己愛性パーソナリティの人がTRPGをしたら?

文字数 1,959文字

さて、今回は自己愛性パーソナリティということですが……ICD-10には「自己愛性パーソナリティ障害」という分類はありませんね。
そうなのよね。ただ、「F60.8 その他の特定の人格障害」の中に「自己愛的」が入っていて、一応含まれてはいる。DSM-5には専用の分類があるわ。
このパーソナリティの特徴はどんなものですか?
一言で言えば、「特別扱いされたがる」のが特徴ね。
が好き?
スープかも……ってやかましいわ。

自己愛性パーソナリティの特徴として、他人からの賞賛を強く求めるんだけど、それに対して、賞賛の根拠となる成功や努力への指向が釣り合っていない、というのがあるのよ。

えーと……

漫画家になりたいけど漫画を描きたくない

みたいな感じですか?

そうね。「漫画家になりたい」というのを「漫画家として他人から賞賛されたい」と読み替えればしっくり来るわね。
これに対して「だったら漫画描けよ」と言っている人も少なくないのですが、なぜ描こうとしないんでしょうか?
突き詰めていくと、アドラー心理学的な「勇気」や「人生の嘘」の問題に行き当たるんでしょうね。実際に漫画を描いて編集者に見せるというのは、他人との比較の中に自分を置くことを意味する。そこで、「デッサンが悪い」とか「練習量が足りない」とかを突き付けられることに、自己愛性パーソナリティの人は耐えられないんでしょう。漫画を描いて見せることをしなければ、こうした苦痛は避けられるからね。

さらに、パーソナリティ障害と呼べるほどのレベルになると、編集者を逆恨みするかもしれないわね。「俺の漫画の良さを何一つ理解していないくせに、なんでこんな奴が編集部でのさばってるんだ」みたく。

自己愛性パーソナリティの人にとって、他人とはなんなんでしょう?
「特別扱いしてくれる『取り巻き』とそれを邪魔する『邪魔者』」に分かれるんじゃないかしらね。

さて、漫画の話はこれくらいにして、「もし自己愛性パーソナリティの人がTRPGをしたら」のシミュレーションに入りましょう。

うーん、でもTRPGって「〇〇として賞賛されたいけど××はしたくない」という図式に当てはめにくくないですか?
その方向で考えていくと、「自己愛性パーソナリティの人はTRPGをしない」という結論になってしまうから、別の方向をとったほうがよさそうね。

さっき触れたとおり、自己愛性パーソナリティの人にとっては、「本当の自分の程度」を突き付けられることは苦痛なわけで。ここにヒントがありそうね。

TRPGではキャラクターを介して行動するから、「本当の自分の程度」をさらけ出さなくていい、という面はありますね。
裏を返せば、設定次第で、(自分なりに考えた)「いくらでも賞賛を得られるアバター」を作れてしまう、ということでもあるわね。
いわゆるマンチキンですね。
とはいえ、時々あるのよ。「本当の自分の程度」をさらけ出さなきゃならなくなる場面が。

TRPG上での「交渉」について、よく争いになるんだけど、見聞きしたことはない?

えーと……

「キャラクターに交渉技能の設定があるのだから、数値上で判定すれば足りるではないか。なぜ具体的な台詞や行動を求めるのか」

という不満が時々出ますね。

だったら、「ちょっと今思いつかないのですがいいアイディアありませんか?」とGMや他のプレイヤーに協力を求めたっていいじゃない。素晴らしいアイディアが出てくるかもしれないよ。
あっ。
誰も何も思いつかなかったとしても、それはその卓全体の限界だったんだから、何も恥じ入ることはないはずよ。

……っていう考え方と行動ができれば、その不満は不要になるんだけどね。

それなら、「本当の自分の程度」を表さなくてもできますね。
もし、「助けを求めたら負け」というメンタリティが自分の中にあると気づいたら、そのあたりよく見直してみることをおすすめします。
さて、こうした自己愛性パーソナリティの人とは、どう付き合ったらよいでしょうか。
これまで接し方については岡田尊司を参照してたけど、なんと自己愛性パーソナリティに限って「接し方のコツ」が書かれてないのよ。なので別のテキストを見ましょう。
別のテキスト?
ゆうきゆう「マンガで分かる心療内科」によれば、「批判や説教ではなく共感からスタートすること」だそうよ。
共感からスタートというと?
たとえばあなたがGMなら、

「何と言って交渉しますか?」

と聞いた後で、相手が行き詰まっているようなら、

「そんないきなり聞かれても困りますよね。でもこれはみんなの課題です。みんなで考えましょう」

と導いていくことはできる。

相手に「本当の自分の程度を晒され嘲られた」と思わせないのが重要なんですね。
そういうことね。
さて、次回は何を扱いますか?
えーと、演技性パーソナリティ障害にしようかな。
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登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

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